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【禍】作者の圧巻の想像力に脱帽

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆


〜どうやったらこんな話思いつくんだ?〜

本書は悪魔的な世界観を描く7つの短編からなる作品集である。作者である小田雅久仁さんは「残月記」で話題となった方だ。「残月記」はまだ未読なのだが、あまりにも表紙のインパクトが強い(最初見た時、ゴキ○リかと思った…)本書の方が気になり、先にこちらを読むことにした。

表紙のインパクトもさることながら、内容もかなり禍々しい。言葉選びのセンスが光るその筆力にも驚かされるが、「どうやったらこんな話思いつくのよ?」という思いが終始拭えず、そのイマジネーションにすっかり心惹かれてしまった。これは「残月記」も読むだろうなぁ。
個人的には好みな世界観なのだが、人によっては嫌悪感を持つ可能性もあるのでご注意を。


〜各話感想〜

さて、それでは、7つの短編それぞれ感想を書いていく。


○食書

ある日、本を食う女に出会ったことで、それに導かれるように本を食べ始める男の話。
物語にのめり込む、という感覚は確かに若い頃と比べて無くなったよなぁと思う。本を食べることでホントにこの物語で起こるような体験をするのであれば、僕も廃人になるまで本を何冊も食べてしまうだろう。


○耳もぐり

失踪した恋人の隣人から「耳もぐり」という奇妙な技の話を聞く男の物語。某映画に似ていると感じた。
耳もぐりについて知れば知るほど「じゃあ、こうやったらどうなるんだろう?」という疑問が湧くのだが、作者から「読者がそう考えるのは想定内」と言わんばかりに、ディテールが作り込まれている。ホントにあるんじゃね?と思わせるほどのリアリティである。


○喪色記

目の中から現れたのは夢で何度も会っていた少女だった…。
本作の中で1番ファンタジー要素が強い作品。
一歩間違えればチープな終末ものになりそうなところを、作者の筆力により幻想的で深い世界観が作られている。


○柔らかなところへ帰る

バスで出会った肥えた女に肉欲を感じ、日常が破壊される男の話。
一つ前の話が爽やかなファンタジーだったのに、いきなりどす黒肉欲アダルティックな(!?)作品が来たので、話の並びに悪意を感じた一作(笑)
柔らかなところへ、ってそういうことかい!


○農場

謎の老人から紹介された仕事は、実験的な作物を育てる、というものだったのだが…その苗はどう見ても人間の鼻だった…。
個人的にはこの話が1番好き。
地獄とはこういうところを言うのだろうか…この世界観は他では味わえない息苦しさと恐怖がある。


○髪禍

女は10万円の報酬に目が眩み、とある宗教団体の儀式にサクラとして参加するが…。
「農場」に次いで好きな作品。
儀式の描写は想像を超え、途中からなんでこんなものを読んでいるんだろうとかんがえてしまうほどおぞましくて素晴らしい。


○裸婦と裸夫

感染者に触れるとたちまち脱衣症状に見舞われる病〈ヌーデミック〉が爆発的に流行した世界の話。
これだけ妙に浮いた作品のように感じた。ゾンビ映画のゾンビが裸になった人々に置き換わった、ということになるのだが、なんとなくこの作品だけすごい肩の力を抜いて書いてるなぁと感じたのは、僕だけなのだろうか?

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