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【虐殺器官】ディテールの緻密さに圧倒される上質なSF

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜ゼロ年代最高のフィクション〜

ネットでSF小説を検索していると「ゼロ年代最高のSF小説」という触れ込みでよく見かけていた本作。前々から気になっていた作品で今回読んでみたわけだが、その没入感に圧倒されてしまった。要は最高に面白かったのだ。

戦争、内戦が本作のメインテーマであり、その世界観や作中で使われる用語などはゲームの「メタルギア・ソリッド」によく似ていると感じていたのだが、なるほど、調べてみると元はメタルギアの同人のネタとして温めていたものを膨らませて独立させたものだそうである。
ちなみに、僕自身も「メタルギア・ソリッド」の大ファンであり、ある意味その世界観を踏襲した本作は僕の琴線に刺さりまくった。
ちなみに、著者である伊藤計劃氏はメタルギアソリッド4のノベライズ作品も手がけている。

「メタルギア」シリーズのファンなら間違いなく楽しめる一作だろう。


〜緻密な構成と世界観〜

さて、本作の舞台は近未来(おそらく、2020年ごろ)。9.11以降、先進諸国はテロの脅威に対抗していた。サラエボで勃発した核兵器によるテロをきっかけに世界中で戦争・テロが激化しており、内戦による虐殺も横行していた。
主人公のシェパードはアメリカ情報軍に所属する軍人である。アメリカは各国の情報を収集し戦争犯罪人を暗殺しており、本作も内戦を引き起こしたとされる要人の暗殺のためにシェパード率いる特殊検索群i分遣隊が任務を開始するところから始まる。

SFといえば、近未来を舞台に現代の諸問題に対する警鐘を投げかける、というのがお決まりであるが、本作もその例に漏れない。テロ、自由主義経済、グローバリズム、環境破壊、貧困、個人情報とプライバシー。様々なテーマが盛り込まれており、それらを見る著者の分析力が素晴らしい。
それに加えて、舞台設定がかなり作り込まれている。政治的な動向や最新技術の仕組み、はたまた、それらの背景にいたるまでかなり詳細に語られる。「あり得る未来」の姿としてのリアリティがすごい。「核兵器が戦争を抑止する存在では無くなる」旨の記述があるのだが、ここが妙に説得力があって胸を締めつけられた。


〜非の打ち所がない傑作〜

また、主人公や登場人物たちの殺し合いの中で生まれる複雑な心理変化も巧みである。それぞれの思いが上手く絡み合い、濃厚な人間ドラマとしても、そして、謎が謎を呼ぶミステリーとしても完成度が高い。

ひさしぶりに「非の打ち所がない」と表現したくなる傑作に出会えた。実は積読の中に本作の系譜にあたる「ハーモニー」がある。こちらも今から読むのが楽しみである。

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