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アフターコロナの世界で展示会産業は生き残れるか【前編:課題の提起】

私は「展示会産業」に長いあいだ関り続けています。このコロナ禍のさなか、展示会産業も大きな試練を強いられています。直近の展示会は軒並み開催中止か延期、半年以上先の展示会も開催できるか分からない状況となり出展者や装飾会社などにも大きな影響が出ています。

展示会を所管する業界団体は、例えコロナが落ち着いたとしても「オリンピックの延期に伴う大規模展示会場の占有問題」が立ちふさがるため、今は展示会業界が確実に会場を使えるようなアプローチを行政に対して実行しているようです。

もちろん、この対応は大切。ですが、それ以上に私は「アフターコロナ」の世界において、展示会産業は従来通りの価値提供で生き残れるのだろうかという懸念を抱いています。

間違いなくアフターコロナの世界は、人々・社会・市場の価値観を変化させる。もう、元には戻らないかもしれない。

アフターコロナの世界でビフォーコロナと同じ価値提供を続けていては、展示会産業が生き残れないのではないか。だからこそ、今のうちに産業全体でアフターコロナの世界に備える準備が必要なのではないか、そう思うのです。


【1】BtoBマーケティングの「価値観」と「ルール」が変わる


従来、展示会とはBtoBマーケティングにおいて見込み客を獲得するにあたっての花形でした。年間の新規リードの大半を展示会で獲得している企業もいたほどです。

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しかし、ご存知のとおり展示会が軒並み中止になっている現在では、その機能を発揮することはできません。それどころか、オフラインのマーケティング活動は軒並み壊滅状態に陥っています。

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展示会はもちろん、不特定多数が集まるセミナーも開催できない。リモートワークが進んだがために、テレアポしても会社への電話がつながらない。対面営業などもってのほか。この状況はいつまで続くのだろう、と多くの方が不安に思っていることでしょう。

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ですが、現場で行動するマーケターや営業の皆さんは不安がっている場合ではありません。顧客を獲得しなければ事業を存続することができない。オフラインがまったく機能しないのであればオンラインに切り替えるしかないのです。

ここ最近、多くのマーケターがBtoBマーケティングのオンラインシフトに向けたの所見をアウトプットされています。そう、オンライン化は市場の流れとして必然でしょう。何しろ適応できなければ淘汰されてしまう、この流れに乗ることが出来た企業が生き残ることができるのですから。

では、このコロナ禍が落ち着いたあと、展示会に代表されるオフラインのコミュニケーションは以前のような存在感を再び獲得できるのでしょうか?

いつ落ち着くかという時期の問題もありますが、私はこのままでは元のような存在感は戻らないと感じています。

アフターコロナの世界は、これまでの世界とは異なる価値観やルールで動いていると想定しておいた方がよいでしょう。当然、展示会産業も同様です。

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ビフォーコロナの世界で存在感を発揮していた「展示会」ですが、ことウィズコロナの世界においては全く機能していません。その間に顧客はオンラインに予算やマンパワーなどのリソースを集中させます。必然的に市場はオンラインに最適化した価値観と文化を獲得していきます。

きっと、最適化できなかった企業が淘汰されることでしょう。もちろん、ウィズコロナの世界がどの程度にわたって長期化するかによっても、価値観の変動量は影響を受けるはずですが、その影響は時間が経つほど大きくなることが予測できます。

では、一度変化した市場の価値観は果たして元に戻るのでしょうか。おそらく、一度変化した価値観は後戻りしないのではないでしょうか。もし、元に戻ることを前提としているならば、それは非常に危ういことです。

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BtoBマーケティングの「あり方」自体を変えてしまう大きな要素が3つあります。この要素の動向により、価値観の変化は大きく加速する可能性があります。

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ウィズコロナの世界においても、BtoBマーケティングはその歩みを止めるわけにはいきません。だから、マーケターはそれこそ「必死のパッチ」でオンラインに適用しようとします。このままでは例年ほどの新規見込み客は獲得できないと分かっているのですから。

このような顧客の行動は、そのサポートをする企業にとっては「チャンス」とも言える状況になります。Zoomの台頭は非常に象徴的ですが、他にもオンライン商談をさらに便利にする「ツール」や「技術」が、このウィズコロナ期間中に生まれても全くおかしくはないですよね。

顧客活動のオンライン化を一気に推し進めるツールを開発できた企業は、アフターコロナの世界でイニシアチブを取ることになるわけです。きっと、今まさにそこに対する開発や技術革新に多くのリソースが割かれているのでしょう。

また、実際に「オンライン」でのコミュニケーションを実践した顧客は「意外とイケるんじゃないか」という実感を抱く可能性があります。テレワークの導入も「待ったなし」で実行したからこそ実現できた企業もあることでしょう。

一度「イケる」という成功体験を持つと、どんどん顧客のマインドがオンラインにシフトしていきます。この流れは、ウィズコロナの期間中にオンラインの「成功体験」が多く出回ることで一気に加速するはずです。

さらに、これらの変化は「ウィズコロナの期間が長ければ長いほど」市場に対して大きな影響をもたらします。ウィズコロナが長期化する。これはオンラインに適応できない企業の退場を暗示しています。

素早くオンラインに適応した企業は、他社がオンラインへのシフトに手間取っているうちに、市場のイニシアチブを獲得してしまうかもしれません。

つまり、アフターコロナとはBtoBマーケティングが「オンラインに最適化」された世界と言えるでしょう。

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そこでは、ビフォーコロナでは存在感を放っていた「展示会の価値」も急降下しているかもしれません。


【2】「リアルにはリアルにか出来ないコミュニケーションが存在する」論に潜む思考の罠


オンラインの価値向上に伴うオフラインの存在感を示す言葉としてよくこんなフレーズを聞きませんか?

「リアルな現場には、リアルでしか体感できない価値がある」

これは、事実です。リアルのコミュニケーションは唯一無二。私はイベント制作・空間制作・展示会装飾など、10年以上に渡ってリアルコミュニケーションの現場にいます。社会人生活のスタートから、途中途中で途切れながらもリアルなコミュニケーションの現場に留まり続けています。

リアルなコミュニケーションは、その場にしかない空気・肌触りをまとって、人間対人間のコミュニケーションに血を通わせます。

「リアルなコミュニケーションに価値があるという主張」そのものは間違いではありません。しかし、このロジックはリアルなコミュニケーションの現場側からの声であることが多いのです。ここに実は思考の罠が存在します。

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リアルに価値があることは事実。しかし、顧客側はリアルの価値を必要としているのでしょうか?、リアルでないと絶対に達成できないコミュニケーションがあるのでしょうか?

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この疑問を突き詰めていくと、「顧客価値の頭打ち」という現象と似た状況にあることに気付きます。(顧客ニーズの頭打ちとも表現)

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「日本製品のガラパゴス化」といったテーマは耳タコと言えるほどよく聞くテーマですよね。製品を「さらに便利に」しようと市場は動くものの「顧客はそこまでの機能を求めていなかった」というアレです。

ティファールの電気ケトルはその代表例でしょう。ポットとは「保温」機能があることが社会の常識でした。しかし、ティファールは製品から保温機能を排除し、その分お湯をとにかく早く沸騰させることに注力したうえで、従来のポットと比較すると安価な価格で市場に打って出ました。それまでの常識からするとあり得ない製品開発です。

結果はご存知のとおり、ティファールは大きな存在感を示しています。顧客が求めているものと製品の進化が釣り合っていない代表例ですね。日本では家電製品などの進化において、顧客のニーズとギャップのあるオーバースペックの製品が生み出されていると、ひと頃はよく語られました。

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この「顧客価値の頭打ち」と似たような状況がリアルとバーチャルの間で発生しています。似たような表現方法で「コミュニケーションから得られる価値」を図式化してみました。

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まず、リアルなコミュニケーションがもたらすことのできる価値は変化していません。しかし、顧客が求めるリアルの価値も変わっていません。顧客が求めるリアルの価値(期待値)を展示会に代表されるリアルなコミュニケーションが上回っているため、従来は価値があるものと見なされていました。

一方でオンライン(バーチャル)を活用したコミュニケーションの価値はウィズコロナの世界で急速に高まっています。

技術・サービスの浸透、技術・サービスを活用することに対する顧客の慣れ、技術・サービスを使わざるを得ない環境。この3つの要素が合わさってオンラインの価値を高めています。

そして、ある一定のラインまでオンラインの価値が高まると、顧客の期待値を上回ります。

リアル(オフライン)の価値が100点だったとしましょう。一方で顧客が求めているのは70点のコミュニケーションです。ここに、80点のバーチャル(オンライン)が割り込んできます。

もし、80点のコミュニケーション(オンライン)よりも100点のコミュニケーション(オフライン)を実践するためには圧倒的なリソースが必要ならば、さてどちらを顧客は選択するでしょうか。

先ほど「展示会の価値が急降下」と述べたことは、実は正確ではありません。リアルの価値は変わっていませんが、オンラインの価値が高まったがために「オフラインの価値が相対的に落ちる」ということです。

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もしかすると、オフラインの価値とオンラインの価値は既に逆転しているかもしれません。Zoomに代表されるツールが「ここまで使えるとは!」とここ数か月の間に気付き・驚いた方も多いことでしょう。

そして、オフラインが機能しないウィズコロナの社会ではオンラインにリソースを投入するほかに選択肢はないのです。結果、顧客の文化はオンラインに最適化されます。

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アフターコロナの世界になったときに、顧客にとって見込み客獲得の手段は展示会じゃなくてもよい状態となっています。オンラインでの成功体験を積んだ企業にとって、今さらビフォーコロナのようなオフラインのコミュニケーションに戻る意味はどの程度あるのでしょう。

どんなに影響が少なくとも、ビフォーコロナより予算や人的リソースは減るでしょう。となると、アフターコロナの世界では顧客は戻ってこない。戻ってきたとしても以前よりは小さなリソースを投入するのみです。

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では、「見込み客の育成」における展示会の価値はどうなのでしょう。実は、展示会の主な活用目的が「見込み客の育成」である業態も存在します。

それは、製造業系の「設備投資」にあたる製品を開発している企業です。展示会で例を挙げるならFOOMAや機械要素技術展、インターモールドなどに多く出展企業がいます。

BtoBは「案件化」までの時間が長いことはよく知られています。その中でも、「設備投資」にあたる領域はさらに案件化するまでが長期化しています。また、新規顧客がポンポン出てくる業界でもありません。さらに、商談の過程で必ず「製品の実物」を見せながら折衝することが必要になります。この環境では、必然的に展示会の活用目的が「リードの育成」になります。

例えば、展示会でのコミュニケーションにおける「見込み客の獲得」と「見込み客の育成」の力配分という視点を持ち込んでみると、獲得7:育成3という程度の設定をよく聞きます。しかし、「設備」に該当する企業はこの力配分が逆転し獲得3:育成7というケースもよく聞きます。

ならば、リアルの価値を商談のなかで以前から採用している企業にとって、展示会の価値は変わらないのではないだろうか。という疑問もわくでしょう。

しかし、この点もウィズコロナ期間中の「オンラインの価値向上」によって、相対的にリアルがどの程度求められるかは変化してくるはずです。

商談の過程で「製品の実物」を見なければいけない。これは、「常識」ですが「固定観念」かもしれません。

ウィズコロナの期間中にこの課題をオンライン側が突破した場合、設備系の見込み客育成という活用方法についても展示会の価値は相対的に低下します。

そして、市場はこの課題の突破を求めています。ウィズコロナの期間が長引けば長引くほど、この課題が突破される確率は高まるでしょう。突破できないと生きていけないのでから。


【3】アフターコロナの世界を想像しながら、展示会を再定義する


アフターコロナの世界では顧客の価値自体がシフトしているはずだから、ビフォーコロナと同じ価値観から顧客にアプローチしても展示会産業はその存在感を発揮できません。

だから、展示会はアフターコロナの世界を想像しながら、その存在を再定義するタイミングなのだと思います。

出展企業にとってもアフターコロナの世界で「展示会」をどのように活用するかは頭を悩ませるところです。「展示会」が既存の価値観である「新規見込み客獲得のための手段」のままでは、マーケティングチャネルのなかの「存在感が以前よりも落ちた」施策の一つになってしまうでしょう。

展示会産業全体の動きはオリンピックのメディアセンター問題に意識が向いているようです。

コレも大事だとは思うのですが、もっとやらないといけないことがあるんじゃないでしょうか。価値観の変化に産業全体が取り残されることを危惧しています。展示会産業に関わるプレイヤーが、それぞれの視点で、または集まって対応策を考えたいところ。

しかし、そのための解決策もあると感じています。また、多くの知恵が集まることで、もっとステキな解決策も見出せると感じています。私のアイデアは次回の更新で。まずはこの課題を共有したいと思います。


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