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九州最恐地帯・福岡県にひしめく恐怖の数々を綴ったご当地怪談本『福岡怪談』(濱幸成)収録話「姪浜駅近くの事故物件」全文掲載+コメント

決定版!
福岡県全域の実話怪談集
地元出身の作家が日常の真横に佇む恐怖を綴った戦慄の福岡裏ガイド!


あらすじ・内容

「後ろから、白い女が憑いてきてるッ…!」
最恐心霊スポットに潜む危険な怨霊 (「犬鳴峠 旧トンネルの女」より)

中洲のホストにとり憑く女の生き霊

祟る!1つの村が沈んでいる北九州の畑貯水池

志賀島に現れる四つん這いの落ち武者

殺人事件と関係が!?怨霊がとり憑く力丸ダム

怪奇現象が多発!筑後地域の心霊旅館

死と怪異をもたらす広川町の十三佛

数多の歴史名所や心霊スポットを有する九州最恐地帯・福岡県にひしめく恐怖の数々を、福岡市早良区出身の怪談作家が綴ったご当地怪談集。
・中央区にある某マンションのエレベーターで出遭う怪異「配達員」
・映画「犬鳴村」のモデルになった最恐心霊スポットの恐怖体験談4連作「犬鳴峠」
・不動産屋も入室を拒んだ危険すぎる霊障アパート「姪浜駅近くの事故物件」
・隠し部屋に霊道…ある家に纏わる戦慄の因縁「廃屋からの誘い」
・水難事故が多発するみやこ町のとある淵に纏わる哀しくも恐ろしい真相「黒い石」
――など、県内全域の本当にあった怖い話を徹底取材!

著者コメント

 はじめまして、濱幸成と申します。
 福岡県福岡市で生まれ育ち、小学生の頃に怪談本と出合ったことをきっかけに怪談の魅力に取り憑かれて怪談蒐集をはじめ、次第に自分自身でも怪異体験をしたいと思うようになり心霊スポット探索をはじめました。
 福岡県には有名どころである旧犬鳴トンネルをはじめ、優に百カ所を超す心霊スポットと呼ばれる場所があり、望む望まないにかかわらず多くの方がそれらの場所で不可思議な現象に遭遇していますし、筆者自身も現地取材を行った際に何度も信じがたい現象を目の当たりにしてきました。
 本書には怪異を体験した現場がはっきりとしている話を比較的多く収録しているので、福岡の心霊ガイド的な使い方もできると思います。
 また、もちろん心霊スポットの話だけでなく、学生、占い師、バーテンダー、ホステス、高校教員など、福岡で暮らす人々が日常の中でふとした瞬間に巻き込まれてしまった様々な怪現象を収録しております。
 福岡と言えば、ラーメン、明太子、芸能人、博多弁、ソフトバンクホークス等のイメージが強いと思いますが、本書をきっかけに怪談という一面からも福岡に興味を持っていただけますと幸いです。

本書「はじめに」より全文抜粋

試し読み1話

姪浜駅近くの事故物件  福岡市西区

 真田さんが社会人になってからの話だ。
 築上町の実家を出て福岡市内で暮らすための部屋を姪浜めいのはま駅近くで探していたのだが、車を持っていない真田さんにとって駅まで歩いて行ける場所というのは必須条件だった。
 それでいて、まだ金銭的にも余裕のない時期だったので、ある程度安い物件が良かったのだが、駅から近くて比較的安い部屋はあまり見つからず、部屋探しは難航していた。
 しかし、不動産屋と何度か話をしていくうちに数件の目ぼしい物件に的を絞ることができ、それらの物件を担当してくれていた不動産屋の女性社員の車で内覧に行くことになった。
 まずは近い場所から二軒回り、次にその日まわる中でも一番家賃の安い掘り出し物物件へと向かおうかという時、女性社員がこう切り出した。
「次の物件なんですけど、空き部屋になってから掃除を入れてないんですよ。だから料金も他よりお安くなっているんですが、こちらとしてはお勧めはしません……」
「いやいや、こっちは安ければ安いほどいいんで、見るだけでもダメですか?」
「それがその……この物件は男性社員しか案内できないことになっていまして…少しお待ちいただくことになりますがよろしいですか?」
「はぁ、いいですけど」
 幸い、不動産事務所からそれほど離れていなかったこともあり、男性社員は三軒目の物件前で待つこと十分ほどで到着し、中を見せてもらえることになった。
「少々お待ちください」
 男性社員はそう言うと、ポケットから数珠を取り出して、部屋の前で手を合わせた。
 そして、拝み終わると鍵を取り出して真田さんに鍵を渡し「さあ、どうぞ」と部屋を指した。
「え? 僕一人で入るんですか?」
「申し訳ありませんが、この部屋は私も中には入れないんですよ……」
「はぁ」
 完全にヤバい部屋だとは感じたが、ここまでしてもらっては真田さんが引くわけにはいかなくなり、完全に借りる気は失せてしまっていたが形だけでも内覧することにした。
 部屋の中に一歩足を踏み入れるとカビ臭と腐敗臭が混ざったような匂いが鼻を突いた。
〝掃除をしていない〟という言葉通り、前の住人のものであろう家財道具が散らばっており、妙な生活感を感じる。
 少し進んで右手にある風呂場を覗こうとすると、ドアの外から様子を窺っていた男性社員が声をかけてきた。
「風呂場は見ない方がいいですよ!」
 ギクリとしながら顔を正面に戻したが、時すでに遅し。風呂場の中に羽が散乱しているのが見えてしまった。
 さらに、その散乱する羽の真ん中に転がっている干からびたインコらしき物体も……。
 これはもう無理だと真田さんは早々に部屋を出て、「ここやめます」と伝えると、一緒に車に向かって歩き始めた。
 しかし、あまりの気味の悪さに急いで部屋を出てきたせいで、部屋の鍵を閉めるのを忘れていた。
「あっ! すみません。鍵を閉めるの忘れたんで、ちょっと閉めてきますね」
 早足で部屋の前まで戻ると、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込もうとしたその時。
 カチャリ
 部屋の内側から鍵が閉まった。
 真田さんは逃げるようにして車まで走った。

―了―

◎著者紹介

濱 幸成  (はま・ゆきなり)

1989年、福岡県生まれ。怪談作家、心霊探検家。国内外で1000カ所を超える心霊スポットの探索をしながら、世界の怪談蒐集も行っている。著書に『福岡の怖い話』、『九州であった怖い話』(TOブックス)等。出演DVD『怪奇蒐集者 濱幸成』(楽創舎)。「稲川淳二の怪談グランプリ2017」(関西テレビ)ほか、数々の怪談大会やトークイベントに出演。
X(旧Twitter)  @hamayukinari
Instagram @yukinarihama