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児童ホラーの気鋭・緑川聖司が綴る本当にあった怖い話『萬屋怪談録 彼岸村』 著者コメント+試し読み1話

男だけが変死する村が、西日本に実在する――(「彼岸村」より)

あらすじ・内容

児童向け怪談小説で人気を誇る緑川聖司が聴き溜めていた本物の怪異の数々を、じんわり怖い筆致で書き綴った実話怪談集。
・占い師のもとに持ち込まれた1枚の写真に写る奇妙な男「心霊相談
・虐めでケガをした少女の願い「折り鶴
・心霊スポットに行くと嬉々とする少女の顛末を綴る三作「笑顔」「あれはあかん」「ひっぱられる
・部屋の外が騒がしい、また何か起きたようだ…「事故物件ではない
・部屋で見ていた心霊番組の画面に突然割り込んできた映像「記憶にない光景
・その村では男の人が早死にするんです――西日本にあるという村の哀しい謂れ「彼岸村」など59話収録。

著者コメント

大学の卒業論文のテーマに「学校の怪談」を選んで以来、四半世紀にわたって子ども向けの怪談を書き続けてきました。大人向けのいわゆる「実話怪談」は読者として楽しんでいたのですが、それでも長く続けていると、その手の話が自然と集まってくるものです。

今回は、そんなお話を文章にまとめてみました。

ごゆるりと、お楽しみください。

試し読み1話

折り鶴

 Fさんが中学生の時というから、いまから四十年ほど前の話になる。
 同じクラスの女の子が、学校の近くにある歩道橋の階段から転げ落ちて、足を骨折した。
 担任は、大学を出たばかりの若い女の先生で、入院することになった彼女の回復を願って、クラスのみんなで千羽鶴を贈ろうと呼びかけた。
 しかし、クラスのみんなは知っていた。
 彼女はただ落ちたのではなく、同じクラスのLという女子と、その取り巻きに追いかけられて、足を踏み外したのだ。
 直接突き飛ばしたわけではないけど、Lたちのせいなのはみんな分かっていたし、学校に来たらまたいじめられるだけなので、彼女が早く回復したいとは思っていないだろう、ということにも気づいていた。
 しかし、Lが率先して鶴を折ろうと呼びかけたこともあって、誰も本当のことを言い出せなかった。
 その日の放課後から、有志が残って鶴を折ることになった。
 Lは先生の姿がなくなると、さっさと帰っていく。
 結局、クラス委員とその友だちが鶴を折って、教室の後ろにあるロッカーに入れて帰った。
 ところが翌朝、ロッカーを開けると、鶴はぐしゃぐしゃに潰されていた。
 Fさんははじめ、Lがやったのかと思ったけど、よく考えたら、そんなことをする必要はない。
 むしろLなら、完成した千羽鶴を持って、お見舞いにいくと言い出すだろう。
 その日の放課後は、完成した鶴を職員室にいる先生のところまで持っていった。
 先生はFさんたちの目の前で、鍵のかかる引き出しに鶴を入れて、「これで大丈夫」と言っていたが、翌日になって、急に千羽鶴の中止を告げた。
 偶然職員室で目撃した生徒の話によると、先生が引き出しを開けると、鶴がびりびりに破られていたらしい。
 結局、クラス委員とFさんが、先生からあずかったお金で花を買ってお見舞いにいくと、彼女はベッドの上に体を起こして、熱心に鶴を折っていた。
 そして、Fさんたちが何か聞くよりも先に、
「千羽鶴をつくってるの」
 と言って笑った。
 Fさんは、ふと足元を見て、ぞっとした。
 ベッドの下の段ボール箱に、赤い折り鶴が大量に詰まっている。
 花を渡して、早く良くなってね、と言うと、Fさんたちは逃げるように、病室をあとにした。

 三日後。Lが歩道橋から落ちた。
 それも、階段を転げ落ちたわけではなく、手すりから身を乗り出して、車道に落ちたのだ。
さいわい、車の少ない時間帯だったので、一命はとりとめたものの、入院して、そのまま転校していった。

 その後、女の子は退院して、クラスに復帰したが、学年の終わりが近づいたある日、Fさんに、
「わたし、転校するの」
 と告げた。
「え? そうなの?」
 退院してから、よく喋るようになったので、残念だな、と思いながら、
「どこへ?」
 と聞くと、女の子は、ある中学校の名前を口にした。
 Fさんは絶句した。
 それは、Lの転校先だったのだ。
 Fさんが言葉を失っていると、
「わたし、まだ許してないんだ」
 女の子は、そう言って笑ったということだ。

―了―

著者紹介

緑川聖司 (みどりかわ・せいじ)

大阪府在住。児童文学作家。2003年『晴れた日は図書館へいこう』でデビュー。主な作品に「本の怪談」「怪談収集家 山岸良介」「絶対に見ぬけない!!」各シリーズ、「炎炎ノ消防隊」ノベライズシリーズなど。共著に『京都怪談 猿の聲』など。

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