このAI時代にデジタル広告運用担当になったら何をすればいいか
この4月に入社したインターン生向けの研修として話した内容ですが、せっかくなのでまとめて公開したいと思います。ChatGPTを始めとするAI全盛時代の、新卒の方や、異動でこれからデジタル広告運用を担当することになった方の参考になれば幸いです。
結論
結論から言うと、まずは
機械に正しいデータを渡す
クリエイティブを言語化する
の2つができるようになることが重要だと考えています。そう考える理由を順を追って説明していきます。
書いている人
現在は株式会社マインディアというマーケティングDXのSaaSを扱う会社でBtoC・BtoB両方のマーケティングをしています。
「デジタル広告運用」は新卒1年目に代理店として取り組み始めて、とうとう14年目に入りました。(今年からデジタル広告やる人には1ミリも伝わらないと思いますが、新卒2年目に Yahoo! の Ver. 3 移行を食らった世代、と言うと業界長い人とは盛り上がります笑。)
がっつり運用だけやっていたのは最初の5年くらいであとは他の業務が中心ではありますが、常に片足は広告運用に入っています。
2社目はGunosyというニュースアプリの会社でマーケティングをしていたので、広告主とメディア両方の立場を同時に経験しました。
何か気になる点があればお気軽に下記twitterまでご連絡ください!
twitter @takahirostone
広告というビジネスとは
広告のビジネスは端的に言うと広告主、メディア(広告枠を持つ企業)、消費者の3者間の関係性で成り立っています。
このように、
広告主はメディアにお金を払い、広告掲載というサービスを受け取る
メディアは消費者にサービスを提供し、消費者がそのサービス(インターネット広告であれば検索エンジンやSNS等であり、テレビCMであればテレビ番組であり、交通広告であれば交通手段)を目当てに集まってくる
消費者は広告主にお金を払い、商品やサービスを受け取る
という構造になっています。言い換えると、広告主にとって広告を掲載するという行為は、広告を買って = メディアを儲からせて、商品・サービスを売る = 自分たちも儲かる、という行為にほかなりません。
広告市場全体から見たインターネット広告
電通さんが毎年発表されている「日本の広告費」を見ると、広告市場全体で7兆円(前年比104%)、テレビは1.8兆円(前年比98%)に対し、インターネットは3.1兆円(前年比114%)です。
また、インターネットはリーマンショック、東日本大震災、コロナなどマスコミ四媒体が大きく数値を落としたタイミングも含めて右肩上がりに伸び続けて2021年にマスコミ四媒体の合計を上回っています。
インターネット広告はなぜ伸びているか
1900年前後のアメリカで活躍した実業家・政治家であるジョン・ワナメーカーが言った、マーケティング業界で非常に有名な言葉があります。
マス広告やOOHが主流だった時代、広告には無駄打ちがあることは分かっていても、どの広告に無駄があるか計測し特定することは困難でした。
それが、インターネットの登場によって変わります。インターネットの世界ではログが簡単に追えるので「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どうやって」広告に接触したかが分かります。広告からコンバージョンしたかも分かります。
そのように計測が容易になり、またよりコンバージョンしやすいユーザーをターゲティングすることも容易になりました。
もちろん他にも要因はあると思いますが、こういった計測とターゲティングにおける優位性がインターネット広告を伸ばしたと言えると思います。
メディアが考えていること
当然ですが、メディアは売上を上げたいと思っています。メディアの売上は
と表されます。従来のマス広告であれば閲覧回数は正確には分かりませんので、代替指標として発行部数や視聴率が使われていました。ですが、インターネットにおいては広告の閲覧回数は正確にカウントできるので、以下のような計算式で表されることが多いです。
つまり、impression数を増やすか、RPMを上げれば売上は上がります。
impression数を増やすには流入するユーザー数やPV数を増やすか、広告の表示回数を増やすかです。が、ユーザー数やPV数は短期的に増やすことは難しく、表示回数を増やし(広告の表示枠を増やすとか)すぎるとユーザーが離れてしまいます。
一方で、RPMを高くすることにはリスクがありません。つまり、メディアはRPMを高く払ってくれる広告主に広告枠を売りたいと思っています。
広告主がやるべきこと
広告主はCPM(CPMはCost Per Milleの略で、RPMと同じものを広告主 = お金を払う側から見たときの表現)高く広告枠を買うことが求められます。そうしないとメディアが広告枠を売ってくれないので。
ではCPMを上げるにはどうすればよいのでしょうか。CPMは次のように変換できます。
最終的に得られる式は↓のものです。
つまり、CPMを上げるにはCPA、CVR、CTRのいずれかを上げれば良いことが分かります。ただし、CPAを上げてしまうと広告の費用対効果が合わなくなってしまう可能性があるので、できれば上げたくないことが多いです。
そのため、CVRとCTRを高めていくことを戦略として取るケースが多いでしょう。
CVR、CTRを上げるために広告主ができること
CVR、CTRを引き上げるためにできることは多少の違いはありますが、大きくは同じようなアクションが考えられます。
ターゲットを変える
訴求内容を変える
配信する曜日・時間を変える
配信するデバイスを変える
配信する媒体や枠を変える
クリエイティブを変える
これらは、従来は全て人の手でやっていましたが、最近は媒体の機械学習がかなり発達しているので、特に1〜5は機械に任せた方がうまくいくケースも増えてきました。人が見られるシグナルには限りがありますが、機械だと無数のシグナルを使って最適化をかけられるので(Webの広告よりアプリの広告の方がそれが顕著です)。
そして、6のクリエイティブは現状は人がやることが多いですが、これも徐々に生成系AIなどに置き換わっていきそうです。
今、人間がやるべきこと
機械に正しいデータを渡すこと
上記1〜5のようになことを媒体に任せて機械学習をうまく回すためには、機械を正しくゴールに導く必要があります。
多くの場合ゴールは売上の最大化だったりするわけですが、どうすれば売上が最大化するのかは機械は最初は知りません。なので、適切なコンバージョンポイントを設計し、それを学習させることで初めて機械は正しい方向に進んでいきます。
例えば、ECサイトを考えると、このように複数のコンバージョンポイントが考えられます。
商品お気に入り登録
会員登録
商品購入
商品購入 & その金額
継続的な商品購入金額(LTV)
などなど。
もちろん、最終的にはLTVが高いユーザーを取れた方が嬉しいのでそれをコンバージョンにしたいところなのですが、そうするとLTVの計測期間中はその値が確定せず、媒体側にデータを返すことができません。データを返せないとPDCAが回らなくなってしまいます。また、返せるデータ量が少ないと、それも機械学習がうまくいかない要因になります。
なので、こういった複数のコンバージョンポイントの中から、できる限り高精度で長期のLTVを予測できる指標を探し、媒体に返せるデータ量とそのデータが取得できる期間を考え、最適なコンバージョンを媒体に学習させる必要があります。そのために、正しくデータを計測しそのデータを抽出する能力を身に付けることが求められます。
それにはGoogle Analyticsなどの計測ツールのことを理解することも必要ですし、SQLを使ってデータを抽出することも必要になるかもしれません。
これからSQLを学ぶことも決して難しくはないので、ぜひチャレンジしてみてください。
また、「インターネットではログが簡単に追える」と言ったことと矛盾するようですが、特に昨今のプライバシー保護に関する法規制や消費者の意識変革によってプラットフォーマー(主にAppleとGoogle)は「誰が」の情報を開示しなくなりつつあります。そういったことも押さえ、何が計測できなくなっていて代わりに何ができるのかを考えていくことも重要になってきています。
クリエイティブを言語化すること
広告を配信する上でクリエイティブ制作は避けて通れません。最近ではCanvaなどを使って非デザイナーでもそこそこのクォリティのクリエイティブは作れるようになってきていますが、それでもまだまだプロのデザイナーに依頼するケースも多いです。そのため、自分が欲しいクリエイティブを作ってもらうためにはどう伝えればいいかを追究する必要があります。
また、将来的にクリエイティブを生成系AIに丸投げできるようになったときにも、基本的にはプロンプトをインプットしてクリエイティブを生成することになるので、言語化は非常に重要なスキルです。
最後に
現時点でデジタル広告運用をする上で「機械に正しいデータを渡すこと」「クリエイティブを言語化すること」の2点は絶対に必須のスキルなので、まずはそれを身に付けられると良いのではないでしょうか。
そこから先は適正や希望に合わせて、運用を突き詰めていったりクリエイティブ方面を頑張ったりデジタル広告以外のマーケティング領域を勉強したり、人によって進む道は違うと思います。
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