タカギ タカアキ

キャッチコピーやショートストーリーを作ります。(iPhoneで)写真も撮ります。 ht…

タカギ タカアキ

キャッチコピーやショートストーリーを作ります。(iPhoneで)写真も撮ります。 https://twitter.com/takagi94379

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  • note de ショート

    2000文字〜8000文字くらいの、色々なジャンルのショートストーリー(時にエッセイのようなもの)を、月10話くらいのペースで書いています。

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ココアは甘いはずなのに(note de ショート #14)

「ねえ、リコ」    僕は隣に座ってノートパソコンで作業しているリコに聞いた。   「なに?」  視線はディスプレイを見ながら、リコは耳だけをこちらに傾ける仕草をした。 「このココアさ、甘くない」 「ん? 甘いよね?!」 「いや、『甘くない?』じゃなくて、甘くない」  いつも飲むココアはとても甘いのに、さっき入れたココアは何故か甘くなかった。 「え、甘くない?」  リコは初めてこちらを見た。クリっとしてキラキラした瞳。少し茶色がかった長い髪の毛を後ろでくくり、馬

    • しあわせイコライザー④(note de ショート #22)

       朝起きると手首が痛かった。それに頭がズキズキ痛い。昨日はあの後、ケガをしないために布団の中に入ったら、そのまま寝てしまった。布団に入ってしまえば、ケガはしないだろうと思っていたけど、そうではなかったみたいだ。スマホを見ると、ハルカからいくつかメッセージが来ていた。ひとつは昨日の午後4時ごろ。 〈マサくん、大丈夫? 今わたし、コケて手首を突いてしまったけれど、全然痛くないんだ〉  あー、手首の痛みはそういうことねー。なるほど。もうひとつのメッセージは夜の9時ごろ。 〈さ

      • しあわせイコライザー③(note de ショート #21)

         土曜日の朝、と言ってももう昼前。僕は目が覚めた。昨日の夜はいつもの金曜の晩のように遅くまで音楽制作をしていて、空が青く光り始めた朝方に眠りについた。布団の波に紛れ込んだスマホを取り出すと、ハルカからメッセージが入っていた。 〈おはよ。ルナとは1時からお出かけ。今のところ特に変化はないよ〉  メッセージの時間を見ると、朝の9時だった。休みの日にハルカとメッセージをするのは初めてだけど、休みの日でも意外に早起きするんだな。僕はメッセージを返した。 〈おは。今おきた。りょー

        • しあわせイコライザー②(note de ショート #20)

           「大丈夫?」  僕はハルカが連れてこられた保健室に来た。保健師の先生がハルカの足にシップと包帯を巻いているところだった。  「大丈夫だよ。ちょっとバランスを崩しちゃっただけ」  ハルカは笑顔でそう言った。 「運動神経の良いハルカちゃんにしては珍しいわね」    処置に使ったハサミや包帯を片付けながら、先生は言った。 「どうしてコケちゃったの?」 「いつも通りに走り出したんですけど、踏切の直前で何か引っ掛けたような感じになって、足がからまっちゃって...」 「ふ

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        ココアは甘いはずなのに(note de ショート #14)

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          18本

        記事

          しあわせイコライザー①(note de ショート #19)

           放課後、いつものバーガー屋でいつものメンバーと盛り上がった後、僕は駅まで早足で歩いていた。 「ちょっと待って!」  背後から呼び止める女の人の声がしたので振り返ると、スラッと背の高いスーツを着ためちゃくちゃ美人なお姉さんがそこにいた。 「僕のことですか?」 「そうそう、君」  こんな美人に喋りかけられたことがないのと、何の用があるのか全くわからなくて、僕はとても緊張した。 「さっきのバーガー屋さんで盛り上がってたよね!」  やば!お姉さん、さっきの店にいたんだ

          しあわせイコライザー①(note de ショート #19)

          天使のすべり台を撮影する方法(note de ショート #18)

           どうして僕はiPhoneばっかで写真を撮ってるかって?  自分が「おっ」と思って、撮影したくなるようなシーンは、突然目の前に現れるでしょ。そりゃプロのカメラマンが俳優さんやタレントさんをスタジオで撮るみたいに、照明から何から良いシーンを作り上げるってことなら話は別だけど、アマチュアの写真好きにはそんなの無理。朝に職場に向かって慌てて走ってたり、仕事の帰り道にとぼとぼ歩いていたり、食事会などでたまたま隣に座った別の課の女の子がとても素敵な笑顔をしたり、踏切を横切るコロコロの

          天使のすべり台を撮影する方法(note de ショート #18)

          春は心踊る季節なのか?(note de ショート #17)

          「春は心踊る季節」 だなんて、誰が言い始めたんだろう。 「早くあったかくなって春が来て欲しいですね」 って、みんな春に何を期待してるんだ?  春が嫌いだ。  寒かった冬が終わろうとする気配を感じ取ると身体は筋肉を緩め、「もういいよ」というサインを頭に送る。吸い込む空気は花の香りをふんだんに含むようになり、あたりの景色が桃色に染まり始める。小鳥の鳴き声が耳に入るようになり、街行く人は地上から数ミリ浮いているみたいに、どこか浮かれている。ついこの前まで服を着込んで寒さを

          春は心踊る季節なのか?(note de ショート #17)

          違う人間になろうとして寝たはずなのに〜シュウの場合

           夜明けに春の鳥の鳴き声が聞こえるようになった。山の稜線は薄紫色をしていて、空には三日月がまだ出ている。朝がそこまで迫っているけれど、まだ夜が踏みとどまっている。  また眠れなかった。眠ったのかもしれないけれど、その実感が無い。ベッドに体を横たえて眠りにつこうとしても、さざなみのような睡魔が僕のところまでやってこなくて、体を右、左、と何度も向きを変えたのは覚えている。暗闇の中で目を閉じてやってこない睡魔を待ち、固着しているようで進んでゆく時間を感じながら、諦めと苛立ちが僕の

          違う人間になろうとして寝たはずなのに〜シュウの場合

          The music of the other world echoing in Tokyo 〈on the anniversary of Shinji Sato's death by the Fishmans〉〜English Version

          Toward the end of the 20th century, there was a band in Tokyo that played "music from the other side of the world. The vocalist sang most of the songs in a high tone that included a back voice, and his voice was always wavering. Behind her,

          The music of the other world echoing in Tokyo 〈on the anniversary of Shinji Sato's death by the Fishmans〉〜English Version

          東京で鳴り響くあの世の音楽〈フィッシュマンズ佐藤伸治さんの命日に寄せて〉 (note de ショート #15)

           20世紀の終わり頃、東京で「あの世の音楽」を奏でるバンドがいた。ボーカルはほとんどの部分を裏声を含んだハイトーンで歌い、その歌声はいつもゆらゆら揺れていた。その後ろでドラムは常に揺らぐことなく正確なリズムを放ち、ベースはクネクネと低音を這い回る。ふわふわと宙を漂ってどこかに飛んでいきそうになっているボーカルを、ドラムはその強固なリズムで地上につなぎ止め、ベースはその地上で気ままにダンスをしている、というバンドだった。そんな彼らの音楽は奇妙な幸福感に包まれていて、欲望が小さく

          東京で鳴り響くあの世の音楽〈フィッシュマンズ佐藤伸治さんの命日に寄せて〉 (note de ショート #15)

          ヴレ・ド・ヴレ〈vere de vere〉 (note de ショート #13)

          「このワイナリーは、建てて10年になるかな。ここで作るものは外に出して売るつもりのない。まあ、完全に道楽だよ(笑)」  そう言ってナミカワさんは笑った。小高い丘の上にある見晴らしの良い広々とした場所に、あたり一面の葡萄畑。収穫した葡萄を醸造・保管するワイナリーを、道楽で作ってしまうって...。ある所にはあるんだな。 「今まで外の人に見せたことないし、これからもそのつもりはないよ。ここを見せたのは、出来たばかりの頃に妻に見せただけだな。え? どんな反応したかって? 『しょう

          ヴレ・ド・ヴレ〈vere de vere〉 (note de ショート #13)

          ひらがなではなして(note de ショート #11)

           デパートのレセプションという仕事が、果たしていつまであるのかわからないけれど、私は3年ほどやっている。ブティックが立ち並ぶ有数のショッピング街に立つ、高級とされるデパート。その入り口で案内をするのが私の仕事。入ったばかりの頃は、先輩の水島さんから色々注意された。 「島谷さん。あなた、身長高くてスタイル良いけど、猫背気味なのはいけないわね」  スポーツもやっていないのに小さな頃から背が高く、学生の頃は男の子に一緒に並ぶことを嫌がられた。みんなと馴染もうとすればするほど背中

          ひらがなではなして(note de ショート #11)

          「月刊」タカギタカアキ 活動報告

          みなさん初めまして。 僕はタカギタカアキと言います。  現在はコンビニトラックのドライバーをしつつ、コピーライターとショートストーリー作家を目指して奮闘中です。コピーライターには20代の頃にちょっと興味があったのですが、仕事にするまでには至らずに別の仕事を始めました。それでも、雑誌の広告やテレビのCM、街中のビルボードなど、素晴らしいキャッチコピーに出会うとついつい見入ってしまうという体質でした。自分がそうなので、他の人も雑誌の見出しとか、キャッチコピーが気になるものと思っ

          「月刊」タカギタカアキ 活動報告

          瞬と純(note de ショート #10)

           チャンスはいつも終わり際にやってくる。    85分が過ぎて右サイドを駆け上がる足は、 重たいピッチに取られもつれそうだったけれども、幸運の女神が微笑むのはそういう時だ。自分の体から出尽くしたと思った汗は、乾く間も無く、また噴き出して僕の体を濡らし始めた。ヒロトが僕の左斜め後ろから、敵からぶん取ったボールを蹴り出した。ベストなタイングではないけれど、このボールを受け取れたら、敵陣深くに切り込める。サイドラインを走る僕の真横に飛んできたそのボールを、僕は小さなトラップで足元に

          瞬と純(note de ショート #10)

          人の恋路を邪魔する者は(note de ショート #9)

           僕は父親が嫌いだった。  物心ついてから気づいた事は、自分の住んでる家は父親に怯えていると言うことだった。外面は良いくせに、家族である僕たちにはきつく当たる。母は常に父親の顔色を見ていたし、父はそんな母が何をやっても褒めるなんて事はなかった。母のそんな様子を見て僕と妹は小さい頃から、この家での立ち振る舞い方を身に付けていった。  父は会社員をしていて、会社では評判が良いみたいだった。年齢を重ねるごとに昇進をしていったが、それとともに「付き合い」と言う名の飲み会の機会が増

          人の恋路を邪魔する者は(note de ショート #9)

          「Editor's postscript〈編集後記〉」〈Strangers in the underground番外編〉 (note de ショート #8)

           3ヶ月前、部長に呼び出された。 サラリーマンの世界で、上司に呼び出されるということは小言か異動かのどちらかで、どちらにしてもグッドニュースではない。それに部長からは褒められたことがない。3ヶ月に1度ぐらい呼び出され、指摘と言う名の小言をくらう。前回呼ばれたのは3ヶ月前だったから、そろそろ怒られるタイミングかと思い、部長のいる部屋に入った。 「入社して何年になる?」 「はい。4年目です」 「そうか」  小言にしてはずいぶんマイルドな入り方だし、表情も怒ってる感じではな

          「Editor's postscript〈編集後記〉」〈Strangers in the underground番外編〉 (note de ショート #8)