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「Editor's postscript〈編集後記〉」〈Strangers in the underground番外編〉 (note de ショート #8)

 3ヶ月前、部長に呼び出された。
サラリーマンの世界で、上司に呼び出されるということは小言か異動かのどちらかで、どちらにしてもグッドニュースではない。それに部長からは褒められたことがない。3ヶ月に1度ぐらい呼び出され、指摘と言う名の小言をくらう。前回呼ばれたのは3ヶ月前だったから、そろそろ怒られるタイミングかと思い、部長のいる部屋に入った。

「入社して何年になる?」

「はい。4年目です」

「そうか」

 小言にしてはずいぶんマイルドな入り方だし、表情も怒ってる感じではない。「異動か?」思って身構えて聞いていた。

「私が見ていても、編集者として力がついてきたように見える」

 少し褒めておいて異動の話を切り出す感じだな、と思って部長の話を聞いていた。

「よい評判も聞こえてくる。周りから信頼されている証拠だ」
 
 褒めるワードが続くなあ。褒められれば褒められるほど、その後に控えているバッドニュースの大きさが、どんどん大きくなるように思えた。僕は固唾を飲んで部長の話を聞いていた。

「そこでだ、君に新刊雑誌の立ち上げをやってもらいたい」

 え? ガードをしていない方向からパンチが飛んできた気分で、僕は面食らった。この出版不況と言われる時代に、新刊雑誌を出すの? うちの会社は何を考えているんだろうか?

「君も知っての通り、この業界は不況と言われて久しい。だか、不況だからといって何もしないままでいたら、状況は悪化する一方だ。我が社としては、業界の先陣を切ってこの波を切り開いていきたいと言う考えだ」

 「業界の先陣を切って」って、どの会社もヤバい状況と思ってるから、先頭を走らないだけじゃないの? 長年続いていた雑誌もどんどん廃刊・休刊して、他業種に手を出す出版社が増えていると言うのに、うちの会社の上層部はヤバいな。

「今までの考え方ではこの状況は打破できない。若い発想とパワーで新しい雑誌を立ち上げ、盛り上げていって欲しい」

 うまくいかなかったら僕のせいだし、うまくいったら恐らく発案者である部長のポイントになるだろうし、僕が噛ませ犬の状況にあるってことは誰が聞いてもわかる。でも、下っ端の僕には選択権がない。だからこそこの役回りは、若手の僕に来たんだろう。

「はい、わかりました」

 ほとんど自動的に僕は返事をしていた。

「新刊雑誌の立ち上げは今から2ヶ月後。当然、遅れは許されない」

 ずいぶんと急ぐなぁ。売り上げがともかく、新刊、雑誌立ち上げたと言う実績が早く欲しいんだろうな。そう思いながら僕は、

「はい、わかりました」

 と、自動的に返事をしていた。

「じゃあ、よろしく頼むぞ」

 部長が話を終えようとして、僕は慌てた。新刊、雑誌立ち上げるにあたって大切な要素が抜けている。

「部長、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」
 
 「何の話だ?」と言うような顔で、部長は僕を見た。

「他のメンバーは誰ですか? 何人いるんですか?」

「まずは君だけで進めてもらいたい」

 えっ? 2ヶ月後に立ち上げる雑誌を、1人でスタートさせるの? 驚きと怒りが表情に出るのを、僕は必死でこらえた。これは完全に、「新刊雑誌を立ち上げました!」と言う事実だけが欲しいんだな、と思った。僕は完全な生贄だ。

「もちろんずっと1人というわけではない。立ち上げを進めていく中で、必要とあれば人材は補充する」

 僕に1人で立ち上げさせて、うまくいったら人を増やしていくということだな。生贄で野垂れ死ぬのは1人で充分だもんな。

「とにかくよろしく頼む」

「はい、わかりました」

 僕はまた自動的に返事をしていた。

 紙の媒体を、この期間で1人で立ち上げるなんて、クレイジーにもほどがある。雑誌を立ち上げる事実が欲しいだけとはいえ、諸々の業務を僕がやらなくちゃならないことには変わりがない。まあでも、失敗してもいいといえばいいから、好き勝手やらせてもらおうか。「辛い状況でも捉え方次第で前向きに」なんて、安っぽい自己啓発系ビジネス書みたいでイヤだけど。などど思いながら、まだ所属していた部署の日々の業務に追われ、新刊雑誌のコンセプトすら決められないまま、1週間はすぐ過ぎた。

 そんな時、休日に自宅でテレビを見ていると、南海トラフ地震の話題をやっていた。「南海トラフ」と言うワードはもちろん知ってはいたけれども、詳しい内容はよく知らなかった。番組では、南海トラフ地震の起こるメカニズムや発生の可能性を伝えていた。政府の見解では、四国の南の海溝である南海トラフでのマグニチュード8〜9クラスの地震発生確率は、10年以内30%程度、20年以内60%程度、30年以内70~80%、50年以内に90%程度もしくはそれ以上と発表しているとのことだった。この数値を見ると「50年以内には南海トラフ地震が起きることはほぼ確実」と政府が考えているということだ。また、南海トラフ地震のことを省いたとしても、この国に住んでいる以上は自然災害から逃れることは、ほぼ不可能だ。水害、地震が発生することは、僕らの生活にはデフォルトで設定されている。と、その時、あるアイデアが閃いた。新しい雑誌のテーマを「サバイバル」にするのはどうだろう? もっと言うと、「都市におけるサバイバル」。自然災害がこれだけ多い国に住んでいて、自分がその災害に遭ってしまう確率はかなり高いと考えるべきだ。でも、今まで「サバイバル」と言うと、ジャングルや砂漠などの僻地での生き延び方を、言い方は悪いけど、面白半分に取り上げたものばっかりで、キャンプの延長線上のノリみたいなものばっかりだった。そうではなくて、「災害が起きた時の都市でのサバイバルを考える」という雑誌があってもいいんじゃないか? 都市でのサバイバルを真剣に、出来ればスタイリッシュに伝える雑誌...。僕はテレビを消して、企画書を作り始めた。休みの日まで仕事をするタイプじゃない僕だけれども、どうしてもすぐに形にしておかなければ、という思いに駆られた。

 次の日、出来上がった企画書を持って部長へ説明に行った。部長は細かいツッコミもなしに、二つ返事でオッケーを出した。部長にしてみれば、大事なのは新雑誌を立ち上げることであって、よっぽど変な企画でない限り通すつもりだったんだろう。それに、ここで企画を突き返したら時間がかかってしまい、新雑誌の創刊が遅れてしまう。おそらく部長は上層部に対して、新雑誌の立ち上げ期日を明言しているだろうし、それは譲れない線なんだろうと思った。

 企画のオッケーが出てから、僕はそれまでいた部署を離れ、新雑誌立ち上げの専任となった。1人で任されているのは大変ではあったけれども、誰とも意見を戦わせる必要がなく、思いついたアイディアを部長に説明し、それに部長が自動的にゴーサインを出し僕が具体化していく、という流れは何の障害もなく、スムーズでやりやすかった。レギュラー記事などの内容やそれを担当するライター、広告主なども思ったよりすんなりと進んだ。最後に残ったのは、表紙を飾るモデルの問題だった。雑誌のコンセプトからして華やかさとは無縁。今活躍しているキラキラとしたイメージのモデルやタレント、俳優などはコンセプトに合わないし、そもそもやってはくれないだろう。無名で、しかも都市で生きる強さを感じさせる被写体がどうしても欲しかった。この企画は期待されてないだろうけれども、どうせやるならば、人々の心に爪痕が残るような雑誌にしたい。そう考えると表紙はとても重要で、その表紙を飾るモデルは、従来のモデルではダメだった。でも、コンセプトを伝えてモデルエージェンシーに問い合わせをし、エージェンシーから送られてくるプロフィールファイルを開くたびに、自分の要求のハードルの高さを知るハメとなった。確かに「『無名』の新人で」とオーダーしたけれど、それは「美しくなくていい」という意味ではないし、「存在感が無い」という意味でもない。まだ世に出ていない、売れてないモデルにはそれなりの理由があるんだなと思いつつ、イメージに合うモデルが見つからずに、僕は厳しい状況に追い込まれつつあった。

 そんな時に思い浮かんだのがアキさんだった。アキさんとは、僕がまだ2年目の頃に出会った。当時、ある雑誌のグラビアページを担当していた先輩が病休してしまうことになり、短期間ではあるけれども、僕がその役割を引き継ぐことになった。そのページは、主に女優や女性タレントを掲載するページで、雑誌のコーナーの中でも人気が高かった。被写体のブッキングやカメラマンの手配、撮影スタジオのスケジュールを押さえるなど、2年目の僕にとってその役割は大変だったが、少しずつ慣れてきていた。ある時そのページで、大御所と言われる女優を撮影することとなり、僕はその手配を進めていた。何かとうるさく、厳しい女優というのは業界内でも有名で、機嫌を損ねると大変なことになるのは先輩から聞いていた。なので、先輩が作ってくれたプランに従って各所へ発注をしていたのだが....、その女優が、手配したカメラマンでは嫌だと言ってるらしいとの情報が入ってきた。こんなことがあっては嫌だったから、先輩から聞いたカメラマンさんをブッキングしたのだけれど、なぜか女優はNGを伝えてきた。カメラマンを変えないと、雑誌に出ないとまで言ってるらしい。しかし、撮影は明後日に迫っており、その女優がオッケーを出してくれそうなカメラマンさんたちは、既にスケジュールがいっぱいだった。困り果てたところに先輩がポロっと、

「そうだ!アキさんのスケジュールはどうなってる? というかお前、アキさんと仕事した事ある?」

「いや、ありません」

「まあいいや。とにかくさ、秋村俊孝さんのスケジュール調べてみてよ。で空いてたら、速攻でブッキングして」

「わかりました!」

 先輩たちからちらほらと名前は聞いていたけれども、アキさんと仕事をした事はまだなかった。事務所に連絡してみるとラッキーなことに、アキさんのスケジュールは空いていた。僕は急な申し出をお詫びしつつ、アキさんのスケジュールを押さえた。

 撮影当日やってきたアキさんは、僕よりもずいぶん年上のはずなのに、スマートで若々しかった。その女優がアキさんを見つけた時にニッコリとして、

「アキちゃんなら、文句ないわよ」

 と言ったことだった。アキさんはそれに応えて、

「ありがとうございます。よろしくです」

と言った。媚びることなく、かといって横柄でもない。リスペクトしつつ、対等な関係がその女優と築けているのが、その会話のトーンでわかった。その後の撮影はスムーズに進み、予定よりも早く終わった。撮れ高も申し分無かった。

 それ以来、僕は何かというとアキさんに撮影をお願いした。モデルサイドにカメラマンがアキさんであることを伝えて、NGになる事は全くなかったし、何よりも写真の仕上がりが素晴らしかった。モデルとの距離感も親しみやすくはあるけれども、馴れ馴れしくなく、伝える要求はしっかり伝えて、素晴らしい写真をモノにしてくれていた。撮影の予定が入ると、まずアキさんのスケジュールを確認するのがルーティンになっていた。今回の新雑誌も、表紙の撮影はもちろんアキさんと決めているけど、モデルがいないことにはどうしようもない。この世界でのキャリアが長いアキさんのことだし、誰か良いモデルを知らないだろうか...。とりあえず、アキさんにダメもとで聞いてみようと思った。

 数日後、新雑誌の表紙撮影の打ち合わせと称して、アキさんに編集部へ来てもらった。急な呼び出しになるから、本来ならば僕が出向かなくてはいけないけれども、立ち上げの忙しさを話すと、アキさんが編集部へ来てくれると言ってくれた。こういう所がアキさんらしいし、本当に有り難くて頭が上がらない。これまでの流れと、モデルを探している現状をアキさんに伝え、モデル探しに協力してもらえないかと尋ねた。

「僕はカメラマンではあるけどさ、モデルのエージェントなんかしてないよ(笑)」

「そのモデルのエージェントが全然ダメだから、こうしてアキさんに聞いてるんです」

「僕もプライベートで写真は撮ることもあるけど、街の風景とかだしなあ。人は仕事で撮り飽きてるし」

「そうなんですか?! うーん、困ったな。あとはモデルだけなんですけどね...」

「そんなに居ないものなの?」

「居ません。雑誌の表紙と言えば、一般でも名の知れたモデルか俳優ばっかりじゃないですか?! 売れてるモデルはしょっちゅう表紙を飾るし、俳優は映画とかドラマの宣伝時期になったら、色々な雑誌の表紙をジャックするし、どれがどの雑誌か分からなくなりますよ」

 同業者批判ではないけれど、コンビニのブックスタンドや本屋で雑誌コーナーを見ると、同一人物の表紙が何冊あるんだろうかと思う。パッと見てどの雑誌なのか判別がつきにくい。表紙のモデルがカブっているもうその時点で、両者とも敗北している。僕は必死でアキさんに訴えた。

「立ち上げる雑誌は、そういう状況に埋もれさせたくないんですよ!」

「で、無名の新人ってことか...」

「そうです!誰か居ませんか?」

「うーん、居ないなー。無名の新人って、要は素人みたいなもんだろ?! それで雑誌の表紙を任せられる存在感のある子ってなあ。街頭でスカウトしたら?」

「もうやってます! でもなかなか居ないんです。だから、アキさんもいい子見かけたら声をかけて...」

「僕が声をかけるの?(笑)」

「はい! ギャラは出します!」

「よっぽどだなー。わかったけど、あてにしないでよ。そっちでしっかり探してね」

「もちろんです!」

 お門違いで無理なお願いだとは分かりつつも、アキさんなら無下には断らず、とりあえずは聞いてくださると思った。でも、甘えてばかりもいられない。こちらサイドでも探さねば。アキさんが帰った後、僕は再度モデルエージェンシーに連絡していた。

 それから、普段は連絡を取らないようなマイナーなモデルエージェンシーに尋ねてみたり、街中に立ってスカウトのようなことをしてみたけれども、全然駄目だった。2 、3日おきにアキさんに連絡してみたけれど、アキさんの方でも、モデルは見つかっていないようだった。

 編集部でアキさんと会ってから1週間後、アキさんから連絡があった。良いモデルが見つかりテスト撮影をしたので、写真を見て欲しいとのことだった。写真のデータを送ってもらうようアキさんに言ったのだが、編集部で一緒に見ようとのこと。「忙しい中、わざわざ来てもらわなくても」と僕が言ったら、「いや、一緒に見たほうが良いと思うんだ」と。
僕は少し不思議に思いながら、「じゃあ申し訳ありませんが、よろしくお願いします」と返事をし、当日の予定をアキさんに伝えた。

「さすがアキさんですね!本当にありがたいです。僕も探していたんですが、なかなか見つからなくて...。アキさんは一体どこでモデルを見つけたんですか?」

「僕がよく車を止める地下駐車場につながる地下街あるじゃない?!あそこを歩いてる時に、たまたま見かけた2人の子が素晴らしくてね」

「えっ? 2人もいるんですか?」

「そう、2人」

「そうなんですか...」

「何を考えてるかなんとなくわかるけど、彼女たちは絶対ペアで使ったほうがいい。とにかく撮ってきた素材を見てくれよ。スマホだけどね」

「えっ、スマホなんですか?」

「そう。彼女たちがその場ですぐに撮影しないとイヤだと言ったんだ。カメラを持ってなかったから仕方なしに。でも、見れば納得すると思うよ」

「普通ならばダメですが、アキさんがそこまで言うなら...」

 スマホで撮った写真だとは思ってもみなかった。でも、アキさんほどのベテランがそうするのは、よほど何かの事情があったのだろう。アキさんがスマホを渡してくれた。それを受け取った僕の手は、何の緊張感かわからないけれど震えていた。深く深呼吸をしてファイルを開き、写真を見ることにした。写真は全てモノクロで撮られており、明かりは地下駐車場の照明だけ。陰影がハッキリした状況の中に、背が高い、タイプの違う美女が2人写っていた。


口を真一文字に結び、意志の固さ秘めた強い眼光で、こちらを見ている。何者にも媚びず、誰とも群れず、何にも委ねない。「わたしたちは自分たちだけを信じて生き延びる」とでも言っているかのような気高いオーラがあり、それでいて、美しかった。僕は我を忘れて、彼女たちの写真に見入っていた。するとアキさんが言った。

「どう?」

「凄いじゃないですか!この2人、一体どこに埋もれてたんですか?」

「地下じゃない?(笑)」

「この地下駐車場で撮った写真、駐車場の照明だけでライティングをしてない分、陰影が際立って、彼女たちからのオーラがすごく伝わってきます! モノトーンで仕上げたのもいいですね!」

「ライティング無しはどうかなと思ったけれど、いい写真になったよね」

「いやあ凄いです! 2人ともそれぞれ違う魅力がありますね。身長が同じ位っていうのが、また対比的でいいですね。結構身長が高そうですけれども、どれくらいですかね?」

「聞いたわけではないけれども、僕と並んだ感じだと170センチ位だと思う」

「完璧ですね」

「どう?」

「決まりです。行きましょう。彼女たちで」

「わかった。彼女たちにそう伝えるね」

 アキさんは笑顔でそう言った。

彼女たちが表紙を飾った新しい雑誌は、とても大きな反響を読んだ。照明も使わずに、地下街の明かりだけで2人をモノトーン撮影した表紙は、本屋やコンビニのブックスタンドの中で異様な存在感を放っていた。

「あの女の子2人は誰?」

 と、あちこちで話題になったが、検索しても何も出てこない。このご時世において、どこにも彼女たちの情報がないと言うというミステリアスさが、さらに話題を呼んだ。新しい雑誌は季刊誌だったため、次の発売日はいつかという質問が殺到した。表紙だけでなく、中の紙面も大きな話題を呼んだ。「都市におけるサバイバル」というこれまでに無い切り口は、本当は必要だったのに誰も扱ってこなかったエアポケットのようなゾーンだったのだ。でも、その中身のコンテンツを体現する表紙があってこそ、この評判になったのは間違いがなく、僕はまたアキさんに大きな借りが出来てしまった。

 雑誌のスタートから1年たったある日、僕はアキさんと食事をしていた。季刊誌で発行回数は少ないものの、出すたびに話題になり発行部数も増え続けるという、この時代には稀なヒットとなった。編集部もスタッフが増えて、僕の編集長という肩書きが、形だけではなくなってきた。それもこれもアキさんのおかげだ。そのささやかなお礼を込めての食事だった。

「編集部、人ふえたね」

「はい。会社としても、力を入れてくれるみたいです」

「いっぱしの編集長だね(笑)」

「全て、アキさんのおかげです」

「僕は彼女たちの写真を撮ってるだけだよ」

「その写真が無ければ、この結果にはなってません」

「それだけじゃないと思うけど」

 偉ぶらないし、アピールしない。僕はアキさんのような人になりたいと、仕事を一緒にするたび思う。

「あの、何か仕事に対してリクエストはありませんか?」

「リクエスト?」

「はい。これだけ貢献していただいてるんです。アキさんの要望には最大限お応えしたいんです!」

「あ、そうなの?」

「はい!」

「そうだなー」

 アキさんは少し考えて、

「彼女たちのギャラを増やしてあげて」

 まず被写体である彼女たちのことを言うのが、アキさんらしかった。

「それは、もちろん!近々、そうする予定で動いてます。アキさんに関しては何か無いんですか?」

「そうだなー」

「はい」

 アキさんはまた少し考えていた。

「この雑誌は本当に必要だと思うから、少しでも長く続けられるようにしてね」

「はい!それはもちろん」

「それと」

「それと?」

「腕が落ちない限り、僕を使って欲しい(笑)こう見えてフリーランスは、サバイバルしていくのが大変なんだよ」

 アキさんはそう言って笑った。


本編【note de ショート#7】
  「Strangers in the underground」

  は、こちらから↓

〈このエピソードの他にも、「note de ショート」というシリーズで2000文字〜8000文字程度で色々なジャンルのショートストーリー(時にエッセイぽいもの)を、月10話くらいのペースで書いていますので、よろしければお読みください。〉



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