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(7) 覇権は一切求めない一方、 実力は余す事なく開陳する。

ただ、 圧倒的だった。           
各国が非難し続ける一方で、一般大衆への報復を恐れて攻撃対象とはならずに、存続し続けたイスラム国、ISが、唯一の武力敵対組織である中南米軍の攻勢を受けて壊滅しようとしていた。
これまで、IS構成員が何度も中南米諸国まで出向いてテロ行為を試みようと画策してきたが、中南米諸国連合の入国審査をクリアーすることが出来ずに水際で逮捕され、尽く処罰されてきた経緯がある。中南米諸国へのテロ行為が難しいとして、同盟国の日本や北朝鮮への侵入を試みたものの、中南米同様の入国審査体制に引っ掛かり、未だにテロを決行出来ずに居る。
ここに至り、中南米諸国は決起する。シリア砂漠での開発を推進する為に、ISの殲滅を掲げ、様々な事象が中南米諸国の思惑通りに事が進んでゆく。「組織の再生、再興が出来ぬレベルとなるまでの武力行使を遂行する」と掲げた通り徹底したもので、中南米軍として初めて幹部殺害を容認する作戦となった。             
幹部クラスは尋問対象者以外は全員が殺傷対象となり、見張り役や警備役の兵士も、作戦遂行上、已む無しと判断され、殺戮対象とされた。幹部と警備役の兵士を除いて、個々の兵士に関しては戦闘不能状態に追い込み、命までは奪わない方針を掲げた。                
また、全ての作戦、交戦の模様を映像に収めると順次映像を公開して、殺戮行為に比重を置いていない掃討作戦であることを世に知らしめる努力をしてみせる。映像の記録に拘った理由は、人型ロボットとサンドバギーの対人戦闘時の動きを細部に渡って分析し、製品改良や次期モデルの開発に役立てる為でもある。記録目的の映像を公開に踏み切ったのはモリの判断によるもので、「IS構成員の戦闘意欲を削ぐ効果が得られるだろう」と中南米各国には伝えられていた。不適切な殺傷行為の映像にモザイクを入れるなどの修正を加えて、公開する動画の本数を随時増やしていった。  

ロボット戦を想定して武装した筈のIS兵士を、最新テクノロジーが圧倒し、次々と無力化してゆく様を捉えた映像は、ロボットとAIの進化には際限が無いのだと、人々に知らしめていた。   
いかに鍛え上げた人間であろうとも、ヒトの肉体には限界がある。しかし、ロボットの視野の広さ、敏捷性、握力、脚力、跳躍力等の身体的な特徴となる機能性や性能と、ロボットの頭脳となる、AIの瞬時の判断能力を司る思考回路の成長には制限は一切存在しない。 
今回の掃討作戦で有効打となった、射程外距離からの狙撃能力や判断能力の飛躍的な向上は、映像を見た者全てが「テクノロジーの進化」を再認識する。同時に、ISの各部隊が従来のロボットとの「相違」に直面すると躊躇せずに白旗を揚げる様に納得する。与えられた役割を疲労の色を全く見せずに、粛々とそしてエンドレスに遂行し続けるロボットの無機質で没個性な動きに、各国の軍隊・政府もただ震撼する。 
ISが放つ英仏製の対空砲火の射程距離の遥か上空から放たれた弾道が、確実に装甲車等の車輌を一撃で破壊し、IS幹部と操縦者を亡き者としてゆく。幹部達が逃亡、移動を繰り返す度に、部隊を指揮執る人材が奪われてゆく。砲火の届かない上空からの攻撃だけではなかった。ロボットはヒトの射撃能力を大きく逸脱した遠距離から狙撃するので、対処策が講じられないまま一方的に無力化されてゆく。キプロス島やエルニド界隈の無人島での鹿や豚の狩猟光景を撮影した動画の様に、前線に配備された兵士達の足が狙われ、強烈な痛みと共に次々と蹲ってゆく光景を様々な映像で見られた。足を負傷した兵士が部隊に復帰する頃には組織自体が壊滅し、カケラすら存在しない状態が中南米軍の狙いだった。          
ISの療養施設には 足に負傷を抱えた兵士ばかりが収容されてゆく。  
「中南米軍は病院、療養施設だけは攻撃しない」という事実だけがIS内にも浸透して、療養施設はサンクチュアリのようになってゆく。中南米軍の被弾を受けずに、自分で、もしくは2人が互いの足をナイフ等の刃物で切る事態が起こり始めると、ISは部隊としての機能を徐々に失ってゆく。一度、兵士や歩哨として外に出れば、ロボット兵の狙撃対象となるだけだと悟ったISは、籠城戦に転じてゆく。限られた策しか無いISが、唯一取りうる選択となる。マヤカシのムスリムの集合体に過ぎないISは、集団自決まではしないだろうと見ていた。
昨年の中南米軍とISの交戦時は、昼夜に渡りモビルスーツが建屋に投石を投げ続けて、振動と音で兵士の睡眠を妨げて、兵士の疲労を最大級のピークに追い込んだ後、ロボット達が日本刀を振りかざして建物内に突入し、IS部隊構成員の腕や足の筋や腱を切り刻んで無力化していった。
前回の反省を踏まえて、ISも改善策を講じていた。2交代制を敷いて、休息中の兵士は防音室で睡眠を取れるようにした。しかし、今回はモビルスーツが前線に配備される事も無く、想定してもいない襲撃を受けて壊滅していった。    

IS構成員が立て籠もる建物に突入する際には、建物自体を特殊樹脂で覆い、催涙ガスを充満させてから、日本刀を翳した人型ロボットが突入して行った。新開発の催涙ガスは中南米軍のオリジナルで、顔を覆うガスマスクの僅かな隙間から入り込んで、ヒトの涙腺を決壊させて強烈な鼻炎状態に追い込む。当然ながらロボットは呼吸の必要が無いので、影響は無い。催涙ガスが立ち込めていようが粛々と稼働し続け、拠点を制圧していった。今回、中南米軍属は悠長に時間を掛けず、迅速に制圧する事に主眼を置いていた。       僅か半日でISの主力部隊と本部のあるシリア、 ラッカ市を開放できた理由は、火砲力の届かない上空からと、遠距離からの確実な狙撃能力と破壊力が行使されたからであり、今回の制圧活動では中南米軍独自の特殊な催涙ガスが用いられた。如何に訓練を積んだ熟練した兵士であっても、目視できない距離からの砲弾、銃撃に対処出来る筈もなく、この催涙ガスの前ではガスマスクが機能しないので、ガスが満ちた中で行動できる人物は皆無だった。    
仮に、ISが相当数の戦車や装甲車を保有しており、兵士達を狙撃から保護できたとしても、衛星軌道上の上空から攻撃されれば、車両ごと確実に破壊されるのは実証済みだった。幹部たちが車両毎、事あるごとに殺傷されていたのだから。  「ほぼ宇宙圏から、地上に向けて放たれる兵器が現実となり、近代以降の陸海軍は抜本的な見直しを迫られている。軍艦や戦車は格好の標的に成り下がった」とIS攻略レポートの中で軍事評論家達は記述する。              

各国の参謀本部は中南米軍の陸戦部隊と対峙した際の手段や対策を見出す事ができず、頭を抱える。結論として、中南米軍との戦闘、敵対行為だけは回避しなければならないと判断し、ロシアの様に地下鉄駅を大深度化し、シェルターとしても利用できる都市防衛策を検討するようになる。地下都市化したとしても、ロボット兵が地下鉄駅に殺到して地下鉄構内に入ってしまえば、チェックメイトまで時間の問題となるのだが。    
ISの支配地域の主要都市を数日で制圧し、残存部隊への追撃戦が各地で繰り広げられている中で、お揃いのキャメルカラーの兵服を纏った軍の総司令官・ベネズエラ大統領と国連事務総長がダマスカスとバグダッド入りし、民主シリアとイラク共和国政府と会談に臨んだ。       

双方の首都には戦火の面影は全く見られず、多くの市民が沿道で国連旗と中南米諸国連合の旗を振り、狙撃や襲撃など全く心配していない国連事務総長と大統領は車のガラス窓を全開にして、国連旗を振る沿道の人々に手を振リ続けた。首脳会談を終えた掃討作戦の立案者達は、モリ大統領自らが操縦するヘリや双発機に事務総長が相乗りして2人だけで移動して、開放された都市や街を視察する。護衛の兵士を一切同行しない2人だけの現地視察が、視察対象地の安全性を物語っていた。

今回の掃討作戦には殆ど参加していなかったモビルスーツが、荒廃した街と街道の復興修復作業に重機と人型ロボットと共に着手している。稼働していないモビルスーツは発電機として街に電力を供給し、人型ロボットと新装備の為の固体バッテリーを充電し続けていた。国連から次々と援助物資が届き、被災民に迅速に配布されてゆく。中南米軍と国連の連携は初めてではあったが、見事な役割分担と部隊運営に称賛の声が上がり続けていた。  
新たに人々の目を引いたのが、イラクとシリアの兵士、災害復旧事業に携わるイラクとシリアの消防士や警官に配布された、ベネズエラ企業のプレアデス社製のパワードスーツだった。欧米製、中国製のパワードスーツとは大きく異なり、対話式AIが内蔵されており、その強大なパワーは従来品を凌駕していた。             
実際にモリとハキム事務総長がパワードスーツを実装して、実演して見せる。装着部背後にある腰を覆う本体ユニットに内蔵されたAIに対して、パワードスーツを装着したモリが指示を出す。  「これから目の前の瓦礫を取り除く。大きなコンクリート片から持ち出して運ぶので、屈んでから持ち上げて運ぶ動作を繰り返す」とモリが英語でAIに指示を出した。           
ハキム事務総長もモリの発言を復唱し、AIに伝える。モリとハキムはカメラを内蔵したヘルメットを冠っており、そのカメラ映像が映し出した目前の瓦礫の山をAIが認識し、瓦礫とヒトがどの位離れていて、どの程度の瓦礫があるのか判断する。モリとハキムが瓦礫の山に近づきながら、運ぶ対象の瓦礫の山を視線ビューで特定する。モリとハキムの腕とは異なるアーム部が2人の背後から出てくると、100kgを超える重量のあるコンクリート片を持ち上げる。瓦礫を抱え上げた際にヒトの腰と脚に掛かる重量負荷はゼロとなり、ヒトが被る全ての負荷をパワードスーツが受け止めていた。大統領と事務総長が巨大な瓦礫を苦もなく抱えて運び始めると、周囲にいたメディアや軍の関係者達が驚きの声を上げる。瓦礫を運びながら、マスコミ向けに用意した小型マイクでモリが説明を加える。               

「人型ロボットの作業にパワードスーツを纏ったヒトが加わり、共同作業が可能となります。本製品はまだ試作機ではありますが、建設現場や農場、漁船上、もしくは警官や消防士、レスキュー隊員などの作業従事者が装着することを想定しています。ヒトの足腰や腕や手に負荷を掛けず、ヒトの判断能力とAIが協力しあって作業に従事する装備となります。ヒトの視神経や脳の指示を受けて手足が自由に稼働できれば良いのですが、残念ながら我が国のニューロン技術がまだ十分ではありません。そこで私達は、人型ロボットのAI利用を思い立ち、パワードスーツとしてヒトが装着して、重量物を扱えるようにしました。ロボット工学の応用と言う訳です」          
ハキム事務総長も「本当にラクです。ヒトがこれだけの力を得られると可能性が広がるのが容易に想像できます。ロボットに全て依存せずとも事足りる。杜大統領がおっしゃられたように、3Kと言われる職種でヒトが活躍出来るでしょうし、今回のように兵士が身に纏えば戦闘能力が向上します。人型ロボットが扱う重火器や破壊兵器を難なく抱えて、行動できるのですから」と言ってにこやかに笑う。              
「ロボットとAIがヒトの仕事と人類の未来を奪う」と言われていたが、中南米諸国連合はAIとロボットとの共存をパワードスーツ装着とムーンウォーカーの様な搭乗型モビルスーツで見出そうとしているのではないかと話題になる。    
何れにせよ「開放後」を見据えた体制を国連と中南米軍が用意していたのは明らかだった。イランのモリの別宅で大統領と事務総長が議論し、入念な準備を施していたのかもしれない。    

占領地や被災地で虐げられていた人々が、大統領と事務総長に向かって滂沱の涙を流して、謝意を伝える映像が溢れ返る。「この映像には、ヤラセの要素は全く含まれていない」と誰もが理解する。 ISが如何に非人道的な組織であったのか、占領地で苦しめられた住民や投降したIS構成員の数々の証言が伝えられると、ISが全否定され、掃討作戦が正当化されてゆく。ベネズエラ大統領のこれまでの実績、国連事務総長の積極的な介入が後ろ盾となり、「正義」がどちらの側にあるのかが人々に認識され、個々の意識の深層に刷り込まれてゆく。「中南米軍が先制攻撃を行使した」点は曖昧なものとなり、勝者となった中南米軍は、官軍としての座を確かなものとした。     事務総長と大統領が開放された人々の前で見せる笑顔と、これからの未来を説く姿を「ヤラセだ」「タテマエだ」と言う人々が出るのも仕方がなかった。それでも、絶望的な環境下にあった人々に向けて、これからの指標や目標であり夢を抱いて貰う必要が有るのも事実だった。人々に期待や希望を抱かせる役割が政治家にはある。口先だけで終わらず、有言実行な策を人々に提示して、成果を見せながら、人々が安堵し、安心を得る迄が政治家に課せられたミッションとなる。   
解放者としての役割を終えた大統領と事務総長は、「解放後のスケジュール」を更に確固としたものとする為に、それぞれの拠点に戻って彼らの組織を指揮してゆく。首都カラカスと国連本部のあるニューヨークに戻る大統領と事務総長の後を継いで、シリア入りしたタニア・ボクシッチ外相兼国防相は、モリが描いたプランがシナリオ通りに推移している事に驚く。         

「これで何度目だろう・・」タニアの目に期せずして涙が溢れる。    
「モリ・マジック」20年前の米国大統領が、モリの手腕を形容した呼び名を思い出す。マジックでも、奇跡でもなく、モリは正道を貫き続けているだけだと、タニアは知っている。 
「人類のあるべき姿」を具現化する為に、熟考に熟考を重ねた上でのシナリオであり、プランだからこそ、この結末が得られると思い、瞳が潤んでゆく。             
パワードスーツほどの高出力ではないノーマルスーツも試作段階に至っており、要介護者認定され歩行がままならないタニアの母がスーツを装着して再び歩みだした。ロボット工学をヒトに応用する事で、高齢社会を乗り越える準備を中南米諸国が始めている。兵士の為だけではないのだ。  

様々な事象や数多の登場人物の思考性を徹底的に分析しながら、問題解決のゴールへと向かってゆく類まれなモリの才覚・能力に、改めてタニアは敬意を抱く。ボスに仕えていると、自分の未熟さを毎度の様に再認識する。モリから学ぶ事に終わりなど無い、と。生涯の師として敬い続けようと再確認しながら涙を拭う。         

まさに各国が抗う事を諦めざるを得ない、一方的な掃討作戦だった。過去にも中南米軍のAI部隊と対峙して度重なる攻撃を受けてきたISは対策を講じていたが、1年経たずして次元の異なる進化を遂げたロボット部隊を前にして、敗走と撤退を重ねるしか術は無かった。敗走、撤退となれば狙撃の対象に転じて制圧されるので、白旗を揚げて降伏するしかないのだから。         

ISは元々、新興宗教の如き公募内容に惹かれて集った組織でしかないので、一度瓦解すると、体制の脆い面ばかりが目に付くようになってゆく。 

「中南米軍のロボットなど、粉砕して見せよう」と豪語し、息巻いていた幹部ほど真っ先に逃亡する。逃亡する車両やヘリが全て攻撃されて、幹部達が絶命し、数少ない機動力が一台、一機と失われてゆく。部隊全体が急速に戦闘意欲を失い、IS構成員が投降を重ねているという情報だけが拡がると、ISの幹部達が掲げたイスラム教義が偽りであり、何の役にも立たないと兵士も構成員も悟る。兵は自らが纏っている肌着、白いTシャツを脱ぎ去ると振り回し、率先して降伏し続ける。中南米軍が交戦の動画を公開した効果は確かにあった。欧州で生活していたイスラム教徒が参集した組織なので、ITに慣れ親しみ、西側の情報を貪欲に求める構成員が一定数居た。メディアが中南米軍のロボット工学の進化にアチコチで触れれば 自分達が最先端のロボットの攻略対象になっている事実を思い知る。「勝てっこない」とIS構成員が即座に判断し 白旗を揚げるのも当然だった。
勿論、ISの掃討で終わりでは済まず、モリが敷いた伏線は幾重にも拡がってゆく。地球上からのテロ組織の一掃という華々しい成果の裏で、各国各地に影響が及んでゆくのは毎度の事だ。今回、想定しきれなかった結果や結末を目の前にして、タニアは頭を垂れる。  
あらゆる事象に波及し、繋がってゆくモリの先を見通す能力を羨むのと同時に、己の未熟さを痛感する。私達夫婦をイスラエルに向かわせた理由を、「この時点に至って悟るとはね」と涙腺が脆くなったサミアが呟くと頬を一筋の涙がつたった。           

米国大統領選、民主党の最有力と目されていた候補者が、週明けの民主党大会で敗れる公算が極めて高いという最新情報が、ダマスカスに居るタニアの元へも届いた。ユダヤ系のロスチャイルド上院議員の一派が推す候補が、最終投票で対立候補に大差で敗れ去ると中南米軍 諜報部隊がレポートに纏めていた。            
数日前まで当選確実と言われていた候補者から、対立候補に大半の票が流れる理由が、タニアには想像できなかった。           
「ソロモン財団、民主党ユダヤ系議員、そしてイスラエル左派政権が裏で手を握り、北米向け巨額融資を巡る様々な利権に絡んでいる」という趣旨の文書を入手したアメリカ共和党政権が、イスラエル左派政権と米国民主党に文書ごと突きつける。「CIAの調査によると、この文書は全て事実だ」と言いながら。         
イスラエルの最大野党、保守党が息を吹き返し、ソロモン財団内の与党寄りの人員排除に動き出す。「米国が民主党政権、イスラエルが革新政党」と、ほぼ確定していたかの様に言われていた構図が果たしてこの先どうなるのか、予断を許さない状況となった。       
ソロモン財団の巨額融資の使い道がほぼ確定して、持ち直し始めていた米国市場が再び暴落し始める。その一方でIS掃討を達成した牽引役となったベネズエラのロボット工学、AIといったテクノロジーに脚光が集まり、唯一の投資対象の様な状況となっている。ベネズエラが潤沢な資金を手にする環境が、偶然の産物の様に見せかけているが、誰かのシナリオであるのは明白だった。  

ISとの戦闘で活躍したロボットだけでなく、7月末に収穫した北半球の小麦や綿花等の栽培、収穫に携わった12万体のロボットのレポートがカナダ、ウクライナ、イタリア、北朝鮮、旧満州等から続々と出揃い始めていた。 
「ロボットがヒトの労働を奪う、元凶は日本連合だ!」と春先にネガティブキャンペーンを張っていた欧米各国政府が嘲笑われる結果となる。  小麦も綿花も含めた、ありとあらゆる食物栽培が失敗したので状況はより混迷する。夏場の高温と干ばつで何も収穫できない結末となった国と、収穫に何ら支障の出なかった前述した各国での違いは、栽培した品種が異なるが故と結論づけされたが、実は農作業従事者としてロボットが果たした役割が影響している。ヒトだけが作業していた頃と比較しても、生産性、収穫量も含めて全てが上回っていた。    
熱帯圏に於けるコメの収穫が来月9月から始まると、ロボットを農場に投入する意義は確固としたものになるだろうと、農学者や評論家が断定し始めていた。              

12万体のロボットが年間を通して、世界中の農場に派遣され成果を収めるロボットレンタル事業は成功裏に終わると見做されて、AIパワードスーツを開発したベネズエラ企業の株価が更に上がり、後追いでレンタル事業に踏みこむ日本企業の株価も高騰を始める。ロボットを活用している建設企業、警備会社、バス鉄道会社、運送業者も同様だった。日本と北朝鮮、そしてベネズエラの企業ばかり株価が上がる皮肉な結末となった。    ーーー                     カナダ3州の住民投票の日程が近づくにつれ、カナダ政府と3州の議会の間で、非難合戦が激しさを増していた。3州から増派要請を受けた中南米諸国連合は、軍の増援を決める。中東でのIS掃討作戦が一段落したので、その部隊をカナダ3州に転じる事に決めた。           
パナマの中南米諸国連合のスポークスマンが「中東の部隊をカナダへ転進させる」と発言すると、3州との境界線に陣を張っていたカナダ軍の参謀本部の報道官が懸念を表明する。     
「中南米諸国はカナダを分裂させようとしているとしか思えない。我々はこの国を守り抜く為に、あらゆる手段を講じるつもりだ」と発言すると、緊張が高まる懸念を様々なメディアが一斉に報じる。
中南米諸国連合が報じたように、シリアでIS掃討作戦に展開していたロボットがやって来るのだろうと思っていると、1000名の中南米軍の兵士達が輸送機から降りてくるので誰もが驚いた。  中南米軍がヒトの兵士を派遣した意味を悟ろうと、州の境界線を取材した記者たちが驚く。
シリアとイラクで公開されたパワードスーツを州兵と中南米軍の兵士達が身に纏って、本来ロボット兵が扱う重火器の訓練を初めていたからだ。
従来兵器とは重量も威力も異なる兵器を安々と持ち歩き、標的を木端微塵に打ち砕く。
砲弾の飛距離と破壊力はケタ違いなものだった。3km、4km先の目標物に次々と命中している映像は世界中を驚かせる。パワードスーツを装着した兵士達は装甲車や輸送機を使わずに自力で移動し行軍するので、レーダーやドローンが捕捉するのが極めて難しかった。         
「まさに神出鬼没。ゲリラ兵のように陸地に潜伏しながら、地上を移動し続ける。攻撃対象となる相手の座標をドローンやフライングユニットで確定すると、遠距離から強力な重火器を放つと 反撃を警戒して即時に移動して身を隠す。パワードスーツを纏わない従来の兵士との大きな違いは、弾道の飛距離と破壊力だ。戦車や装甲車に匹敵する破壊力を兵士一人一人が持つ意味を中南米軍が伝えたがる理由がよく分かる。今回持ち込まれたパワードスーツと重火器は2000組だと中南米軍は明かした。つまり、2000台の戦車を送り込んだのとイコールの兵力を増援したことになる。
カナダ軍にはコスト比較がトドメとなる。
「人型ロボット1体の費用の1/8、戦車の1/25以下コストので済むパワードスーツは、従来の陸戦の図式を大きく変えるかもしれない」とメディア各社が報じる。暫くしてカナダ軍の新たな布陣が話題となる。州の境界線から5km後方に後退し、陣を張ったカナダ陸軍と州の境界線に布陣している州軍と中南米軍の対比が話題となる。     「これでは軍を派遣した意味が全く無い」とメディア各社がカナダ軍をあざ笑うかのように伝える。                        
カナダ陸軍だけでなく、中南米軍と国境で対峙している各国の国境警備隊や軍勢全てが後退していた。開発中の試作機だと言っていたパワードスーツが世界中の中南米軍に配給され、演習訓練を始めていたからだ。人型ロボットとヒトの兵士が連携を取っている光景を目の当たりにして、意欲を削がれたのは間違いなかった。

メキシコとの国境から、アメリカ側の部隊は居なくなり、北朝鮮、旧満州、チベットの国境警備に当たっていた人民解放軍は国境警備を10キロ以上後退させた。
「もはや、中南米軍には敵わないと判断したのだろう」と誰もが納得した。

板門店、38度線で北朝鮮と国境を接する韓国軍だけが部隊の撤退をしなかった。
中南米軍との間で防衛協定を結んでいるからだが、北朝鮮暫定政府は38度線の警備を、発足前でありながら、新規に雇い入れた北朝鮮軍兵士の配備を始める。真新しい軍服とパワードスーツと重火器を纏った兵達が闊歩し始めると、韓国政府と韓国軍は「幾らなんでも、過剰過ぎやしないか?」と北朝鮮側に申し入れたが、返答は無かった。・・黙殺したのだ。    

(つづく)  



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