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(3) 短かすぎる夏休み  (2023.10改)

・人の密集する場を避けながら移動し、新幹線もグリーン車を選び感染確率を下げる。

・感染対策が施された店舗・ホテルを選んで入店、宿泊。

・台湾製のPCR検査キットで陰性確認をした上で移動
・・・コロナ渦での行動パターンで考えうる手順を自ら実践している・・。

本来なら厚生労働省が指標として出すべきだと言っているかの様に、敢えてホテルの机の上に新幹線の座席が記載されたメモと、PCR検査し終えたキット、昨夜の居酒屋の領収書が並べてある写真が添付されていた。
チェックアウト後に内偵者が部屋に忍び込んだら、これだ。馬鹿にしているのだ・・

Go to トラベルをするなら、他国からPCR検査キットを輸入してでも国民に配布して、人との接触を回避しながら行動しろ、と言っているようなものだな・・
「どっちが正論だ?そうだお前が正しい!国が、オレ達 政府が、間違ってんだよ!」

内閣補佐官の新井崇は報告書を破って放り投げ、床に紙の残骸が散らばる。補佐官としての仕事が間もなく終わる。首相を支えるチームは敗れたのだ。

マスク不足だからと、国内で製造可能だったのが布マスク。配布すれば布は感染防止力が劣ると言われ、官房長官が「洗って繰り返し使える」と強弁して、これ以上聞くなと封印した。紙マスクと布マスクで比較検証などするなとまで根回して、ネガティブな情報は抑制できても、国民はバカではなかった。市中で誰も布マスクなどしていないのが発覚する。慌てて首相に使わせてTVで流したが、Go to キャンペーンで感染が拡大すると、再び慌てて「首相が感染してはならない」と、直に紙マスクに戻した。
そんなお粗末な政府だ。在庫だらけのマスクは倉庫代も発生している。税金の無駄使いと言われるのは確定したようなものだ。

一方でプルシアンブルー社が輸入したベトナム製マスクは、北陸から全国に拡散するように流通し、国が配布した布マスクの立場を無くした。「この程度か、日本政府は」と嘲笑っているのだろう・・

「岡山駅前賃貸ビル3件、新岡山港の空き倉庫を2件、下見後、菓子店を訪問し、土産を購入し京都へ移動。昨日訪問した犯罪者の長女を連れて自家用車で富山へ向かう。
尚、京都の邸宅への侵入は横浜、大森同様に出来なかった。鍵をこじ開けようとした職員が感電。玄関内に居ると思われるバギーがドローンを飛ばして、感電して蹲っていた職員に網を投擲した。そのままの状態で放置されたので、公安のチームが網の中の職員を救出した。
ドローンは2階のベランダに留まり、A1サイズのソーラーパネルから充電されている模様」と、空き家対策も万全だった。

モリの尾行後の報告書には必ず被害者が登場する。調査員が何とかしようと懸命に挑むのだが、毎度のように新たなトラップが露呈し、毎度対策を建て直さねばならない。しかも全敗だ。全くネガティブな情報が集まってこない。集まってくるのは歓ぶ民衆の笑顔と共にスナップ写真に収まるモリのSNS投稿写真ばかりだ。
東京の議員なのに、まるで著名な大臣か、全国区の議員のような知名度を誇っている。

これで民主党党大会で目立ち、プラスに転じて政権獲得となったなら、アメリカ政府にパイプを持つ地方政治家が誕生となってしまう。
日本政府に重大な支障を来す存在となる。これを与党は容認しない。 
それ以上に政権奪取を阻止する共和党はネガティブキャンペーンを張ってくるだろう。 

更に新たな記事が内閣府で回覧され、新井の元に届いた。タイ・バンコクの英字紙バンコクポストの記事だった。

「重大事故を回避した奇跡の2台の車」と日本語訳が添付されていた。

11日午前、ラマ4世通りのスクムビット周辺の交差点で、薬物摂取で混乱状態にあった男性が信号無視して交差点内に侵入し、ラマ4世通りを逆走した。この時 交差点内で右折レーンの先頭車両にいた乗用車が、交差点内に侵入してきた犯人の車両と対峙し、衝突直前で急ハンドル急発進で、車体が片輪走行しながら左に回避して衝突の難を逃れた。この交差点の映像が世界中に流れ、ドライバーの米国大使館員のチャーリー・ブラウンさんは「とっさの事で覚えていないが、無我夢中でハンドルを切った」という。しかし車両に搭載されていた日本製のドライブレコーダーは事故前後の映像が写っておらず、チャーリーさんの神技とも言える操縦技術が記録されていなかった。

また、逆走して来る犯人の車両を事前に察知したような動きをした1台の車両があった。ロシア大使館員 グスタフ・スベリさんの車両は交差点から1km手前でハザードを付けて停止していたグスタフさんの証言によると、「危険です。逆走車が前方から来るので、左に寄せて駐車してください」とNaviがアナウンスしたので半信半疑だったが停止した。おかげで事故に遭遇しなかったので感謝している」と述べた。尚、グスタフさんはドラレコのスイッチをいつもOFF状態にしていた。スクムビット署交通課の担当者は「ドラレコが可動していないのに、事前に検知したというのは辻褄が合わないが、土地の精霊(ピー)がドライバーを守ってくれたのかもしれません」とコメントした。

この2台の車両が台湾メーカーのネッドジェン車の車両だったので、「精霊が宿るクルマ」として、タイ国内で注目され始めている」
という記事だった。
当事者となったアメリカ大使館とのロシア大使館は、大使館員の車両をくまなく調査するように指示を出した。

両大使館はプルシアンブルー社製のAI Naviを疑っていた。

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アドバルーン作戦と銘打ったプログラムが台湾・台北とベトナム・ハノイで始まった。

沖縄からチャーター船で基隆港入りしたプルシアンブルー社会長のゴードン・サムスナーは100台の「Dr.Drone」をトラックに搭載し、5名のエンジニアたちと共に台湾政府の厚生省に納品し、台湾側で選定されたエンジニアたち30名と合流して、台湾で組み立てられたノートPC100台のキッティング作業を行うと、保健所の職員、救急隊員、医師たち共に試験運用を開始した。

台北市の救急センターに、高熱の患者が出たと患者家族から連絡が入った。PCを搭載したDr.Droneが連絡があった家に飛んでいった。ドローンが出動するまで3分掛かった、患者住所からドローンの着陸地点を決定し、患者家族に着陸地点の場所を連絡、同意が得られた上で飛び立った。台北市郊外まで到着が5分20秒弱となり、着陸と同時に家族がPCを取り出し家に入った。PCを取り出した時点でWifiルーターが作動し、試運転なので保健所で待機していた医師がアサインされた。本番では医師は所属する各病院であり、個人病院で対応する。家族がラミネートバッグからノートPCを取り出し、蓋を開けるとPCが起動し即座に医師とつながった。改良されたPCの画像の鮮明さに、一同が驚く。動画再生用、ゲーム用液晶ディスプレイとしては世界最高水準となる。 

患者が意識がない場合は家族が対応するしかないが、今回の患者は意識もあり医師の問診にも対応できた。ラミネートバッグのポケットにある血圧・心拍測定計を取り出すように医師が要求し、USBにつないで計測バンドを医師の指示のもと指に装着した。数秒で血圧と心拍数が分かる。体温も暫く経って表示、患者が口を開けての口内の状況も確認できた。

体温が高くコロナの可能性が高いと初検結果が出ると救急センターがこの時点で患者の受け入れ病院を探し始め、別の担当者は最寄りのタクシー会社に連絡、感染者用タクシーで該当住所に向かうよう要請し、事業所から出発した。
台湾もコロナでタクシーの需要が下がったので、意識のある患者用の輸送に参画してもらった。意識がない場合はドローンが飛ばずに救急車が即時に出発する。患者の状態に合わせて移動手段を判断できるのが大きかった。

このテスト運用を視察していた台北市長と市議は絶賛し、ゴードンとグータッチを交わすまでの一連の映像を流した上で、記者会見に望んだ。

「感染者が急増しても、医師の判断でレベル判定出来るので救急センター、保健所、そして受け入れ病院側の負荷が軽減できます。全案件で救急車出動が前提だった今までと比べれば効率的になったのは一目瞭然だと思います」

ベトナム・ハノイでもハノイ市市長と衛生局のトップが試験運用の模様を視察し、プルシアンブルー社に謝意を伝えていた。
肝心の日本では富山と岐阜の一部だけで行われているだけなので、これみよがしに取引のある国でスタートさせてみた。アメリカでデモンストレーションを行えば、人口の多い州は採用するだろうとアメリカの衛生局幹部が答えた。

ここまで何の実績もなく、対応が遅いと言われている日本の厚労省が矢面となる。実施したのは感染者数の統計と、アホのマスクだけだった。

ーーーー

近江商人で知られる近江八幡市の街を志乃と美帆の母娘と散策して、昼食を取って帰路に着く。

高速に乗ってスタートすると、AIのアイリーンと美帆が会話を始める。アイリーンが国営放送の美帆が好きだという教育番組をタブレットに表示したり、幼児の面倒見がいいので感心して「2人」のやり取りを聞いていた。

「先生、家でタブレットを使うとAIとチャットは出来ますが、会話は出来ませんよね。これって、何か理由があるんですか?」と志乃に聞かれる。

「あー、データ量の違いです。ウチの車3台は僕がイジったんですけど、ハードディスクをたくさん積んでRAIDを組んで、要はデータの大容量化と保全性を高めているんです。
因みに市販車に搭載されるAI Naviの能力はコイツの1/4ぐらいの能力しかありません。

タブレットのデータ量って内蔵のメモリしかないですよね。Wifi経由で、60キロ離れた富山市のAIサーバとネットで繋いでも、対話できるほどの能力が無かったんです。
でも、今日からはこの車と同じように会話できるようになりますよ」

「どうしてです?」

「ムラの廃校の教室を小さなデータセンター化にしたからです。ソーラーパネルを敷いて電気が使いたい放題になったので、村の中は富山市の中心部と同じ環境になりました」

「なるほど・・じゃあ、あの学校も鮎先生が買われたんですか?」

「はい。ムラでお住まいの家はウチも含めて5件です。10棟ある合掌造り住宅は南砺市の管理になってますが、いつまでも入居者が入らないので、鮎さんが土地と田畑ごと買っちゃおうと言う話になりました。おかしな話なんですけど、あの中学校が廃校になったのは10年前ですが、校舎を建てたのは15年前なんです。子供たちが校舎として使ったのは、たった5年なんです」

「え?それって建築費用って税金ですよね・・」

「はい。日本の過疎地の学校って、廃校が何年後かに決定してから鉄筋コンクリートで立て直してるんです。老人ホームや村のコミュニティセンターに使えると言って。要は地元の建設会社を潤わせて、市会議員や町会議員が賄賂を手に入れるっていう図式です。
過疎の村に老人ホームを運営する会社は来ないですよね?近隣に老人ホームで働く人も居ないし、そもそも村の住民はお年寄りばかりで4人しかいません。老人ホームとして成り立たないから、村のコミュニティセンターとしても使うと言い張って建て直したんです」

「だから、キレイな校舎なんですね・・」

「ええ。必要以上に頑丈に作ってます。計画上ではずっと使い続けるんですから」

「あ、バンドの皆さんが練習で使うのって体育館ですか?」

「いえ、音楽室です。老人ホームでリスニングルームとして使う計画で、コンサート会場みたいに壁と天井に防音対策が施されてるんです。もったいないので、僕らがスタジオとして使います。高校の軽音楽部の夏合宿みたいなノリで、今頃大音量で弾きまくってるでしょう」

「ドラムが無くても練習になるんですか?」

「それもAIです。サミアが僕のドラミングをAIにインプットしたので、僕が居なくても大丈夫なんです。サミアがドラマーでありオーケストラであり、シンセサイザー奏者だったりでバックアップメンバーみたいに活躍してるはずです。アメリカでもステージに立つつもりでしょう」

「オーケストラもAIが再現しちゃうんですか?」

「ええ。ニューヨークやロンドンの某有名楽団で、指揮者も世界中から選り取り見取りです。シンセサイザー奏者が何十人もピアノ演奏者の著名どころがサポートメンバーとして使える、そんなスーパーバンドが数日後にアメリカデビューします」

「練習って、見学できるんですか?」

「ええ。夏休みのプルシアンブルーの社員が合掌造り数棟を貸し別荘みたいにして使うって言ってましたから、見てるんじゃないですかね。もしくは、学校のプールにうちの子達と入ってるかな?」

「ぷーる!プール入る!」幼児番組に集中してると思ったのに、美帆ちゃん、話を聞いていたようだ。

「そうだね。お家に着いたらおじさんと一緒にいこう」

「先生、富山市で高速降りていただいてもいいですか・・この子の水着がないので・・」

「了解です。あ、志乃さんは買わないんですか?黒のビキニを期待したいですね」

「あ、腰の傷があるので競泳用にしときます。浮き輪とセットなので、すごくアンバランスに見えると思いますが」

「ひょっとして・・」

「はい、全く泳げません。姉は水泳部だったのですが・・先生、その・・、黒い下着も買っておいたほうがいいですか?」

「はい、お姉さんの分もお願いします!。お代は僕が出しますんで!」

身を乗り出して、バックミラーを介して、赤くなった志乃と視線を合わせていると、美帆がタブレットから目を離して嬉しそうな顔をしている。

・・今のやり取りが分かる年ではないと思うのだが。

(つづく)


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