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(4) Raise your hands!(2023.9改)

ネット上で県知事出馬を表明した金森鮎の会見での質疑応答の模様と対比するように、富山県内での公約実現に向けた施策の数々の映像は極めて具体的で、前例にない公約の説明手段だと報じられた。
一次産業振興策、県内産業活性策への取組の映像は既に報じられているので既視感があったものの、映像や説明資料が伴わず従来型の公約のように曖昧になっていたエネルギー政策とコロナ対策は、CGによる動画が公開され、イメージが出来た。

「富山湾を最大限に活用することで、富山の未来を創造する」
これが金森候補が掲げた構想の骨子となる。

「富山湾の深海域は多様な生態系には向いておりますが、漁業には不適な海域となります。このエリアに、ソーラーパネルを浮かべて海上発電を行ない、このソーラーフロートの下部には生け簀を付けて、ブリの幼魚であるワラサやサバなどを養殖いたします。ソーラーパネルは冬季は回収してメンテナンスしますので、発電は致しません。年間を通して行われるのは養殖だけです。

海上ソーラーパネルでの発電だけで県内の電力を賄う事は現在のテクノロジーではできませんので、県として、冬季用発電とバックアップ発電用の施設を独自に建設いたします。
まずはガス火力発電から始めますが、CO2を排出しない水素やアンモニアによる発電への変更も視野に入れながら、安定した電力供給を目指して参ります。

また、県内の農地でもソーラーパネルをテストいたします。まずは私の農地がある南砺市で、この夏から始めますが、このように畑の上部2.5から3mの高さに、屋根のようにパネルを配置します。農作物が程よく採光が得られるように、パネル間に隙間を持たせるようにします。尚、来年は田んぼでもパネルを張ってみようと考えています。既に水田になっているので、来春の田植え前に見送りました。
農家として期待するのは2つです。一つは冬季を除きますが、各家庭や温室などの電気代が掛からないのと、売電して副収入になるという点と、真夏の炎天下での農作業が多少楽になるかな?と考えています。

このパネルは今は中国製品を輸入して、提携している企業さんで海水防水処理を施して頂いたものを利用しますが、数年内には県内工場で生産開始する計画です。

また、火力発電所ですが建設地は富山市の沿岸部を想定しております。県人口100万人の6割が富山市民なので、ご理解いただければと考えております。海上発電と新火力発電所により、北陸電力さんから常時、電力の供給を受ける必要がなくなります。バックアップ電源として北電さんを位置づけさせていただきまして、県内の送電網も随時国道沿い、県道沿いに地下に這わせる事で電線や電柱を無くしてまいります。   
ここまでお話して、県民の皆さんが気になるのは電力料金でしょう。

富山は人口少県ですので首都や政令都市に比べれば、初期投資がかなりセーブ出来ます。
それで電力料金なのですが、発電事業を開始の初年度はまずは2割減から始まって、送電網が整い次第順次減額し5年後は半額、夏期はソーラーパネルが活躍するので7割減の見込みです。5年で実現すると見ているのも、限られた規模で済むと見ているからです。

県庁にエネルギー開発のセクションを新設して、県内の電力だけでなくガスも含めて、担当してまいります。サハリンとベトナムとの連携を強化して参りました理由は、石油だけでなくガスも調達するから、というのが理由です。
県がエネルギー事業を主導する事で電力会社、ガス会社、そして国から脱すると、県民の皆様の負担が下がります。富山は日本一水道水が美味しいと自負しておりますが、豊かな水資源のおかげと、人口が少ない県だからこそ出来うるのだと思います。
水道料金は比較的安価ですので、電力とガス料金が下がれば、企業もそしてヒトも誘致できるでしょう。プルシアンブルージャパン社が日本法人の本社を富山に選んでいただいたのは、そういったコスト面でした。
県知事になった暁には、進出いただく企業様への減税策を用意いたします・・・」

事前に公約は明かされていたが、候補者本人の口から放たれた言葉は衝撃を与える。
一番慌てたのは近隣県だろう。富山にできるのだ、真似ればよいだろうと人々は考える。しかし 福井県、新潟県は原発が集まっている。富山がエネルギーは自前でやると言われると、改めて「都会のための電力をなぜ、北陸で発電せねばならないのか?だったら、原発を置いてる分、電力会社は料金もっと下げろ。富山は半額だぞ」となる。
県知事、県議会も慌てる。富山のプルシアンブルー社のような企業も無いのでエネルギー開発をおいそれと出来ない。原発があるだけに電力会社とズブズブの関係なので、否定もできない。

北陸電力からすれば、富山県民100万人分の電力が不要になるのは電力コストが上がる風潮のなかで発電事業的には歓迎だが、「電力会社に頼らない、初めての県」が生まれたことで影響が懸念される。
電力自由化が始まって「新電力」を唱える企業が乱立したが、結局「自社発電量の壁」にぶつかって事業拡大ができていない。しかし県が率先して発電事業に取り組み、送電網まで確立されたなら、電力会社の存在そのものが問われかねない。

最後は政府だ。
富山が厄介なのは、主義主張が理にかなっている点だろう。応援団のように内外に支援者を抱えている。エネルギー物資の調達では各国の大使、大使館員が動き、外務省等の官僚を巻き込みながら、県が動いている。
その中心にモリがいるのが判明している。各国大使から評価されているのか、頻繁に各国大使館に出入りしている。大国であれ中進国であれ、お構いなしのようで、教師とは思えない働きをし続けている。
​​​​​​​​​​​​また、モリの周辺では各国の諜報員の存在が確認されており、むやみに手を出せない。相応の腕前であるのも分かっていて、護衛となる機器を使って追手を威嚇してみせたりする。

しかし闇の勢力と長年に渡りタッグを組んで来た与党だ。「排除」や「嫌がらせ行為」の指示を出しても、実際の犯行に加わっていなければ、いくらでも逃げられると知っている。
警視庁内にイエスマンを配置しているので、捜査をもみ消して来た経験も、実績もある。

宗主国といっても大使レベルでしかない。
アメリカに怯えたまま、彼等を放置し続けてはならない。今、ここで潰して置かねば、長年掛けて築き上げて来た日本の政治が、そして与党が破壊されかねない。永遠に日本の未来に関与し続ける為には、どうしても必要な選択なのだ。

宗教法人と反社会的勢力に金を渡して、プルシアンブルー社と金森候補、そして息子たちその家族に制裁を加える指示が下った。

まず、モリが謹慎となった。副業として見ても、過剰な成長を遂げている企業に参画している。教員としてあるまじき事態とされた。
源 翔子も副業禁止の社則を破ったとして解雇となり、平泉里子も航空会社のアシスタントパーサーの職を失った。村井幸乃は製造メーカーの産業医の地位を失い、そして、金森鮎は国立大学の教授の地位を追われた。
全員の同僚たちが「不当だ!」と声を上げたが覆るはずもなく、失職した全員が黙って職場を去っていった。関係者全員が対象となったのだから、誰の指示によるものか、嫌でもハッキリした。

モリはあと追いとしても、翔子、里子、幸乃はシンガポール法人の本社役員として即座に追加登録する。選挙協力しただけで無職になってしまった責任は少なからず感じていた。

ーーー

政府は喧嘩する相手を間違えた。仕返しにも様々なやり方はあるのだろうが、自身がスッキリする程の報復でなければ、モリは納得しないだろう。また、モリに自由な時間を与えてしまったのが、大失策だったと後々後悔するだろう。  

モリの失業ケースで見ると、謹慎=役員会で失職と言う流れなので、個人の所有物を即日引き払う為にトラックを借りてきて、学校のバギー5台、ドローン10台を撤去、私物と共に自宅に持ち帰った。
また、モリ達が職を失ったのと同タイミングで居住地や富山の店舗などに、危害を加えようとする者が毎日のように現れるようになっていた。ドローンが投擲網を放って、犯人たちを次々と捕らえてゆく。翌朝、店に出勤して来た社員が警察に通報し、容疑者を引き渡し、ドローンが撮影した犯行現場の映像を提出する。
家の周りでもプロではない連中が侵入を試みてはドローンとバギーに追い払われるので、通学の子供たちの車での送迎と、子供たちの朝夕の食事と洗濯、掃除に追われる日々となった。

ガソリンスタンドを経営するPB Enagy社とミニスーパーを経営するPB Mart社は自社のHPで日々捕らえられても屈しない人々の、犯行未遂の映像と網で拿捕された後の映像「与党に騙されたんだ、俺は悪くない、助けてくれ!」と容疑者が泣き叫んでいるものを選んで掲載する。
すると一般の方々が「これは与党による妨害なのか?」とその映像を編集して動画に投稿して、更に人目に付くようになる。

富山の選挙をフォローするメディアが、連日のように容疑者を回収している交番の巡査に取材をして「容疑者はどんな組織に属しているんでしょうか?」と質問すると、「与党が懇意にしている宗教法人ですね」と明かしてしまい、大騒ぎとなる。

最初のとばっちりは当然ながら、現職の知事に向かう。「知事、あんたね、状況が厳しいからって、流石にこれは酷すぎないか?」と県議の一人が議会で追求してしまう。
まさか全員逮捕となると思っていなかった党本部も真っ青だ。与党の県会議員が知事を議会で吊し上げている。与党のマイナスイメージばかりが増幅されてゆく。

「私は何も知らない、潔白なんだ。警察の捜査結果で無実だと証明されるだろう」

「自分で潔白だと言っても、選挙事務所のスタッフが関与していたら、あなた自身も問われるのは理解してるんでしょうね?この店舗への嫌がらせだけじゃないんですよ。金森候補を始め、息子さんも、選挙事務所の関係者全員が失職したんです。しかも一斉に同タイミングで失職です。あなたが党の幹部の依頼して圧力を掛けたんじゃないですか?これね、前代未聞の大事件ですよ。なんで労働の自由が憲法で謳われている国で全員クビになるんですか?何かしら不当な圧力が掛かってますよ。
息子さんの生徒さんたちは、先生を返せ、返してくれって、抗議活動してるんですよ。直ぐに社会問題になりますよ。あんた、今すぐ知事を辞任して、生徒さんたちに謝りに行きなさい。与党はあんたのせいで悪者になりますよ、若い彼らのなかでずーっとね」

「だから、私は何も知らないし、関与もしていない!なぜ、辞任せねばならんのだ!」

「富山の皆さん、全国の皆さん、本当にお恥ずかしい話なのですが、こんな人物が富山の知事でした。敵対しているからと言って、相手候補と関係者全員を失職させるなんて恥ずかしい対応は党の上の方の人物の圧力がなければできないでしょう。
では、彼らを虐めて喜ぶのは誰だって考えたら思い浮かぶのは知事、あなただけです。ご自分は今回の選挙で落ちて無職になります。だから相手も無職にしようと思ったと、誰でも思います。
万が一本人が関与していないとするなら、誰が圧力を加える指示を出して、誰が嫌がらせの指示を出したのか、自分で率先して追求しなければ、全て自分の責任と判断されかねない、という想像すら出来ない人物でした。

知事として4期に渡ってやってきましたが、確かに先頭に立ってやったことは一度もなく、ただ指示しているだけの人物でした。富山県民として恥ずかしくて仕方がありません!」

県議が話しているそばから、知事が叫び続けている。与党には最悪の映像となった。

マスコミが騒げば世論も更に沸騰する。「事態の混乱を招いたのは誰なのか。与党は早急に関係者に謝罪して、明らかにすべきです。圧力を掛けて仕事を奪う国なんだと世界に知らしめてしまったのですから、いち早く非を認めて関係者を処分する必要があります。
もし自分が同じ扱いを受けたなら、どう思うか、その結果は明らかです。国と政治を嫌悪し、突然職を失った事実に絶望しているでしょう。
本当に酷い話です。恥ずべき話です」

ーーー
これも異例の事態と言われたが、米中露の大使が「不当だ!」「不愉快だ!」と揃って日本政府を批判していた。

米国大使が大使館への勤務を勧めたというと、中露の大使も「我が大使館で働いてほしい」と公言する。一般の方々は「なぜ大使がこの問題に言及するのだろう?」と疑問を感じていた。

そのタイミングでモリは住民票を大森の家に移し替えると、都知事選と同日で投票が行われる、東京都の大田区都議の補欠選挙に届けを提出すると、選挙活動のための準備に即時取り掛かってゆく。

ホームページが富山のエンジニアたちによって迅速に作成されると、都内の各国大使がモリと会談前の写真を使って「必勝!」「Sure victory!」「Уверенная победа!」「必胜!」といった各国語と共に書き込まれてゆく。
「都知事の候補者よりも、もの凄いホームページ」として、話題になる。

京急大森海岸駅の駅前の空き店舗を見つけると、長期契約を交わして「PB Mart」に3日で変えると店長としてレジに立った。京急平和島駅の国道沿いの営業停止していたガソリンスタンドを改装もせずにダンボールに「PB Enagy」として「レギュラーガソリン120円!」の幟を並べて給油を開始すると、店の前でチェッカーフラッグを振っていた。大森町駅前のスーパーと提携すると東南アジア製のコカ・()ーラやペプシコー()等の清涼飲料水、日清々食品のタイ製、ベトナム製カップぬ~ドルやケルビーのご当地ポテトチップスや、やっぱえびせんの販売を始めていった。
たった一人で営業して1週間後には営業を始めていた。

都内のメディアにすれば「クビになった高校教諭」としてモリを取り上げて、富山と同じ内容の店舗を紹介する。公示日の2日前なのでなんとか報道できる。

富山からタンクローリー車が毎日のように来るほどの活況を呈しているので、周辺のスタンドも契約したいと問い合わせがくる。中国大使館が品川港のオイルタンクが使われず空いていると調べてくれると、、サハリンからの小型タンカーの行き先に品川が加わった。

品川埠頭の空き倉庫を米国大使館が契約したので「使ってくれ」と大使がHPに書き込むと、「この候補者は何者なのか?」と有権者や都内の人々は悩む。

大田区界隈でガソリン最安値店が生まれ、暑い夏に向けて安い東南アジア製のビールやコーラが安価に買えるようになったと「クビになった高校教師」に注目が集まると、元教師の候補者は、大田区の商工会議所を訪問し、区内の飲食店や店舗へ小麦を7月値上げ前の価格で提供したいと申し入れると、「神様、仏様、モリ様」と言われるようになる。

最も愉快だったのはJR大森駅前、京急蒲田駅前での演説だった。米中露の大使が仲良くモリの応援演説を行った。皆さん自国語で演説するので「プルシアンブルー社のAI翻訳アプリ」で演説者をフレーズごとに発言を止めて、モリが日本語訳された音声を流した。

「この翻訳ツールはスゴイ!」とアプリの方が話題となる。

富山以上に選挙らしい、選挙活動を日々過ごして運命の7月5日を富山駅前とJR大森駅の商店街の選挙事務所で待つのだが、商店街のモリの事務所の方は同じ制服を着た中高生で溢れかえっていて、商店街を埋め尽くしている。

教師が如何に慕われていたかを如実に伝えていた。選挙速報の番組が19時に始まる。都知事選よりも富山県知事選よりも、今回は大田区都議の補選が注目を集めていた。

「20時の開票が始まり、富山知事選の当確が伝えられると大騒ぎになった大森の商店街ですが、元教師の選挙結果を待つ千名以上の中高生が選挙事務所に入り切らずに、ゲートのある商店街に今も溢れかえっています。元教師の事務所で用意した夕飯用のお弁当と清涼飲料水の1500セットが足りなくなり、お弁当にあぶれた生徒の分を、事務所のスタッフが急遽近所のスーパーに調達に向かったほどです。
彼らは急に辞める事になった教師を再度教壇に戻そうと学校と教育委員会に嘆願書を提出した生徒たちです。モリ候補は選挙の終盤戦でトップ当選確実と見られた与党候補者を猛追し、出口調査ではほぼ互角の状況となっています。大田区、今最も熱い選挙区と言ってもいいでしょう」

「すごいですね・・与党幹事長の持技さん、この商店街の映像を見て、何かお思いになりませんか?」

「いや、慕われていた先生だったんだなと言うのは、よく分かります・・」

「わずか数日で立候補を決断して、与党の対立候補として最後は急激に追い込んで来ました。与党の幹部の応援演説に対し、各国の大使が応援演説するという異例の事態となりました。米中露はこれは人権問題だ、訴訟すべきだと言っていますが」

「はい、お見事としか言えません。頭が下がる思いです。申し訳ありません、今はこれ以上の事は申し上げられません」

「生徒たちの学校の校長は、文部大臣から直々に連絡があり、従うしかなかったと最近になって発言していますが、与党が何かしら圧力を加えたと見ていいんですよね?」

「はい、鋭意調査中でして判明次第、お伝えしたいと考えております」

幹事長が言い終わる前だった。商店街が大騒ぎとなりカメラが大きく揺れ、映像が乱れた。

「20時33分 モリ候補に当確が出ました。杜先生、おめでとうございます!」

生徒でごった返していて、杜の後頭部しか分からない。本人は泣いていたので、カメラに背を向けていたらしい。

急遽、補選に立候補したモリは都議選に相手候補者より優勢と判断され、当選確実となった。2020年7月5日 無職から政治家に転じた日となる。

(つづく)


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