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(2)圧倒的な展開が始まる。 〜最早、対抗馬無し?敵無し?

8月となり、小麦の価格が上昇を初めていた。 

北半球夏季の恒例行事のようになっている降雨量の減少が各地の農作物に支障を来たし始めていた。各国の気象台が纏まった降雨が見込めないと警戒宣言を発令し始める。スペイン、ポルトガル南部、フランス南部では地下水まで完全に枯渇し、収穫前の小麦が立ち枯れている農地が散見されるようになる。北半球の小麦主要輸出国であるカナダ、ロシア、ウクライナ、旧満州、北朝鮮の穀倉地帯では、日本で品種改良された早生小麦の収穫が7月後半には終わっているので難を逃れたものの、欧州内での小麦の需給のバランスが崩れる可能性があると見做されて小麦の価格が変化した格好となっていた。   

欧州で干ばつの懸念が取り沙汰されている中で、追い打ちを掛けるようにアメリカと中国の穀倉地帯での降雨量減少と取水制限のニュースが報じられ、フォーカスが集まる。
「中国がロシアに例年以上の小麦供給の要請をした」「アメリカの穀物会社がオーストラリアとウクライナで小麦の買い付けを始めた」という情報が広まると、各国の農水省と穀物会社や商社が小麦を確保すべく奔走を始め、小麦価格の上昇カーブが日増しに強いものとなってゆく。

8月の月間予報が快晴続きで、纏まった降雨が見込めないと報じられると、あらゆる物資の価格が上昇に転じる。ロシアのウクライナ侵攻時の食料価格高騰、物価インフレの再現となるやもしれないとメディアが形容し始め、まだ当時の状況を朧げに記憶している市場が、過剰に反応してゆく。

同時に、猛暑前に刈り取りを終えた各国が採用した、日本が品種改良した早生小麦の改良種を求める国が急増する。当初は南半球での秋蒔き小麦向けの注文が主だったが、来春の種蒔き時に向けて必要数量を確保しようと販売予約を取付けようとする問い合わせが殺到する。
早生小麦の実りを豊かにする為には、専用肥料とセットで購入する必要があると推奨され、小麦改良種を提供するアルゼンチンとベネズエラの種苗会社と、小麦向け専用肥料を製造しているドイツ鉄鋼会社の子会社の肥料会社の株式が高騰し始める。地球の気候変動が状態化した中で、気温が高くなる前に収穫を実現する麦は、各国の食糧安保の観点から適していると判断されたようだ。
種苗会社と肥料会社の会長はイタリアとスペインの両サッカー1部リーグで活躍中の杜 火垂と杜 歩の兄弟なのだが、欧州ではリーグが始まったばかりで、小麦の種や肥料は直接会社の方に取材して欲しいと、試合後のインタビューの中で本人達が断るほどだった。ところ構わずに寄せられる問い合わせの数々に、辟易しているようだった。 

日を追うごとに被害が深刻な状況となり、干ばつ発生と各国政府がアナウンスがし始めると、これまでにない規模で被害が出る可能性があると識者が発言し、連日のトップニュースとなってゆく。

水不足の影響を受けなかった国では、小麦の市場価格高騰に注目が集まりがちになるが、欧州、アメリカ、南アジア、そして中国内陸部では40度近い高温の日々が続いており、湖や河川の水嵩が減少し、全ての農作物の成長に影響が出始めているとのレポートが各所から届くようになる。農産物を取り巻く状況が悪化の度合いを増していた。 
同じ夏場に収穫期を迎えるトウモロコシ、大豆なども生育不良と伝わると、家畜向けの飼料が高騰し始め、食肉価格もゆっくりと上昇を始める。

農作物、畜産物ばかりではない。特に欧州、アメリカで顕著となったのが各国の原子力発電所が川から冷却水が採取出来なくなるほど、河川の水量が減少する。已む無く、各国は発電停止の発表を行う。原発比率の高い欧米と中国は、食糧不足と電力不足のダブルパンチに見舞われる可能性が高まった。
ウクライナ侵攻時のロシア一国の元首の自己顕示欲と、地球温暖化に後手後手の現在の欧米国家が同じ土俵で比較されるようになる。環境対策に真摯に取り組み、気候変動に対する準備を整えている国には何の影響も生じていない事実があるだけに、G7、先進国という枠組みが実は極めて陳腐で脆弱なものでしかなかったと、人々は気付く。
小麦を始めとする農作物に影響の出ていない国々は、高騰した食糧価格の状況下で輸出を行い、先行投資した以上の対価を得ているからだ。

日本と中南米諸国と同盟関係にあるスペインとポルトガルには、両国南部の渇水対策と電力不足の支援として大型輸送機を飛ばして、輸送機の格納庫に収容可能な海水浄化システムを複数台搭載して、スペイン南部の飲料用水、農業用水をカバーし、中南米諸国産の食糧を提供している様を伝える報道が世界中に拡散する。    
「スペインに居るモリの子供達が直々に頼んだらしい」と、デマめいた話まで広まっていた。
スペインとポルトガル南部に日本連合の支援活動が展開されている状況に、より深刻な事態となりつつあるフランス南部、アメリカ南部、中国内陸部の人々は、スペインとポルトガルが受けている恩恵を羨んだ。しかし、日本と中南米諸国に輸送可能な海水浄化システムや発電機が何十台、何百台とあるはずも無かった。無いものねだりを出来ない3カ国は、人命優先を掲げて農業用水は諦め、飲料用等の生活用水を不足している地域に供給する一択に打って出る。この政治判断を受けて世界一の小麦生産量を誇った中国と、小麦の自給体制を確立していたアメリカ、フランスが全量の小麦を輸入に頼る可能性が高くなったと市場が判断して、小麦価格が更に上昇を始めた。

対策に追われる国と、潤沢な電力と食糧と共に夏を過ごしている国の対比は「アリとキリギリス」の寓話で語られるようになり、フランス、アメリカ、中国の首脳の顔をしたキリギリスがハンモックで寝ながら、ギターを奏でながらビールを飲んでいる風刺画がSNS上で目立つようになる。
各国首長と政府と政治に対する不満は当然のように日増しに膨れ上がる。あらゆる生活物資が高騰し、暑い夏に冷房が使えない状況に、民衆の鬱憤が溜まってゆく。

「何故、原発を沿岸部ではなく、内陸部に建設したのか?」
「何故、農産物の品種改良を進めなかったのか?」
「渇水に対する用意がなぜ何もなされていないのか?」と、他国には出来ているものが自国では一向に検討されぬまま、後手後手の状況となっている状況に、民衆の鬱憤が次第に怒りへ転じてゆくのだが、後手後手の政治に民衆のガス抜きの場が提供できる程の甲斐性がある筈もなかった。  

供給される飲料水が制限され、潤沢に電力が来なければ熱中症患者も増加する。救急対応がパンクし、搬送患者の急増で医療崩壊が各所で発生する。
紛争と新型コロナウイルスが一度にやって来たような混乱を来すと、政府の対策の遅れにたまりかねた民衆は暴徒化し始める。
欧米人、中華系の人々は頭に血が登りやすいのか、都市部の商業施設が破壊され、食料品の略奪行為が状態化してゆく。都市部の混乱を受けてアメリカはメジャーリーグの興行を休業し、フランスは開幕したばかりのデビジョンAの中断を決める。中国のサッカースタジアムで暴動が起き、警官隊が死傷する事態となったからだ。
 
ここまで広範囲に混乱が広がると、国連も特定の国だけの為にレスキュー部隊の派遣をする訳にも行かず二の足を踏む。影響の出ていない国々もアメリカ、フランス、中国への支援活動を一時中断せざるを得なくなる。
各国の空港や港、軍事基地に集積する物資を狙った犯行が散見されるようになっていた。民衆が物資の配給を待つ、秩序ある状況であれば良いのだが、各国の警察や軍、港や空港の管理を司る者達までが物資の横領に手を染めると、国内供給網を国が統率しきれない無秩序な状況となる。
中国地方部の人民解放軍が住民側に立って略奪行為を支援、増長している状況にあると報道されると、アメリカ、フランスに燃料や食糧などの物資を送っても略奪対象となるとみなして、食糧・燃料などの物資輸送の一時停止を決定する。                ーーー                     官房長官をキプロス島へ派遣している頃、阪本首相が記者会見を行い、8月末に2度目の内閣改造を行うと発言する。経産大臣の中山智恵以外の大臣は全て交代となり、例の如く議員当選回数など無視した大臣、副大臣の選考となる。
与党・社会党自体が学識経験者の議員比率が高いので、適性が高いと言う事もある。大臣の平均年齢が51歳と歴代でも最も若い内閣となる。
また、8月の恒例行事としている首相のアジア歴訪の行き先を、中国の北京・南京から旧満州に変更すると発言する。中国国内の騒乱事情を勘案して、南京市の虐殺記念館や北京郊外の盧溝橋への訪問を中止して、ハルビン市の旧日本軍731部隊の犯罪歴史館とロシア領と黒竜江省のノモンハン事件跡を訪問先を変更するという首相の判断は適切なものだった。 
今年で敗戦から95年目となる夏に、嘗ての激戦地や日本が犯した残虐行為の行われた地に国の代表者が出向いて頭を垂れるのは、社会党政権にとっては重要事項となっている。旧日本軍の最大の過失を懺悔出来ない中国国内の状況下では、致し方のない判断だった。    
また、旧満州への訪問団には、新外相に就任する官房長官のモリ・ホタルと社会党幹事長の柳井純子の2人が加わると首相が明かす。与党3役の変更は年内は見送る方向となり、外相退任の決まった杜 里子は与党の副幹事長職に就任し、事実上の幹事長として任に当たるらしい。     

首相は会見の場で新任の柳井治郎防衛大臣のミッションとして、来年、再来年の防衛予算を今年並みの規模に据え置く方向で検討してもらうと明かして、記者達を更に驚かせる。  
阪本政権の2閣僚、首相補佐役の官房長官と重要閣僚の一つである防衛大臣に柳井兄弟を据える人事となり、与党幹事長、柳井純子元首相の存在感が益々強くなったと記者達が驚いていると、党の3役は変更しないと明言していた首相が、柳井幹事長には「ベネズエラ政府顧問」の役職を付けて、週の半分はベネズエラに滞在して大統領の補佐の任に当たるとも述べた。       

首相の記者会見での発言を受けて、旧経産省の建屋を改装した社会党本部に記者達が殺到する。事実上の幹事長職を引き継ぐ事になった 杜 里子外相が既に党本部に移動しており、急遽会見に臨んだ。演壇に立つ外相の後方には、ベネズエラで大統領筆頭秘書官をしている筈の杏・バーンズが控えているので、記者達が驚く。
angle社の前社長が日本に里帰りしており、母親の秘書官に就いたのだと知る。        

「モリ大統領がベネズエラとアジアを行き来されているのはご存知かと思いますが、ベネズエラで執務に当たって居られる間、柳井幹事長が大統領補佐官として大統領を支えます。その為、ウチの娘があぶれますので、私の補佐をして貰う事にしました。        
ベネズエラ大統領府での活動同様に、これまでのメディア企業での社長職の経験を活かし、社会党と日本政府の広報担当として兼務してもらいます。大統領筆頭秘書官として鍛えられた手腕に多いに期待しております。実の娘を側に置くのは気恥ずしさがあるのが正直なところですが、大統領に叩き込まれたノウハウの数々を日本政府内でも広めて欲しいと願っています」       
記者に質問される前に先んじて自分で触れることで、この場をやり過ごす事にしたようだ。  

しかし、出てきたのが弁の立つ外相なので、記者達は遠慮なく質問の数々をぶつけてゆく。外相としての残りの就任期間は短いものの、久方ぶりに国連軍として派遣したキプロス駐留の自衛隊に関する質問、中国国内の治安悪化で中止となったが北京政府との首脳会談でどのような議論をする予定だったのかとか、防衛予算軽減の継続への自身の意見を求めてくる。与党内というよりも、対外的な質問ばかりを掲げてくるので里子は思わず笑いだす。社会党担当記者なのに、外務省担当記者のような質問ばかりしてくる。日本のメディアも成長したなと率直に感じていた。     

里子外相が「次期幹事長」として無難に返答している裏では、AIが提示する「模範回答集」から、幹事長秘書官となる杏が「最良」と判断した回答候補案を、母親のタブレットに転送する。  
短期間ではあったが、モリの元で国際問題を重点的に学んだ効果が早速出ていた。日本政府の場合、経済規模的に世界2位、3位とは言え、取り扱う国際問題の幅がベネズエラよりも限られたものとなる。辺境の極東の島国なので国際音痴になりがちな筈なのだが、自衛隊に国連軍参加の役を久方ぶりに担わせて、国際貢献活動の表舞台に再び立とうとしている。 
その一方で額面では世界2位とも3位とも言われていたる防衛費を、3年連続で世界12位のイスラエルの軍事費並に据え置く検討を始めたというのだから、記者が根掘り葉掘り聞きたがるのも当然だった。記者が疑問を抱いている箇所が様々なので、質問も多様なものとなり、意見と回答を求められる外相には正直、しんどいものだったが、AIと杏のサポートで卒なくこなしていった。

この首相と外相の記者会見報道を受けて、国内が混乱状況にある中国政府では日本首相の訪中が中止となった経緯を再度陳謝してから、日本の防衛予算の減額継続意向を歓迎しつつも、自衛隊と北朝鮮に駐留する中南米軍に劣る中国の国防力の現状を鑑みて、自国の国防費の削減までは与しないと述べる。
「人民解放軍の置かれている状況を日本政府に説明して、ご理解いただくようにしたい」と中国外交部の報道官が補足した。        

その一方で、中国の軍事力を全く不安視していない日本は、「日本政府の判断をお伝えするのが目的で、両国間での軍縮交渉を我が国が望んでいる訳ではありません」と官房長官に復職が内定している柳井太朗副官房長官が、父親譲りの笑みを浮かべながら伝える。
この日中間のアナウンスが、軍事的には「中国側が劣勢」の状況にある事を公の場で明らかになったケースとして、各メディアが取り上げるのだが、中国国内での受け止め方が大きく異なるものとなる。
「日本が防衛費を削減する好機を逃がすな、我が国も軍事費を削減して、食糧増産、上水道の改善、発電事業の抜本的な改革に乗り出すべきだ」と、市民デモ隊がシュプレヒコールを上げて、地方都市の役所に投石をし、各所で警官隊と衝突していた。 
そんな中国内の混乱はさておくかの様に、マスコミ各社は、日本政府の一方的な防衛費削減が出来うる背景に解説を加えてゆく。      
今後、自衛隊が中南米軍化・無人化を進めて、各国が開発も採用も出来ない兵器の数々を、優先的に配備し続けている自衛隊の状況を説明し、中国外交部が会見の席上「我が国は日本の無人化兵器を脅威として捉えている」と発言した背景の補足説明を加えてゆく。また、世界の国防を調査研究している中国とアメリカのシンクタンクが、フィリピン、タイ、ビルマ、北朝鮮、台湾、チベット等の周辺国に駐留している中南米軍と自衛隊、そして来年新設される北朝鮮軍の潜在的な軍事力を把握不可と位置づけている下りも紹介する。昨年の太陽フレアによる偵察衛星、軍事衛星の消失が尾を引いており、衛星を使った情報分析が未だに殆ど機能していない状況を明かしたものとなる。

世界のメディアが日本の防衛費低減に賛同の意を伝えながらも、日本のメディアは防衛費を削減する理由と、具体的に何を削減するのか、政府に確認するのに躍起になる。         

「水不足、電力不足に見舞われている今の中国側の混乱を除けば、我が国を取り巻くアジアの状況は、極めて穏やかなものとなっていると受け止めています。周辺国であるASEAN、台湾、韓国との間で中南米軍が防衛協定をそれぞれ結んでおり、仮に有事が生じたとしても即時に対応できうる状況になっています。
また、来年には同盟国である北朝鮮でも自前の軍の配備が決まっております。同盟国が相応の防衛装備を抱えるので、自衛隊は我が国の防衛に専念できると判断いたしました」   
記者会見場での阪本首相の発言は、極めて無難なものだった。中南米軍が中国包囲網を敷いている状況下で、島国である日本が攻撃対象、侵略対象となる可能性は過去最低水準にまで減じている。攻撃対象になれば核攻撃以上の被害となり兼ねない原子力発電所の解体作業も順調に進んでおり、来年中の解体撤去が確定している。仮に各種ミサイル攻撃を仕掛けても、防空迎撃システム「ヤマタノオロチ改良型」で、迎撃可能な弾数を東アジア各国と宇宙空間に分散配備している。        
 自衛隊隊員数は人民解放軍に勝てずとも、弾薬数と航空兵力、海軍力では台湾軍、北朝鮮、フィリピン駐在の中南米軍との総合力では勝っており、唯一のウィークポイントとされている兵士数も、ロボット兵を配備投入することで、人民解放軍を上回ると見なされている。
陸海空の3軍で中国が勝る兵器は皆無とするレポートを欧米の各シンクタンクが纏めているが、防衛省はそれに対して批判も肯定もせず、他国との軍事力比較には沈黙を続けて居た。    

それでも、盆前に一時休会する国会では衆院予算委員会が開かれ、防衛予算の削減の是非につき審議が行われる。 
無人艦、無人機、各種ロボット・ミサイル類を自衛隊は全てレンタル利用して、所有コスト、保守維持管理コストを大幅に削減する方向で考えていると、防衛大臣がコストダウンの手の内の一部を明かす。
6月の入札コンペでベネズエラ製のAI採用に決定したのも兵器レンタルを想定したものであり、来月には中南米軍太平洋艦隊の戦艦大和と空母信濃を海上自衛隊がレンタル所有し、製造して12年が経過した,ヘリ空母2隻とミサイル艦、フリゲート艦の計5隻を中南米軍に売却して、Gray Equipment社が改修した艦船を、新設する北朝鮮軍がレンタルする計画案を国会で審議して欲しいと明かした。             

同盟国間で兵器をレンタル利用する発想自体が斬新なものであったが、日本人首長の国同士では違和感が無いだけに、予算委員会に出席している議員達も納得してしまう。      
借り物とは言え、大和と信濃を日本が利用すると言うので議員達も賛同してしまう。2隻だけで海上自衛隊の売却する艦船の能力を越えるとするレポートが添えられると、「政府方針に異議無し」と予算審議会での受け入れが容認の方向へ大きく傾く。
 防衛省は自衛官の募集は止めてロボット兵を増強する姿勢を打ち出していたが、防衛大学への入学希望者は毎年増加の一途を辿っている。パイロット希望者、潜水艦、補給艦の乗務希望者、陸海空自衛隊の情報分析部隊等への後方支援部隊への入隊希望者は増加し続けていた。
今迄は希望者全員が入学できた防衛大も「学部」によっては倍率が上がり、成績優秀な者でなければ入学出来なくなっている。
大和と信濃は無人艦だが、艦隊の中にはまだ人員が必要な艦もある。防衛大の倍率が更に上がると想定している防衛省は、日本の各地を点々と移動している、初代武蔵を防衛大の訓練艦として中南米軍からレンタルする方向で協議しているとも明かす。ハリボテの主砲や重火器にしていた理由は、訓練艦にする為だったかと、誰もが納得してしまう。              

 旧満州ハルビン市を訪問中の阪本首相一行は、日本の国会審議内容を中国や韓国が注視しているのを察しながら発言する。本来ならば北京市内の盧溝橋訪問後、南京市に移動し、日本の首相として初めて虐殺記念館を訪れていたのに、残念だと述べてから、記者の質問に応えた。  

「海上自衛隊が大和と信濃を戦力に加えて、初代武蔵が将校候補生の訓練艦として使われる。これは事実上の海軍力増強ではないか」と、中国の記者が質問すると、首相に随行している次期外相に内定しているモリ・ホタル官房長官が首相の隣から首を突っ込む。首相が触れるまでもないと判断し、官房長官がしゃしゃり出た格好となる。  

「再度、強調させていただきますが7艦を削減して2艦追加するという話です。 人民解放軍の海軍将校が日頃おっしゃっている「海軍力は装備ではなく戦艦と空母の数の多さだ」というご発言に代表されるように、中国は艦船数を増やすべく軍事費を上げ続けて居ます。
中国政府とあなたのご発言が矛盾している様に私は受け止めてしまうのですが、如何お考えでしょうか? 
我々は防衛力を落とさずに、全体のコストを下げる検討をし続けております。数ではなくて質の向上に重きを置いているからです。しかし、中国側は軍事力の優劣は数というスタンスを建国されてから首尾一貫して貫いていらっしゃいます。軍事力に対する見解、土俵が一致していないが故に、双方で軍縮交渉をしようという話も気運も生じないのですが、内容と質を重視する姿勢を我々も変えるつもりは全くありませんので、中国側がスタンスを変えない限り、双方が平行線を辿るのは致し方がないものと捉えている次第です。   
あなたのご質問を伺って、我々と同じように艦船数ではなくて艦や搭載しているミサイルの性能差に重きを置いている方だと判断して、このようにご回答させていただきましたが、いかがでしょうか?」と、皮肉まじりに話す。
中国の主席と外相だけが、中身はモリ夫人ではなく金森元首相だと知っているのだが、世間一般的にはモリ夫人の発言として、中国メディアも解説記事で注釈を加えてゆく。    

「中国人民解放軍は中南米軍や自衛隊との差を埋めるべく軍事費を増やし続けている。予算枠を増やすための論法として、従来の兵法に則って、兵士の数、航空機・戦車の数、そして海軍の継戦能力を維持する為に戦艦と空母の数は絶対的なものだと第二次大戦中の論法を未だに続けている。
しかし、ミサイルだけを比較しても命中精度や飛翔距離と速度は、日本連合に格段に劣る。
単純比較出来ないにせよ、A-1戦闘機や大和や信濃の戦艦空母能力だけでも、中国の兵器とは雲泥の差があるとされている。日本連合は複数の艦船や航空機を纏めて攻撃可能とする能力を特化させてきた歴史があるが、日本のモリ・ホタル次期外相は中国側の矛盾点を付いて、過剰な軍拡に邁進している人民解放軍を暗に憂いてみせたとも言える」との記事が人民日報に掲載され話題となる。官報である同紙がまさか掲載を認めるとは、誰も想像もしなかった。

金森鮎が狡猾なのは、中国とアメリカの国内の混乱ぶりを視野に入れた発言でもある。  
中国人民解放軍と米軍が数に固執せざるを得ない背景には、内容と質で中南米軍と自衛隊に劣っている実態を覆い隠す必要が有る。中南米軍並に兵器の性能向上は計る事のできない中国とアメリカは、新製品の開発の為に国防費の大半を投じることが出来ない。そもそも技術力に限界があるので、中南米軍に対峙可能な兵器の開発が出来ない現実がある。     
日本連合に「追い付く」為には、第二次大戦下の「数の論理」を掲げるしかない。中国もアメリカも共闘した訳では無いのだが、数の論理を掲げてマヤカシの軍事力を誇る策を弄した。日本連合としては、何時までも数の論理で誤魔化しているのは限界があり、国防費の中身が粗製乱造を前提にしたものとなっていると国民が知れば、状況は変わってくると見ていた。中国では国防費削減をして、自然災害から防衛するための予算を増やすべきだと言う論調が既に起こっているので、中国の方が早く変化するかもしれない。

事実上の北朝鮮領内となっている旧満州を去るにあたり、中国国内の「干ばつ対策支援金」として、200億円の支援金を黒竜江省の前田知事に託して、中国政府側に渡して貰うように伝えるとどちらの政府が上手なのか、ハッキリしたものとなる。           
ーーー                     8月となって本格的な雨季を迎えた、赤道に近いエクアドル、コロンビア、ベネズエラ等の国々では北半球の干ばつの余波なのか、例年よりも降雨量の多い日々が続いていた。   
雨季と言えば2日に一度は雨降りとなるのが恒例だが、月が変わってから雨の日ばかりとなり、朝夕に青い空が時々見れる程度だった。     

2020年代にモリがベネズエラにやって来る以前は、街が水浸しになるのが恒例だったが、中南米諸国連合を打ち立て、軍事部門・老人介護、老年年金の3部門統合の他に力を入れたのが、各国の都市インフラ再建だった。ベネズエラに3事業を委ねた事で、浮いた各国の予算を都市部の下水事業と送電事業に優先的に割り振った。各都市地中に張り巡らせた下水管と並行するように送電ケーブルを地下に埋め込み、電柱を街から無くした。  赤道に近い国では人口の大半が都市部に集まっており、都市部の地下整備を進める事で下水普及率が9割以上に達した。各建屋からの排水量だけを基準とせず、年間降雨量から積算して、降った雨を直接海へ放出する口を設けた。日本の下水道で見られる、下水処理場から河川に排水する方法を取る必要が無かったのも、主要都市が沿岸部にあるという南米赤道エリアの特性が作用した。ペルーやボリビア等の山岳部の都市は河川放出をせざるを得ないが、降雨量の増える雨季には雨水をストックする溜め池を地下に作り、ダイレクトに河川に流して河川決壊を下げた。下水処理施設が完備されたことで河川下流域の汚染度が改善し、主要沿岸都市の衛生面も向上している。郊外や地方の一部では降雨量増大による土砂崩れや川の氾濫が生じたものの、決壊場所の予測や河川増水時の対応マニュアルに則って中南米軍が対応し、大規模な被害までは至らないケースとなっていた。    

そして、中南米諸国を代表してハイチのカールソン大統領とギアナのガーデニング首相が騒乱中のフランスを電撃訪問する。
日本が中国政府に送った干ばつ義援金と同額の200億円相当の支援金を届けるのが目的だった。

同時に、国内治安の悪化と燃料不足でフランス本国から南太平洋の仏領ポリネシアへの物資が滞っている状況下で、ハイチやボラボラ島への生活物資輸送を中南米諸国連合が代行したいと進言し、認められる。
フランス政府やフランスのメディアにしてみれば、苦痛以外の何者でもなかった。嘗てのフランスの植民地であるハイチとギアナの首長が騒乱中のパリを訪れて、フランスが放置した状態になっているポリネシアへの支援を代行するというのだから。          
更に、提供された200億円の使い道として、干ばつによる水力発電停止、河川の干上がりで冷却水の採取不可で操業休止が続く原発の代替策として、エコ・アンモニア火力発電所の建設はどうか?早生小麦の種と肥料を購入してはどうだろうか?と、逆提案まで持ち出してきた。支援金を持ち出してから、フランスが必要なものを買えとプレゼンをし始める用意周到さは、直にマスコミの知るところとなる。         

 当然ながら、何社かのメディア会社に情報リークしたのはベネズエラ政府だった。 

 (つづく) 


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