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(7) break one's own path by oneself(2023.9改)

「「クビになった高校教師」という呼称で名を馳せたモリ都議一行が台湾入りし、台湾の副外相が一行を出迎え、総督府で総統と2時間に渡って会談するという異例な対応を、台湾メディアが一斉に報じております。
モリ都議自身も台湾入りするまで知らされていなかったそうで、台湾内でのスケジュールも全て政府側で変更したとのことです。
モリ氏は製造大手のフォッグスコン社とTMmSC社を訪問するのが目的でしたが、同氏が議員前に設立した企業が製造する農作業複合機の提供を、総統自ら直訴したと政府のスポークスマンが午後の会見で明らかにしました」

そんな台湾メディアの映像を流している日本のニュースを眺めていた蛍は、映像の一部に異質な人物を見つけた。慌てて富山のローカル局に電話する。
「映像を記録に残して置きたいので、ニュース映像を提供いただけないでしょうか」と、杜の妻で、富山知事の秘書官ですと口調は嬉しそうに、しかし胸のうちは疑心暗鬼が膨れたままテレビ局に要請した。
テレビ局の快諾を貰うと、そのテレビ局のニュース一覧をネット検索して、同じニュースをPC上で再生した。

「間違いない・・」蛍は頭を抱えながら、何度も動画を再生する。

夫の表情は明らかに困惑している。本人も知らないなんて、ありえるのかしら?でも、夫の顔はそういっている。複数の妻と養女を抱えると知った、あの日の顔と一緒だった。モリの後ろにいる里子と杏も、下を向いて何かを考えているように見える。

本来なら、笑顔を絶やさない場面なはずなのに。「違うって。総統に会ったからじゃない。あの人はその程度では動揺しない・・」アナウンサーのコメントを否定するかのように囁いてから、蛍は大きな溜め息をついた。

ーーー

日本の外務省の里中史帆は首を傾げていた。通常であれば騒ぎ出す中国大使館が何も言ってこない。
つまり、モリが大使館に台湾入りする旨を事前に伝えていたとみていいだろう。実際は裏でアメリカが台湾政府側に情報をリークしていた。台湾側が入手していた ある情報とバーター取引を交わしていた。
里中は事務次官あての報告文書の作成に取り掛かる。「台湾政府のお陰で、計画の成功率は高まったと推察する」最初に末文を書いてから、

「良し、この結論で行こう!」と頷いた。

「教師をクビになるとか、台湾総督と会談するとかさ、否が応でも注目を集めちゃうラッキーボーイなのかもしれないね、あなたは・・」 里中史帆はそう呟きながら、キーボードを叩き続けた。

ーーーー

「都議会閉会中ですが、補選で当選した新人議員が、ベトナム、台湾を訪問し、両国で外交紛いの活動をされていますが、日本政府と外務省は新人議員の行動を把握されていたのですか?」

中国メディアの記者が日本の官房長官に尋ねる。

事前に提出した上での質問しか、日本は受け付けない。この冴えない官房長官になってからだが、「私はバカだ」と認めているのと同じだと記者は思っていた。今回は、事前に質問を提出している事実を自分で認めてしまった。こんなんだったら、誰でもいいだろう?と記者は思う。スポークスマン役と言うより、官房機密費の金庫番の方を重視しているのだろうが、「バカに大金持たせてもいいのだ、この国は」と思って、笑うしかなかった。中国政府なら公金着服で、即刻更迭だろう。

「外務省に確認したところ、海外渡航申請は出されており、ベトナム政府と台湾政府からは、特例措置のもと入国時の待機期間は免除されていました。帰国前日の検査で無症状、陰性であれば入国を認めて、自宅で数日間待機の予定となっています。台湾総督、台湾政府とのコンタクトは議員本人も想定していなかったと外務省の担当者にメールでの報告と、滞在スケジュールの変更要請が届いたようです」

「台湾総統と2時間の会談と夕飯時は会食を共にしていますが、会談内容は把握されていますでしょうか」中国人記者は茶番の質問を「発言」する。事前に提出済なのだから、「読んだだけ」だ。

「まだ御本人からの報告がありませんが、報道どおりだとすると、農業関連の設備の要請というお話です。いずれにしましても詳細が分かり次第報告致します」

「コロナ対策の遠隔医療サービスを台湾が欲しがっているという情報もありますが、その辺は聞かれてませんか?」

何故か中国とアメリカのメディアが今回参加しているのだが、手順を無視して発言してきたアメリカ人記者の質問に官房長官は答えられない。滑稽なオッサンだぜ、と思いながら、官房長官の後方に来た真の官房長官である官僚の話を何度も聞き返し、官僚がOkサインを出すのを見ていた。記者はニヤニヤと笑っていた。

「ワカラナイ?そうですか、では赤坂に聞いてみます。そっちにはモリさんのレポートが届いているかもしれませんしね。ほんじゃ、失礼します」

アメリカの記者は会見室から退席してしまった。後で官房室から注意されるのを避けたのだろう。

逆に赤坂、米国大使館の意図を汲んでやって来たのでは?と官房室と外務省は勘ぐった。モリは米国側に報告する立場にあるのかと、選挙時の付き合いは一時的なものではないかもしれないと、政府も外務省も、そして都も疑心暗鬼になった。

日本政府は、例外は認めないとして米国メディアの質問箇所をカットし、場に居合わせた記者に他言無用とソフトな表現だが、事実上の箝口令を敷いた。
この1件で政府側は対応を間違えた。都議が関与した件で大事には至らないだろうと判断してしまった。念の為、伝えた記者は官邸への出入り禁止としたが、比較的有能な官邸番記者は、上長やデスクに報告して、モリを追う許可をもらう。

米国にレポートラインを持っているかもしれない人物で、海外では特別待遇を受ける地方議員の噂は、記者の取材意欲を掻き立てる。
富山で旋風を起こしている知事の義理の息子である地方議員が、富山でのプロジェクト全体を統括しているという話と辻褄が合うと判断した。
極めて異例だが、東京都担当の番記者の数人に、モリ都議を取材しろと指示が掛かる。都知事の下らない連日の記者会見よりも、よっぽど重要だと判断したのだ。

アメリカ大使館が狙ったのは、モリにメディアのフォーカスが集まる事だった。3蜜だか3振だか知らないが、連日連夜交通標語を唱えて、一人で悦に入っている醜女の会見に集まってる場合じゃないだろうと。

ーーーー

日本の官房長官の会見を受けてなのか、分からないが台湾メディアは滞在中の都議一行を報じなくなった。コロナで台湾に飛んで、入国出来てもホテルで待機を強いられるので、取材も出来ない。台湾メディア頼みだったが新しい情報は何も得られなかった。
帰国時に空港に行ってもコロナのために接触できずに、自宅に移動して待機生活となる。

そうなると初登庁(は既に済んでいるのだが)の17日の議会閉会後の記者会見を東京都の番記者が申請する。一人の都議の会見は不祥事がらみだったが、就任会見のような格好になってしまう。海外メディアから日本記者クラブでの会見も求められており、モリはメディアの幹事会社に連絡し、日本記者クラブで一本化するとホームページで通達した。日本記者クラブには通訳は不要と伝えた。

都庁に訪れたモリはまず各党控室の無所属の部屋を訪れて、会社みたいな自席で無所属議員と挨拶を交わした。翔子と里子はモリの机の場所を確認して、議場の傍聴席に向かった。

審議内容は都の一般会計補正予算で、日本政府の補正予算と同じで金額総額が幾らになるかの見栄を張るだけで、初日だから傍聴席に居る2人にチャットを使って補足説明し、解説していた。昼は最寄りの外資系ホテルのレストランに2人をご招待する。

「毎日ここで食べるんですか?」里子が聞くので

「まさか。適当に街で食べますよ」在宅ワークもあるのだろうが新宿の人通りが少ないので名店廻りもいいかもしれない。

「やっぱりお弁当作ります。私達も同じお弁当食べますから」翔子が意を決したように言う。

「ランチパックでカバンと別ですよね?中高生の時はカバンに突っ込んで、油やソースが染みて教科書やノートが汚れるんだよなぁ・・」

「いえ、お昼時にお持ちします。里子と交代で持ってきます!」
翔子が言うと、里子もしたり顔で賛同している。食べる場所は会議室とか食堂だろうか・・

「えっと、有り難いのですが今はコロナでどこも空いてますし、日中は暑くなるでしょうし、取り敢えず11日間は外食させて下さい。美味しい店探しておきますから」

そう言うと2人で残念そうな顔をする。
毎日来られて余計な噂が立つのも不味い。とにかく安全運転だと改めて念押ししておこう。

「先生と外食って、すごく久しぶりです・・」
翔子がまだ剥れている。2人共40過ぎには見えないが。こんなキャラだったとは・・

「夕飯は時々外に食べに行きましょうか。大森より大井町と蒲田の方が充実してるんですよ」それで許してもらうが、こんなのが毎日あると疲れてしまう。その点ホタルはラクだ。

「玲子もこんな風に先生に甘えてるんじゃないですか?」

「あぁ、なるほど。そういえばそうですね・・」

「やっぱり。玲子は翔子のクローンだもんね」「杏も里子にそっくりじゃない」

・・玲子はAgree。昼は杏で、夜は樹里かな・・

「今の顔、うちの子たちと私を比較しましたね?」

「正解です」随分開き直った言い草だが、里子はオブラートに包む必要はない・・

「先生も男の子ですもんね。比較しちゃいますよね」

「どの口が・・最初養子計画を知ったときは、この母親が娘の頬を思いっきり叩いたんですよ。あんた何様なの!って。同じ口が養子縁組を公認するまで、あっという間でしたけどね」

「不甲斐無い教師で申し訳ありません。本当に何も知らなくて・・」

「ちょっと、先生頭を上げて下さい。もう時効ですし、娘たちも母親も溺死状態なんですから」

「溺死って、何?」

「終わったあとの貴方よ、翔子。私もだけどさ」

昼からなんて会話だと思いながら、食後のコーヒーを3つ頼んだ。

ーーー

大手町の記者クラブに3人で地下鉄で移動して、待っていた志木さんを回収して会見場のあるフロアに移動する。

翔子に受付をお願いして、通訳を里子と志木さんにお願いする。自前で記者会見が出来る政治家は稀だろう。一人控室で未完の報告書を作成していた。

記者クラブの人に呼ばれて後をついて行く。受付の翔子がガッツポーズをするので笑う。本当に玲子そっくりだ。
部屋の中は立ち見の方もいるほどで、カメラマンは部屋の後方と両側に陣取っている。これではコロナ対策なんて難しい。

「前と後ろのドアを開けて、少しでも換気しましょう。エアコンは送風で最高出力にしても、今日は涼しいでしょうから」と言うと、早速対応し始めた。

「大変お待たせいたしました」と日本語で言ってから英語に換える。
「海外メディアの方々の方が多いので、英語でやらせていただきます。前の2人が交代で翻訳するので日本の方はヘッドフォンをお使いください。2人が対応できる他の言語は、北京語、スペイン語、イタリア語、フランス語です。宜しくお願いいたします」

と言うと拍手が起きる。すげえなスッチー。

「では質問にお答えする形で進めさせていただきます。ご質問のある方は会社名とお名前のあとに、質問をお願いします。では挙手をお願いします」

東洋人と西洋人しか違いがわからないので、選り好みせずに片っ端から行く。

「CNNNのアビゲール・フレッチャーです。議員は教師から政治の世界に転じましたが、その転換時のご自身の心情を教えて下さい。また、本日議員としてスタートされました。今日一日で予想していたものと現実の違いを感じましたら、お話ください」

そこで部屋のあちこちに扇風機が配置されだした。運んできた職員にサムズアップで感謝の意を伝える。

「上着も脱いでネクタイも外して、皆さん楽にして下さい。マスクだけ質問時以外は着用願います。床に落としてしまった方は居ませんか?余りのマスクはありますので。

まず、教師生活ですが約20年間で終わりました。教壇に2度と立てないと知った時は正直落ち込みました。私にとっては天職でしたので。
義理の母、今は富山の知事をやっておりますが、彼女の施策や公約をチェックしていたら、同じ日に選挙がある自治体があるんじゃないかとフト思いまして、幾つか地方都市の市長選挙もあったのですが、妻が育った母名義の家が大田区にあるので、そこに住民票を移して立候補しました。ちょっとだけ運命を感じたのを告白しておきます。ほんのチョットですけどね。

最初に頭に浮かんだのは生徒たちの顔でした。20年間ですから卒業生も大勢います。その子達に対してルーザーのままで、退いていいのか?と自問自答したんです。そうじゃないだろう、ウィナーであるべきだろうと判断しました。
最後の授業の機会も許されませんでした。ならば戦ってる必死な姿を見せて、自分の授業の代わりにしようと考えたんです。
「自分の手で、自分の道を切り拓けって(break one's own path by oneself)」よく言ってたものですから、やるしかないと腹をククリました。

偶々、クビになったから、たまたま補選が馴染みのある土地であったから、そして挨拶もできないまま学校を去った自分が、誰の支援も得られずにたった一人でどこまでできるのか?どんな結末になるのか想像も出来ない目標に向かって、あがき続けた元教師の姿を、生徒達、元生徒達、それからうちの子供たちの記憶に少しでも残ったなら、最後の授業として悔いは無いと思ったんです。

対立候補だった方々の誹謗中傷は、一切しておりません。どなたが立候補されてるのかも知らないままエントリーして、即選挙に突入したのでそこまでの分析も出来ませんでした。ただ自分のスタンスを選挙区の方々にご理解いただくために、絶対強者である与党と知事は徹底的に罵倒しました。この場を借りて罵詈雑言の数々お詫び申し上げます。
それから選挙区でもないのに大勢のご父兄の方々と生徒達、そして各国大使と大使館員の皆様、私の家族たちからはタダナラヌチカラをいただきました。熱く御礼申し上げます。
それから、私は無職から歩む道を見出しました。政治家である限り、最後の授業は続きます。生徒諸君、卒業生諸君、そして皆さんに何かしらお届け出来るよう、積極的に行動して参る所存です。

また、議員になった初日ですが、コロナ対策も含めた補正予算の審議でした。質問の順番が無所属には無かったので今日はただ拝聴していましたが、意味の無い補正予算だと痛感しておりました。全員の議員ととの職員の頭の中には補正予算の総額しか頭にないのです。

具体的に何をすべきかは一切議論しません。
適当な名称別に予算が分配されているのですが、その内訳は甚だ杜撰と申し上げるしかない。日本一の東京都だから、コロナ対策費は大阪府と神奈川に負けない額にしようとか、他都市の予算の動向を常に気にして切った貼ったしてるようにしか見えません。

「具体的なプランを掲げている富山県を参考にしてくれよ、そんな巨額な費用、どうやって返すんだよ?都民の税金なんだろう?」ってずっと思ってました。コロナ対策だけでなくナンバーワンとしての誇りが何よりも大事なのかよ、お前らは?とも思ってました」
日本語ではこのように表現します「人口が多いだけで、何もいいとこねえじゃねえか、てめえらの東京はよ!」

割れんばかりの拍手が起きたので、慌てて次の質問者に振る。

「毎朝新聞の浅井です。日本語で失礼いたします。議員は先日ベトナムと台湾を訪問され、失礼な物言いですが国家主席に該当する格上の方々とも会談されたと聞いております。両国への訪問の目的と成果、両国の国家主席とどんな話をされたのか、可能な範囲でお答え下さい」

「すみません、英語で失礼します。まず訪問の目的ですが、私が議員になったので、後任を紹介するのが目的でした。ベトナムの主席がお見えになったのは私達の製品を高く評価頂いたようでして、そのお礼の言葉をいただきました。
一方で台湾総統との面会は寝耳に水でした。
実は何をお話したか申し上げる事ができません。申し訳ありません。
外務省と通産省じゃなくて、経産省に丸投げしています。地方議員と弱小企業には荷の重い要請で判断が出来ないからです。よろしいでしょうか?では次の方、はい、あなたでお願いします」

「BBcCのアラン・ホワイトです。宜しくお願いします。
議員が会長を努めていた企業の遠隔医療ソリューションですが、ドローンが感染者や病人のもとに届くと、搭載したノートPCを取り出して開くとプログラムが稼働して、各地で待機している医師が画面越しに患者や家族と対話する、と言うソリューションです
画期的な自動プログラムの数々に魅了されたと、台湾のデジタル担当者から聞きました。恐らく、この話だから話せないんですよね?YesNoも言わないでいいですが、このソリューションの話で宜しいですね?」

「すいません。誘導尋問は苦手なんです。直ぐに顔に出てしまうので、後ろを向いていてもいいですか?」

「それでは何も分かりません。では横を向くのはどうでしょう?私と視線も合わせなくて構いませんので」

「いやぁ、これでも絶対に負けます。まだ新人議員で、嘘がつけない聖職に長年従事してたんですよ」

「でも、お嫌いじゃなさそうです、元高校教師さんは」

「そうですね。手品とか凄い好きなので、結末に興味を持っちゃうんです」

「ギャンブルのご経験は?」

「なんて酷な質問なんでしょう。勝ったことは一度もありません」そう言って十字を切ると場が爆笑した。

「では参ります。富山と岐阜の一部で始まったこのソリューションですが、携わった医師たちの称賛を浴びています。しかも、このアイディアを考えたのはモリさん、あなたです。台湾だけじゃない・・・ああ、お嬢さん方はダメですよ。せっかくのチャンスだったのに・・」

・・里子と志木さんも後ろを向かせて、受付を閉めて部屋に入ってきた翔子にも一旦廊下に出てもらう。彼は核心を知っていると思った。本当にマジシャンなのかもしれないし、詐欺師が最初は煽てる手法を取るのを踏襲している。インド人の詐欺師達に詐欺対決で「この、詐欺師め!」と言わせた日々が蘇る。

「・・仕方がありません。先を続けます。日本では富山県ばかりが先に進んでいる。コロナ対策だけでなく、PB Enagyの店舗が増えてガソリンは安いし、PB Martには安価な商品が並んでいる。周辺県からの買い物客が訪れて、小麦が安価に調達できる飲食店も好調で、県内経済は活況を呈しています。
小麦に関してですが、オーストラリア政府からは獣害対策の相談を受けていて、エミュー戦争とうさぎ戦争の・・」

モリがバチバチと大きな音で拍手して記者の発言を遮った。

「お見事です。恐らく正解でしょう。しかし、申し訳ありませんが今月一杯まで暫しお待ちください。それ以上のお話をされるとプロジェクトが瓦解してしまう。もの凄く困るのです、よろしいですね? アランさん、ご賛同頂けますよね?」

突然、モリの表情に羅刹(#)が宿ったように見えたので、アラン・ホワイト記者はギクシャクとしながら何度もコクコクと頷いた。視線をモリに戻すと柔和な顔をしている。背中が大汗をかいているのが分かる。

「ありがとうございます。あなたの面白い趣向に危うく載せられるところでした。お約束します。会見の前にあなたにご連絡いたします。第一報はあなたにご担当いただくように致しますのでお待ちください。さて次の質問の方、挙手願います・・」

アラン記者がマイクを握りしめたままでいるので、職員が手を叩いてマイクを返して欲しいと要求する。

「ああ、失礼・・」記者の額に汗が浮き出ているのを職員は見た。

エアコンに変えようと、リモコン装置まで移動した。

#(rākṣasa の音訳。速疾鬼・可畏と訳す) 仏語。人をたぶらかし、血肉を食うという悪鬼。男は醜悪で、女はきわめて美麗という。後に仏教の守護神となった。また、地獄の獄卒のこともいう。羅刹鬼。

(つづく)


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