マガジンのカバー画像

森羅万象・万物万象・南無阿弥陀仏

15
大院海の短編小説まとめです。
運営しているクリエイター

#超短編小説

籠目模様

籠目模様

 身体が抱えきれない呼吸を吸って息をしている。ぐらぐら揺れる自我が溶融する意識の中、遂に暴発して、世界と私の境目をどんどんとおかしくさせていく。膨らんで、膨らんで、やがて……落ちた。

 きっと、私は何処にだって行けやしないのでしょう。せせこましい籠の中で今日も独り、さいころの内に閉じ込められた一生に思いを馳せる。

【短編】あたしのちっちゃな宇宙

【短編】あたしのちっちゃな宇宙

 あたしのおなかには、「ウチュウ」がすんでいる。いつからあたしのおなかにいるのか、それは思いだせない。ずいぶん前だった気もするし、本当にさいきんだったような気もちもする。でも、ふと気がついたら、ウチュウはあたしのおなかにいたんだ。

 あたしはママがつくるハンバーグが大すきだけど、ウチュウはナスとかやさいがいっぱいのやきそばが大すき。だから、いつもやきそばの日はウチュウがはりきって、ほんとうにおな

もっとみる
【短編】したためて愛

【短編】したためて愛

幸せとは、何だろうか。

日常でささやかな幸福。繰り返される日々こそが幸せ、とでも言うのだろうか。私にとっては積み重ねた時間こそがそれに値していたのかもしれない。だけどそんなこともう、気がついたところで全て遅かったみたいだ。

すべてはさっぱり返ってこない。すべては無になって、有の隙間すら探させないくらいに……。いや、それは違うか。あれが恋ではなかったことの証明になっただけで、元々愛に対価なん

もっとみる
【短編】届いて花束

【短編】届いて花束

 愛されないことは、分かっていた。
最初から分かりきっていたことじゃないか。そもそも思いを寄せるのを許してくれたことを、あの人に感謝しなければいけないほどだ。叶わぬ恋。一方通行の、片思い。言ってしまえばその通りなのに、そのような普遍的な言葉で自分の思いを片付けられることが、どうしても嫌だった。
 その日の天気のことを、私はよく覚えている。春の始まり、めでたい日だというのに吹く風はちっともあったかく

もっとみる
【短編】雨垂れ

【短編】雨垂れ

叩きつける雨粒が身体を芯から凍えさせていく。
身体の内から湧き上がる、この暖かいものは何だろう。

ただ立ち尽くすだけの俺に、思い返す記憶は、いつも、雨。

【短編】ふかい

【短編】ふかい

 春だか夏だか秋だか冬だか知らないけど、天気は暑く成ったり寒く成ったり鬱陶しい。私にはすべてを包み込む丸く温かい日差しも、焦がし尽くそうと刺す日差しも、頭上から絶え間なく落ち続けるあの水滴たちも、何がしたいのか理解出来ない。理解したくもない。どうしてずっと同じ場所に在り続けているのに、そこまで変化するのか?何故この世界には、変わらないもの、というものが存在しないのだろうか?

 はっ、と届きもしな

もっとみる
【短編】Stalactitesed

【短編】Stalactitesed

 今から少しだけ前に、毎日その中心を通った校門。隅にはちんまりと「文化祭」の看板が立てかけられていた。あぁ、変わんない。そっと一瞥した後、入り口で受付を済ました。卒業生です、と告げた時に受付をしてくれたのは、見知らぬ先生。そうか、来てくれてありがとう、とにこやかに応対してくれた。ありがとう、なんて言われる筋合いは私なんかに、ないのに。先生、というひとはどうも優しいらしい。少し歩いて、滅多に通らなか

もっとみる
【短編】falling

【短編】falling

「今年もまた、来ちゃったよ」

そんな私を、君が笑ったような気がした。 いつもみたいに、私とは正反対だった長い髪を垂らした、君が。

 今は文化祭の中夜祭真っ最中。装飾の残った、薄暗がりの校舎の中はがらんどうとしていて、ほとんど誰もいない。それでもそっと目を閉じると、ついさっきまでの喧騒が頭の中で強く投射されて、生徒達の残した微かな高ぶりを感じることができる。

  私は、この虚空に浮かんだ時間

もっとみる