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女性のキャリアに関してはドイツも決して『楽園』ではない

こんにちは、taigaです。
先日、noteで下記の記事を見つけたので読ませていただいた。「子どもを産むたびに出世が遅れる女性地方公務員」と言うテーマだった。
僕はこれを読み、本テーマに関連して思い出した出来事があったので、ここにそれを投稿しておく。

ドイツは男女平等に関してはまだ割と保守的な国

2021年の男女格差レポート(Global Gender Gap Report)でドイツは11位だった。ここ数年、10位前後を行ったり来たりしているので、ドイツはトップ10の常連メンバーに入っている、とは思う。
現実に生活する上でも、少なくとも『男は』『女は』と主語が大きくならず、男女平等に関してはかなり配慮されている方だ。
しかし、やはりドイツ人全員がそのようなマインドなのかと言われると、それはもちろん違う。僕がお世話になっている教授は常にこう言っている。

„Deutschland ist auch kein Paradies“.
「ドイツも決して楽園ではないよ」

ドイツ政府は確かに国をあげてジェンダーギャップや性差別を無くそうとかなり一生懸命に取り組んでいる。ドイツにおいて選択制夫婦別姓が1994年に誕生したり、2017年には同性婚が可能となったのもまさにその努力の賜物だと思う。まだ割とマスキュリンなドイツの政治界で本当によくここまで進んだものだ。

ちなみに以前も書いたが、人権について・性別のあり方についての価値観・考え方は第二次対戦後までどの国も似たり寄ったりだった。この数十年でいかに諸外国が進歩を続けているかがわかる。これについて軽く触れている過去記事はこれだ。もし時間があればこちらも読んでみてくれ。

さて、そんなこんなで色々と平等に関する政策を進めて努力しているドイツだが、女性の仕事・就職の件についてはまだまだ保守的な一面がある。これについて僕は数年前、ドイツ人自身の考えを聞く機会があった。

職場で出世した直後に妊娠した女性について、ドイツ人男性の批判

僕の友人にはドイツ人が何名かいるが、これはその内の一人から聞いた。どうやらその友人の職場で、同僚の女性が『昇級した直後に妊娠した』らしい。
もちろん彼女は産休前まで働くとのことで、その後は半年か一年ほど育休を取って復職するとのことだった。

彼は職場でそのニュースを聞いた時に、反射的にこう思ったそうだ。

「何だよ、出世してすぐ産休・育休を取るなんて。戻ってきてもしばらくは時短勤務だろ?それで昇給後の給与を貰うなんてズルいんじゃないのか?しかもその後もどうせ二人目、三人目と続きそうだ。まあ、上手くやったもんだよな」

さて、このセリフを読んで、皆さんはどう思っただろうか?

僕は確信している。

日本人男性はほぼ100%(そして一部の日本人女性も)その彼と全く同じことを考えたのではないだろうか?
そして、その友人の同僚で『妊娠した女性社員』にムカつかなかっただろうか?

うん、断言できる。もしそうなら、あなたはまごうことなき日本人だ。

ちなみに海外では、たとえ本当は腹の中ではどう思っていようと『職場で妊娠した女性に対してそのような意地悪な発言は一発アウトなので絶対に言わない』と言う常識が割と徹底されているので、これは本当に素晴らしい。

日本ではそのようなことがあれば、均等法でマタハラ禁止となっていようと、そんなものは丸無視で、部署をあげてその女性を徹底的に吊し上げて叩き潰すイメージを勝手に持っているのだが、どうだろうか?かなり極端に書いたが、大袈裟だろうか、僕の考えすぎだろうか。

さてと、続きだ。この話の結末を覗いてみよう。

ドイツ人男性の妻から『目からウロコ』の切り返し

僕の友人の中では、その同僚女性のキャリア調整(を見越したかのような絶妙なタイミングでの妊娠報告)がどうしても腑に落ちなかったのだろう。彼はその夜、家に帰って早速それを妻に愚痴ったそうだ。

すると友人の妻は、アハハと笑ってこう言ったそうだ。

「何言ってるの、当たり前でしょう?逆に私はその人に『おめでとう、上手くやったわね!』って心の底から褒めてあげたい」

友人は、自分の妻が『皮肉』を言ったことにはすぐに気付いたようだが、妻が何に対して皮肉を言ったのか、どういう意図で言ったのかが全くわからず、聞き返したそうだ。すると友人の妻は、こう答えたそうだ。

「その同僚の女性は出世願望があって、でも知っていたのよ。一度でも妊娠すると、その瞬間に彼女のキャリアは永遠にそのポジションでストップでするかもしれないってことをね。女はね、最初の妊娠までなの。そこでほぼキャリアは頭打ちなの。その先の階段は、ほとんどないんだよ。だからたとえワンランクでもツーランクでも、自分が納得できるポジションまで確実にのし上がってから計画的に妊娠するしか手がないんだよ。キャリアが無限に続く可能性の高いあなたたち男性たちはそんな私たちを見て「やり手だなァ」と笑うかもしれないけど、女性は自分が納得するキャリアで続けていくためには、そうやってあなたたち男性がバカにするところの『上手くやる』以外に方法がないんだよ。男性側のキャリアステージってどんな感じ?子どもが生まれた瞬間に、そっちも私たちと同じように、ほぼ二度と出世できないキャリアシステムに自動で切り替わる感じ?」

それを言われた瞬間、ブツブツと文句を垂れていたらしい僕の友人は、ようやく彼女たちの視点の違いに「ハッ」と気付いたとのことだった。

そう、まさに彼女の返答こそが、今日の話のミソなのだ。

彼女たちは、決して『復職後に時短勤務で楽して高い賃金を得たいから』昇級した後に妊娠するようにしているわけじゃない。
しかし、僕らのかなり大多数は勝手な思い込みで「女性側がずる賢いからこうしているんだ」という思考回路で考えてしまう。そしてそれが『これだから女は〜』になるのだ。それはとても恥ずかしいことだ。

彼女たちはずる賢くも計算高くもなんでもない。
出産後の出世が非常に困難になること、そのほとんどがマミートラックに入れられてキャリアが静かに終わっていくことを分かっているからこそ、先に出世しておくことを最優先しただけなのだ。

逆に僕らは、圧倒的優位な立場にいるにも関わらず、しかも向こう側に平等なプラットホームを与えてもいないくせに、必死に頑張ってなんとか調整する相手を小バカにして「全く、あいつらは抜け目ないなァ」と笑う。非常に卑怯だ。


女性が妊娠した瞬間に出世が止まる事実は、確かに存在する。だから女性が高いポジションで仕事を続けるには『確実に自分の目標とするキャリアまで出世してから妊娠するしか手がない』のだ。ちなみに日本では普通に降格したりするらしいが、本当だろうか?

ともかく、僕の友人はこのような社内における女性の処遇に対して、男女がいかに異なった視点から物事を見ているかということに気付いたと言っていた。

つまりほぼ100%の男性は女性がそうやってキャリア調整をすることを少なからず『ウザイ』と疎ましく思い、逆に女性の多くは自分のキャリアにとっての『死活問題』であり、今でなくとも『明日は我が身』であるという認識を持っている。

だがそれを僕たちは『ズルい』とか『上手くやりやがった』などと仲間同士で嘲笑するのだ。そして『女性側をいとも簡単に悪者にできてしまう世界に僕たちは生きているんだ』と改めて思い知らされた、と友人は言っていた。

当時の僕も、これを聞いてまさに目から鱗だった。
そしてかなり多くの日本人は、今もまさに当時の僕らみたいな考えだろうから、このエピソードはもしかしたら同じように目から鱗、価値観アップデートの役に立つかもしれない。

まとめ

そんなわけで、当時はドイツ人の友人の話を聞いて、僕自身また一つ、(そして今回は幸いにも自分自身が人前で恥をかかずに)ひっそりと僕の脳内は価値観アップデートがなされたのだった。

僕は今でも思うのだが、僕もその友人も、配偶者や女性の知人に話や体験談を聞き、自分の価値観を壊して新しい考えを吸収するのが早い気がする。

僕らが見えていない世界が、彼女たちには見えている。

ほら、これって僕ら日本人が大好きな漫画とかでよくあるじゃないか。
「なんで父さんや母さんにはこれが見えないんだ!?いや違う、こいつらは僕にしか見えないんだ!」みたいなやつだ。

僕たちはまさに『見えない側のモブ』なのだ。

だから今回の件で言うと、出産後のキャリア停止とか、ガラスの天井とか、そういうのをいきなり『本人の努力不足、以上!』などと全否定してバカにすることは、漫画の第一話とかでいきなりやられていくモブキャラと同じなのだ。

例えば「何を言ってんだァ!?何も見えねえじゃねえか!ギャアアアア!」と叫ぶのと、あるいは耳を塞いで部屋の隅っこで「わあーわあー聞こえませんー都合の悪いことは聞きたくありませんー」と叫ぶのと全く一緒なのだ。

僕たちだって、ほら、漫画の友人キャラみたいに、キャラと関わるうちに能力に目覚め、見えない敵が見えるようになったとかあるじゃないか。どうせならそうなりたいじゃないか。

だから僕自身には見えないものでも『このような現実は紛れもなく存在する』という事実は素直に受け入れている。
なぜなら今回の件で言うと、妊娠した女性がほぼ出世できないと言う件について、『そのような差別は一切存在しない!』と僕たち側が証明できるわけがないからだ(実際は差別してることは分かっている、だって心でそう思ってるから)。
それにも関わらず『僕らにその事実は見えないから全部ウソだ。だからアイツらは嘘つきだ』と叫ぶのはただ可哀想で無知に他ならないと思う。

そりゃあ、人間の考えなんて簡単に変わらないし、むしろ現実から目を逸らし、変わりゆく世界から耳を塞ぎ、頑なに変わらない方がよっぽど楽だろう。
周りからは嫌われるが、代わりに僕みたいに人前で何度も恥をかいたり、苦い気持ちを咬み殺すような想いをしなくていいわけだから。

最後になるが、僕のドイツ人友人は40代ともう決して若いとは言えない年齢だが、時おり妻と争いながらも価値観アップデートを日々どんどん進めているという。そして僕もまたそうだ。最終的には柔軟な考え方を持つ人間が現代を生き抜いていけるのだろう、と僕は信じている。

この記事を最後までお読み下さいましてありがとうございました。 これからも皆さんにとって興味深い内容・役立つ情報を書いて更新していきますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。