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心もリハビリしちゃう理学療法士さん

「がん」だと分かってから色々な感情が入れ乱れます。入院中は、病院という日常生活から離れた特殊な環境で過ごすため、入院前に比べれば若干穏やかに過ごせたのかもしれません。

その代わり、社会生活から隔離されている感をとても強く感じました。何とも言えない孤独感です。病気に対しての孤独感というよりも、社会生活に対しての孤独感。そして、病院の外の世界からの置いてきぼり感です。

◆入院計画にリハビリ

主治医の先生は、術後翌日からリハビリを計画に入れてくれていました。乳がんの手術でリンパ節を取ると、腕が浮腫むという症状がでることがあるからだそうです。

ただ、私の場合、術前の検査からリンパ節への転移はないだろうと予測されていました。そして、術中の検査でもセンチネルリンパ節への転移もなく、リンパ節の切除は行われませんでした。

それでも、主治医の先生は、乳房全摘をした患者さんは腕を動かしにくいと訴えることが多いので、リハビリをするのが良いとのお考えでした。

◆極楽なリハビリ

手術の翌日からリハビリが開始されると聞いた私は、正直、リハビリをするのが嫌でした。創も癒えてない状態で体を動かしたら、なんだかとても痛そうなイメージだったからです。ところが、イメージしていたリハビリとは違っていました。

なんと、術後でこわばった体を理学療法士さんがひたすらマッサージをしてくれるのです。

手術した側の肩甲骨を重点的にマッサージ。二の腕も優しくマッサージしてくれました。毎日、約10分ほどのマッサージです。入院中の前半は、ほぼマッサージでリハビリは終わりです。

それはそれは、とても気持ちの良い時間を過ごすことができました。不思議なことに、体のこわばりが取れると、心の緊張が解れた気がしました。ずっと、心が張りつめていたんだと改めて実感したのです。

毎朝、理学療法士さんにマッサージしてもらうことが、入院生活中の私のリラックスタイムになったことはいうまでもありません。

◆リハビリ室で外の空気に触れる

極楽なマッサージは、病室のベッドで行われました。数日後、マッサージを受けたあと、リハビリ室でリハビリを受けることになりました。

生まれて初めて、リハビリ室という場所に足を踏み入れました。少しドキドキ。そんな私を見ていた理学療法士さんは、「今日は少し暖かいので、久しぶりに外の空気を感じてみますか?」とリハビリ室の窓を少しだけ開けてくれました。

久しぶりに頬に心地良い風があたり、とても清々しい気持ちになりました。

しばらくして、雑談をしながら軽い筋トレをしました。

入院以来、実は、病院のスタッフの方と雑談という雑談はしていませんでした。

この時、はじめて病気に関する会話以外のことを話しました。

他愛もない会話だったのですが、理学療法士さんと話したことで、入院中に感じていた孤独感というものを少しだけ忘れることができたのです。

◆リハビリは心の筋トレ

リハビリ室でのはじめての筋力トレーニング後、理学療法士さんに支えてもらいながら弱った筋力を取り戻していきました。

階段の昇り降りに付き添ってくれたり、見晴らしの良い食堂でスクワットをしたりしました。休憩を何度か挟みながら筋トレを行いました。その休憩の度に、理学療法士さんと色々なお話しをしました。

ときには、病室から屋上までお散歩。病院の外の空気を吸いながら、筋トレをしたりしました。そして、ちょっとした世間話を。

理学療法士さんと過ごすリハビリの時間。私にとっては、機能の回復や体力の回復を目指す時間というよりも、心を回復するための時間という感覚でした。

◆理学療法士さんに感謝

今回、私は、人生ではじめて理学療法士さんと接触しました。

同じ医療従事者さんでも、お医者さんや看護師さんとは違う立場。患者の日常により近い存在の医療従事者さんが、理学療法士さんなんだと感じました。

病気を治したり、命を救ったりしたりすることが大前提の病院という世界で、社会への復帰のために尽力してくれる理学療法士さん。そんな理学療法士さんと過ごす時間は、入院生活で唯一、外界の空気に触れることの貴重な時間でした。

自分の身体に大きな変化が起きてしまったけれども、今後も社会の歯車として活動できるという希望を持たせてくれる医療従事者さん。私にとって、理学療法士さんはとても大切な存在となりました。


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