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まだ知らなかった三重を知る-四日市萬古焼-(2024年05月05日,18日,25日)~淡い雲をとどめて その4~

※この「淡い雲をとどめて」という企画は、筆者が日々のなかでなんとなく考えたことをそのまま書いたエッセイのようなものです。論拠など乏しいところはありますが、「こんなこと考えてるんだな」ぐらいのスタンスで捉えていただけると幸いです。


〇「偶然」の続き

四日市ばんこ焼 陶器まつり IN 四日市ドームの様子。

 前回のまだ知らなかった三重を知る-豆腐田楽と伊賀焼-(2024年05月04日)~淡い雲をとどめて その3~に続き、今回も地元 三重の焼物について知ろうということで、今回は萬古焼に触れてきました。萬古焼というと土鍋や急須のイメージが強いんですが、逆に言えばそれ以上のことはぜんぜん知らなかったのでとても面白かったです。

 伊賀に行った翌日の5月5日は「ばんこの里会館」「BANKO archive design museum」へ。5月18日は「四日市ばんこ焼 陶器まつり IN 四日市ドーム」へと足を運びました。今回はその記録をつらつらと書いていきます。

〇「萬古焼」には地名がない。

ばんこの里会館

 まずは萬古焼の概要を知ろうと、四日市市 陶栄町にある「ばんこの里会館」へ。「陶栄」という地名が、かつてから陶器産業の町であることを物語っていますね。場所は、近鉄の川原町駅から10分もかからないぐらいのところにあります。ホームページのリンクは以下に。


ばんこの里会館 展示室

 こちらの展示室では、各時代の実物とともに萬古焼の歴史を知ることができます。ここで印象に残ったのは2つ。まず、そういえば確かに「萬古焼には産地名が入ってない」ということです。先日の伊賀焼や美濃焼など、ほとんどの焼物にはその産地名が入っているんですが、萬古焼だけは日本で唯一それがありません。まぁ「四日市萬古焼」とは言われますけどね。

 この「萬古」というのは、創始者である沼波弄山が自らの作品に「萬古」「萬古不易」の印を押したことに由来するそうです。この言葉には「永遠に変わらない」「いつまでも残る」という意味があります。進化や変化を遂げながら伝統工芸としていまも続く萬古焼は、まさにその言葉を体現していますね。すごい。

大正期の萬古焼で、「大正焼」と呼ばれるそうです。

 もうひとつは、けっこう初期の頃から近代産業的な発展をしたということです。そもそも、沼波弄山がいまの三重県 朝日町で萬古焼を創始したのは江戸末期で、1777年の弄山の死後、萬古焼は一時途絶えてしまいます。その後、森有節・森千秋兄弟が萬古焼を復興させたのがなんと半世紀後だったそうです。もうしばらくしたら明治時代ですね。その明治期に入ったあとには、四日市の山中忠左衛門が森兄弟の萬古焼に注目し、当時起こった大きな水害からの復興を目指す新たな地場産業として、萬古焼を四日市に広めました。このころから量産体制が整備されるとともに、鉄道を活かした販路拡大や四日市港を活かした海外輸出を積極的に行ったそうです。

 そして、戦後もガスコンロや鍋料理の広がりに合わせた耐火性の高い土鍋づくりや、経済危機や消費形態の変容に合わせた新しい製品づくりなど、古代からの伝統工芸としてその様式が確立しているというよりは、やはり時代の変化に呼応した発展をし続けています。また、工芸品・美術品として創作される陶器作品はもちろんありつつも、人々が日常で使う陶器製品の生産を通して発展した部分がとても大きいと感じました。古代から続く焼物とどちらが優れているかという話ではなく、こういった背景の違いを知るのはとても面白いですね。

 続いては、ばんこの里会館から歩いて5分ほどの場所にある「BANKO archive design museum」へ。ここでは萬古焼の「デザイン」に焦点を当てた常設展を楽しむことができます。萬古焼は特にカラーバリエーションが豊富とのことで、たしかに「この時代にこんな色の器が!?」となるものもありました。

 また、今回はかつて種子島でつくられていた「能野焼」の企画展が開催されていました。産地によって形・デザイン、そしてそれが作られた目的・背景やコンセプトのようなものがここまで違うんだなと驚きましたね。こちらも興味深かったです。

 「BANKO archive design museum」のホームページは以下ののリンクから。今回は入りませんでしたが、カフェも併設されています。


〇よさげな器と土鍋を求めてばんこ祭りへ

「四日市ばんこ焼 陶器祭り IN 四日市ドーム」の様子

 5月18日はばんこ祭りに行ってきました。正式には「四日市ばんこ焼 陶器祭り IN 四日市ドーム」だそうです。こういうイベントがあることはずっと知っていたんですが、実際に行ったのは今回が初めてです。余談ですが、四日市ドームのなかに入るのは12年ぶりでしたね。時の流れは速い。

 それはともかく、会場には萬古焼の窯元さんや卸業者さんが集結しており、様々な陶器が販売されていました。キッチンカーやパフォーマンスステージもあり、けっこう賑わっていましたね。瀬戸焼など他産地の焼物ブースもありました。

平尾製陶さん。
若手作家さんがポップな絵柄をつけた土鍋がずらりと並んでいました。

 にしても、萬古焼はたしかにデザインが自由ですね。シックでかっこいい酒器からポップでかわいい絵柄の土鍋、シンプルな湯呑や美しい急須、料理がさらに楽しくなりそうなお皿…。写真を撮れてないものが多いですが、見てるだけで楽しいです。やはりここでもどんな料理を載せるか、どんな酒を注ぐかを考えるだけでワクワクします。

このデザイン、シックですごくかっこいい…!

 もちろん、実際に購入もしています。今回は土鍋と皿、湯呑と焼酎用のぐい呑みを買いました。

 なかでも、このぐい呑みが気に入っています。これは「やきものたまご創生塾」という萬古焼の技術者育成研修を修了した溝口力也さんの作品です。「やきものたまご創生塾」のブースにて、溝口さん本人が販売していました。この模様や色合いがとても好きです。焼酎をロックで飲むには最適な器だと感じています。

水谷商店の溝口力也さんの作品。


〇萬古焼、使ってみた。

萬古焼×芋焼酎(黒霧島)

 さて、帰ってきてからさっそく使いました。いい器で飲む焼酎はいつもより美味しいですね。

萬古焼×とらや勝月さんの草餅

 皿には鈴鹿にあるお気に入りの和菓子屋さん「とらや勝月」さんの草餅を。萬古焼に関わっている高校時代の同級生(数年ぶりに会えました)によれば、こういった無釉薬の茶色い器は萬古焼がもつ特徴のひとつだそうです。使っていくうちに上に載せた料理やお菓子の色が移り、独特の味が出てくるとか。

萬古焼×伊勢茶(ほうじ茶)

 湯呑にはもちろん伊勢茶を。亀山にある「市川大楽園」さんのほうじ茶です。急須は今回買ったものではなく、小学生の頃から使っているものですね。社会見学で鈴鹿にある伊勢茶の工場に行ったときにもらったやつだったと思いますが、これもたしか萬古焼だったはず。

そして土鍋ごはんにも初挑戦!!

 初めてにしてはよい出来なのではないでしょうか…( ˘ω˘ )。とても美味しかったです。米はもちろん鈴鹿産ですよ。

〇地を知り、自分を知り、他を知る。

 この5月は伊賀焼と萬古焼の両方に触れてきました。そのなかで、人生のほとんどを三重で過ごしていながら、まだ知らないこともたくさんあるんだなと改めて実感しましたね。小学生~高校生のあいだにも学校で話として聞くことはあったものの、実際にこうやってふれる機会はなかったですし。

 そのため、学校でも地のこと、つまり三重のことに触れる機会がもっとあってもいいのかなと思いました。また、話を聞くだけでなく自らそういうものに関心を持ち、自ら触れに行く姿勢がどれだけ大切かも分かりました。それだけの好奇心や行動力が幼い自分になかったことをとても悔しく思います。

萬古焼と言えば土鍋。落ち着いた風合いが冬の鍋に合いそう。

 話は少し変わるんですが、人間は生まれる場所を自ら選ぶことはできません。そのため「自己」というものが確立していく、あるいは確立させる過程においては、血縁だけでなく地縁からも大きな影響を受けます。言い換えれば、生まれ育つ地にある食や言葉、産業や慣習といった文化や自然環境は、少なからず自身の背景や感性、ものの見方や考え方を形成する要素となります。

 しかし明治以降、ことさら現代においてはそれらが均質化していく傾向にあります。それはつまり人間そのものが均質化していくということでもあります。一方、都市社会学における下位文化理論では、独自性のある様々な文化を持った人々が出会い、お互いの異なる文化が接触することによってこそ、それぞれの下位文化の独自性が高められたり、新しい考え方や行動が生まれたりするとされます(※)。実際、今回の伊賀焼や萬古焼でも、他産地との交流によって新たなデザインや技法が取り入れられたという解説がありました。

土鍋で炊飯中。この土鍋かっこよくないですか!!

 つまり逆に言えば、同じような考え方や背景を持った人間ばかりがいる社会においては、新しい文化や人間自身の進歩というものが生まれづらいということです。ここに、自分と関わりの深い地域の諸々を学ぶことの大切さがあります。また、それを知っておくと、自分が持つ背景や文化と他のそれらの差異や共通点が見えやすくなります。そのため、旅行をする際も、「楽しい・美味しい・綺麗」だけではない新たな学びや発見が得られます。僕個人としてはそんな旅行を観光ではなく「旅」と呼んでいますが、こういった「旅」は自分の世界を広げ、自身の進歩につながっていくと考えています。なにより、個人的にはそっちのほうが楽しいんですよねー。

 そして、それは異なる背景を持った他者への理解をより深いものにし、出会ったことによって新しいなにかが生まれる可能性を高めてくれます。言うならば、地を知ることは自分を知ることでもあり、それによってより深く他を知ることができるということです。…というか、そう信じています(笑)。だからこそ、だいぶ遅くなってしまいましたが、今からでももっと三重について知っていこうと思います。さて、次はどこに行き、何に触れましょうか。まだ見ぬ出会いが楽しみです。


※下位文化は、サブカルチャーとも言われる。社会においてある特定の集団だけが担う独自性を持った文化のこと。主流文化=社会において多くの人が担っている文化に対する語で、それよりも劣っているというわけではない。

参考:

酒井千絵・永井良和・間淵領吾 編(2018年)『基礎社会学 新訂第4版』、世界思想社、P90-91。



 エッセイ企画「淡い雲をとどめて」のまとめです。ぼちぼち書いていきますので、他の記事もぜひ。

 また、本企画とは別でやっている「日本酒ペアリング研究会 報告書」のまとめもあります。三重の地酒を中心に、三重の食材を使った料理との合わせ方を紹介しています。料理のレシピも詳しく解説していますので、こちらもぜひ。

 

 

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