まだ知らなかった三重を知る-豆腐田楽と伊賀焼-(2024年05月04日)~淡い雲をとどめて その3~
※この「淡い雲をとどめて」という企画は、筆者が日々のなかでなんとなく考えたことをそのまま書いたエッセイのようなものです。論拠など乏しいところはありますが、「こんなこと考えてるんだな」ぐらいのスタンスで捉えていただけると幸いです。
〇その「偶然」を大事にしようと思った。
3月末から4月頭の東京出張の際、たまたま日本橋の高島屋で開催されていた無料の美術展に入ってみたら、多治見の焼物の展示がありまして。そこには同世代の作家さんが創った作品も多く、とてもいい刺激を受けました。また、SAKE DIPLOMAを取得したこともあり、日本酒を楽しむための器、特にいま住んでいる地元 三重の焼物にももっと関心を持とうかなと考えるきっかけにもなりました。陶芸とか美術に関してはなんの知識もない無知の身ですのでけっこう怯えながら入ったんですが、とてもいい機会になったなと思います(笑)。
こんな偶然を無駄にしたくなくて、今回は伊賀焼に触れようと三重県 伊賀市へ。三重県北中部の人あるあるだと思うんですが、伊賀とか南紀ってほとんど行かないんですよね。他県ってレベル…というか名古屋の方が行くことが多いので、知らないことのほうが多いです。でも小さい頃は、去年の夏に天へと逝ってしまったじいちゃんに、何度か伊賀の忍者屋敷に連れていってもらったな…。
とまぁそれはさておき、今回の目的は豆腐田楽と伊賀焼。ちょっとした備忘録として、つらつらと書いていきます。
〇豆腐田楽、美味すぎないか。
昼前に伊賀に到着したので、まずは「田楽座 わかや」さんでお昼ご飯を。いつぞやにテレビで見てからずーーーーっと行きたかったんですよ、ここ。ついた瞬間、すでに炭火の良い香りがしてました…。
ここの看板メニューが、伊賀名物の豆腐田楽。硬めの豆腐を串に刺し、赤味噌をベースにした味噌だれを塗って炭火で焼いたものです。昔江戸時代からは田植えの際や祭りで「田楽舞い」という踊りが行われ、それを踊る人たちの恰好に似ていることから、「田楽」と呼ばれたとか。そして、今回訪れたわかやさんの田楽がこちら↓。
いや、これめちゃくちゃ美味しかったです。なんといっても、まず豆腐が旨い。しっかりと大豆の旨味とコクが感じられます。食感も硬めでありながら、ぼそぼそせずまろやかです。この豆腐は三重県産大豆を使ったわかやさん自家製のものだそうです。
そして、この木の芽味噌のタレもとても美味しいです。赤味噌ながら超濃醇というわけではなく、いい塩梅に延ばされてまろやかな味わい。しかし、赤味噌のコク深さは健在しています。そこに木の芽と炭火の香りが良いアクセントになり、なん本でも食べれそうなぐらい食べ飽きません。また、こちらの味噌も自家製だそう。
さらに、この豆腐と味噌が織りなすしっかりとした豊かな大豆の味わいと食欲をそそる香りが、温かいご飯によく合います。気づいたら米が消えてましたよ(笑)。今回は車で行ったので叶いませんでしたが、いつかはこれで酒が飲みたいですね…。少し炭素ろ過による炭の香りが残り、しっかりとした旨口の純米がいいですね。名張の「瀧自慢 はやせ」なんかめちゃくちゃ合うと思います。そういえば、春夏は木の芽味噌で、秋冬は柚子味噌になるそうです。これはまた行かなくては…。
こちらは追加で注文した生湯葉の刺身です。こんなに柔らかく上品でなめらかなコクのある湯葉は初めて食べました。1,300円しましたが、それも納得の逸品。この味わいを活かすには、クリアな印象のある本醸造でしょうか。純米ならきれいな印象のある穏やかなものが良いと思います。…やはりいろいろなお酒を合わせながら楽しんでみたいですね(笑)。こちらもたいへん美味しかったです。
「田楽座 わかや」さんについては、詳しくは以下のページをご覧ください( ˘ω˘ )。
その時代時代の「美味しい」 - 田楽座わかや(伊賀市) 伝七ステーション
伊賀ポータル お店情報 田楽座 わかや
観光三重 伊賀名物の豆腐田楽「わかや」さんと、かたやきのお店「鎌田製菓」さんに行ってきました
〇伊賀焼に触れ、またも偶然を楽しむ。
美味しい豆腐料理をいただいた後は、伊賀焼伝統産業会館へ。施設内には伊賀焼の歴史を知る資料室と、伊賀焼の販売所があります。販売所には伊賀焼の伝統工芸士の方が作った品々をはじめ、色や形も様々な伊賀焼が展示・販売されていました。
けっきょく別の皿とお猪口を買ったんですが、この平皿よくないですか…?全種類揃えて、それぞれに違う料理を載せて提供したらぜったいに楽しいと思います。三重グッドデザイン賞を受賞しているそうです。いずれは欲しいですね…。
お猪口や湯呑みもたくさん置かれていて、これ使ってみたいなと思ううつわがたくさんありました。この器ならどんな料理を…これならどんなお酒を…と考えるだけでもわくわくが溢れてきます。こんなかんじで、美術品としての焼物や陶芸には無知でも、やはり食器や酒器は日常生活のなかにあるものですので、見て手に取るだけでもかなり楽しかったです。
2階の資料館では、昔と現在の伊賀焼の造られ方について解説されています。伊賀焼の歴史って奈良時代まで遡るんですね。伊賀の地には古琵琶湖層があるというのは知っていましたが、それがいい陶土になるらしいです。いまでも阿山・島ヶ原・上野の土から伊賀焼が作られているそうで、伊賀の長い歴史と人・自然のつながり、受け継がれた伝統の深さを感じます。
続いて、他にもギャラリーがあるそうなので行ってみよう…と思ったら、たまたま「伊賀焼 窯出し市」というイベントが開催されていました。全然知らずに行ったんですが、毎年この時期に開かれているんですね。
いろんな窯元さんや作家さんがブースを出展したんですが、伝統的な意匠の器からポップでかわいい小物、シックでかっこいいマグカップや洋風な要素も取り入れた食器、さらには焼き物を活かしたアイデア調理器具なんかもありまして、すごく面白かったです!キッチンカーなども出ていて、すごく賑わっていました。若い方や家族連れの方もけっこういましたね。
いやー、いいものがたくさんあって、あれもこれも欲しくなっちゃいますね。また、「自分ってこんなに食器に興味持てるんだな…」とびっくりしました(笑)。いままでDAISOで買ってましたからね。いや、DAISOの皿もけっこういいんですが(笑)。いずれはぜんぶ伊賀焼や萬古焼に換えようかしら…。
〇伊賀焼、使ってみた。
というわけで、せっかくなのでいくつか購入しました。こちらは伝統産業会館にて、伝統工芸士である森里卓己さんのコーナーにありました。伊賀焼の特徴である緑色のビードロがかかった長皿と、穏やかな青が美しいお猪口。晩酌が楽しくなりそうです。
もちろん、買ったその日にさっそく使いました。長皿には、季節外れで脂はのっていないものの、それでも旨い鰆の炙りを。…ほんとはそれこそ豆腐田楽がよかったんですが(笑)。お酒はせっかくなので、同じ地域である名張の「瀧自慢 はやせ」と伊賀の「半蔵 純米辛くち」を。
最近は純米大吟醸・大吟醸をはじめ、華やかな日本酒をワイングラスで飲むというスタイルが浸透しつつありますが、やはり日本酒には日本の陶器が合います。これこそが日本らしさといいますか。また、今回は魚とお酒だけではなく、うつわも三重のもの。やっぱり三重っていいものがたくさんあるんだなと、改めて実感しました。
ちなみに、鰆の炙りには「瀧自慢 はやせ」のほうが合いました。このお酒は少し炭のような香りがするんですが、それが炙りの香ばしさによく馴染みます。また、米の旨味をしっかりと感じられる旨辛口な味わいが、鰆の旨味を増幅させています。「半蔵 純米辛くち」は少し甘味があるので、別で作っていた破竹の煮物のほうが合いましたね。
そして、良いうつわを使うと、それだけで食卓がいっそうよいものになるということも実感しました。なんというか、食卓の「格」が上がったような気分になります(笑)。それだけでさらに1.5倍ぐらい美味しい。
また、機能的な部分でいえば、僕は来客時にも刺身を盛るときに「つま」を使わないんですよ。直売場や直売コーナーでしか野菜を買わないので大根が年中手に入るわけでもないですし、そもそも「つま」は華やかさを演出する飾りである一方、フードロスの温床だと思っているので。ただ、そうすると圧倒的に足りないのが緑色なんですよ。そのため、緑色のビードロを特徴とする伝統的な伊賀焼はその部分をうまく補完してくれて、刺身の見栄えがよりよくなりました。今後もぜひ使っていきたいです。
〇「視点」をもつことの大切さ
少し前の偶然から思いついた今回の伊賀探訪ですが、とても楽しかったですし、自分の世界を少し広げられたように思います。加えて、三重という自分が好きな場所について、またひとつ新しいことを知れて嬉しかったです。
また、これまで「焼物」というと美術品や伝統工芸というイメージが強く、敷居の高いものだと思っていました。実際、高級品もありますし。そして、ここまで見て楽しめるものだとも思っていませんでした。というのも、インテリアとか雑貨とかには興味がないんですよね…。そんな遠い存在だったものに触れようと思い、実際に楽しむことができたのは、やはり「日本酒・焼酎と料理」という視点を持っていたからだと思います。
ひとつ確固たる視点を持てば、関連が深い物事であるほどそれを通してなにかしら考えることができ、見えてくるものがあります。そのなにかしらが見えた時、人間はなぜかそれを「嬉しい」「楽しい」と感じます。いわば少年時代の好奇心みたいな部分ですよね。大人になるほど忘れがちなんですが、これこそが日常を豊かにしてくれるものだと思うので、持ち続けたいですよね(笑)。
そういえばはっきりとは覚えていませんが、大学時代のゼミの先生が「ものごとは地下水脈のようにつながっているから、いろんなことに関心を持って調べてみてください」みたいなことをどこかで言っていました。そういう意味でもまずはひとつ「視点」をもち、そこから視野を広げて様々なものに触れていくというのが大事なんだと思います。そしてそのためにも、今後も「日本酒・焼酎と料理」という視点を深めるとともに、「偶然のきっかけ」を大切にしたいと思います。
そういえば、窯出し市でこんなのも買ったんですよ。長谷園さんの「あぶり名人」。土台が陶器でできているので、熱源であるヒーターに加えて、その陶器からも遠赤外線が出て加熱できるという素敵な商品です。五徳もついているので、焼物だけでなく鍋やスキレットも使えるそうですよ。
さて、これを使ってどんな料理を作りましょうか。それを考えるだけでもわくわくが止まりません。料理のほうも、さらなる進化を遂げていきたいですね( ˘ω˘ )。
エッセイ企画「淡い雲をとどめて」のまとめです。ぼちぼち書いていきますので、他の記事もぜひ。
また、本企画とは別でやっている「日本酒ペアリング研究会 報告書」のまとめもあります。三重の地酒を中心に、三重の食材を使った料理との合わせ方を紹介しています。料理のレシピも詳しく解説していますので、こちらもぜひ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?