一陣の風を呼ぶ|掌編小説
新雪の上に、灰色の塊が横たわっている。おそらく、車と接触したオジロワシだ。怪我はしていない。軽い脳震盪を起こしただけだろう。
僕はオジロワシを両手に抱え、海岸へと向かった。
オホーツク海の向こう、定規で線を引いたような水平線に、雪化粧をした知床連山が、蜃気楼のように揺らいでいる。
僕は岸壁に立ち、「ふぅ……」と静かに息を吐き、オジロワシを抱えた両手を空に掲げた。
――飛べ。
刹那、一陣の風と共に、オジロワシの体はふわりと宙を舞う。その大きな翼は風を切り裂き、高く、遠く、海よりも深い紺碧の空へと消えて行った。きっと知床連山まで、一直線に飛べるだろう。
やがて風は止み、知床連山は煙のように、ふっとその姿を消した。
――還れたんだな。
僕は踵を返した。
(了)
この掌編は、ライブ配信サービス「Spoon」内の「声で彩るストーリー3」という企画用に書いたものです。
(規定300文字以内)
まず、書き手が作品を書き、イラストレーターがその作品のイメージでイラストを描き、そして読み手が朗読するという、なかなか面白い企画でした。
(イラストは著作権の関係もあるので、ここには載せないでおきます)
たくさんの方に読んで頂いたので、一部ご紹介させて頂きます。
むーんさん
https://www.spooncast.net/jp/cast/4881525
開運小天さん
https://www.spooncast.net/jp/cast/4847600
ヒビキさん
https://www.spooncast.net/jp/cast/4838886
ポールさん
https://www.spooncast.net/jp/cast/4873589
Royalmilkteaさん
https://www.spooncast.net/jp/cast/4884114
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