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海を渡るひまわり|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 ひまわりへ贈る言葉なんてない。
 無事に海を渡ってくれれば、それでいい。

 俺が住む島は、夏になると島中にひまわりが咲き誇り、別名「ひまわりじま」と呼ばれている。太陽に向かって顔を上げる、凛々しいひまわりの姿を一目見ようと、島には国内はもちろん、海外からもたくさんの人が来た。このひまわりが、島の住民の誇りだった。

 ――異変が起きたのは4年前。

 太陽に向かって咲くひまわりの中に、下を向くひまわりが混ざり始めた。俺を含め、みんなも大して気にしていなかったが、3年前は約半分、2年前はほぼ全てのひまわりが下を向いて咲くようになった。

 世界中の著名な学者が原因究明に乗り出したが、原因は分からない。異常な暑さのせいだと言う学者もいれば、島の外から持ち込まれた病原菌のせいだと言う学者もいる。しかし、やっぱり原因の特定には至らなかった。

 そしてついに去年、ひまわり自体が咲かなくなった。

「下を向いて咲くひまわりなんぞに用はない」
「ちゃんとしたひまわりが咲かないこの島に、もう存在価値はない」

 SNSの容赦ない書き込みのせいで、島には誰も来なくなった。

 俺は残ったわずかなひまわりを小舟に乗せ、海へ送り出した。どこかの島の見知らぬ誰かが、このひまわりをまた上を向いて咲く花にしてくれると願って。

 やがて島の存在は人々の記憶からも、地図からも消えた。

(了)


小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」参加用です。

北海道、過去にない猛暑で最悪です。
去年も暑い日はありましたが、湿度は20~30%くらいで、日陰に入れば余裕でした。しかし、今年はムシムシ&ジメジメで不快指数MAX。
暑くて湿度が高い北海道なんて、もう北海道じゃねぇ…。

そりゃーひまわりだって下を向きたくなるわな。
そう思って書きました。

あー、もうホント暑い…。


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