水草と金魚|掌編小説
灼熱地獄から逃れるように、僕は水の底へと沈む。
水の中を漂っていると、大きな金魚が一匹、ふよふよと近づいて来た。立派な尾びれだ。ここの主だろうか。
「ちょっと邪魔するよ。息が続く間だけ」
すると、金魚は僕の額にコツンと当たり、向こうへと泳いで行った。
――歓迎されてないのかな。
そう思って下を見ると、水草を潰していることに気付いた。
――しまった。
慌てて潰れた水草を手で伸ばしていると、別の金魚がやって来て、「くしゅん!」と大きなくしゃみをした。どうやら風邪をひいているらしい。
「あとで水温を上げるからね」
そう言うと、金魚はポコっと小さな泡を吐き、目の前で、くるりと小さな輪を描いた。
――そろそろ行くか。
水面に顔を向けると、さっき額に当たった金魚が戻って来た。
「分かってるよ。新しい水草、買って来るから」
手を振ると、金魚はひらりと尾びれを翻した。
――外は暑そうだ。
僕は思い切り地面を蹴り、自分の世界へと浮上した。
(了)
音声ライブ配信サービス「Spoon」にて、朗読して頂きました。
むーんさん
https://www.spooncast.net/jp/cast/5545065
私の作品をたくさん朗読してくださっているむーんさん。
朗読、選曲、クリアな音……いつもながら抜群の安定感ですね。
こちらもどうぞ。
この記事が参加している募集
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!