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2022年7月の記事一覧
ビール傘|毎週ショートショートnote
雨が降っている。小雨ではなく、傘が必要な雨だ。
――よし!
二十歳になって、ずっと雨を待っていた。今日こそデビューの日にふさわしい。僕はビール傘を広げて外に出た。もちろん中ジョッキだ。
下校中の高校生たちとすれ違う。ウーロン茶傘、ジンジャーエール傘、コーラ傘……。そうそう。僕も今まではそうだった。思わず頬が緩んでしまい、慌てて元に戻す。
コーヒー傘や紅茶傘はちょっとお洒落な感じがするけど、
ふりかえるとよみがえる|毎週ショートショートnote
ああ……通り過ぎてしまった。
思わず立ち止まり、振り返りたくなる。
その姿を見るだけで、甦るんだ。
君がつくるパン、お菓子、料理の味と香り……。
僕の帰りがどんなに夜遅くても、どんなに朝早くても、つくり立てだ。
「変わらず、そこにいてくれよ」
好きなんだ。
北海道民だから。
――セイコーマート。
【了】(140字)
140字小説になっとるやないかーい!(第2弾
サラダバス|毎週ショートショートnote
「バスパートとして、ウチの合唱団へ来てほしい」
茨城県沙羅田市で行われたカラオケ大会で優勝し、商品の「米30キロ」を肩に担いで帰ろうとした時、見知らぬ男から名刺を渡された。
名刺には「サラダ合唱団代表 練馬サニー・レタス清史」と書かれている。
「母がエストニア人でして」
私が質問する前に、練馬さんが説明してくれた。多分、必ず聞かれるのだろう。
「バスパートが足りなくて……あなたの低音ヴォ
カミングアウトコンビニ|毎週ショートショートnote
「今日は転校生を紹介します」
先生の横に、小学校を卒業したばかりの僕たちより、少しばかり大きな体つきの少年が立っていた。学生服がバッチリ似合っている。
「カミングアウト・コンビニ君です」
今の時代、どこの学校も生徒の3分の1が留学生なので、名前を聞いても驚かない。
「カリオストロ公国から来ました」
流ちょうな日本語で出身国が明かされた瞬間、クラス内はどよめいた。
――カリオストロ公国。