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★2022年★4紙に選ばれた33冊(新聞書評の研究2022)

はじめに

筆者は2017年11月にツイッターアカウント「新聞書評速報 汗牛充棟」を開設しました。全国紙5紙(読売、朝日、日経、毎日、産経=部数順)の書評に取り上げられた本を1冊ずつ、ひたすら呟いています。本稿では、2022年に新聞掲載された総計3158タイトルのデータを分析しています。

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なんでそんなことを始めたのかは総論をご覧ください。

全5紙に掲載されたタイトルについてはこちらをご覧ください。

4紙紹介本は1%・33冊

前回は、全国紙5紙全部に紹介された2冊の本を紹介しました。4紙に紹介されたのは33タイトルです。早速紹介しましょう。なお、2022年末までのデータです分析していますので、ここで紹介されている本が、2022年以降に5紙目に紹介されるケースはあり得ます。

興味と能力の及ぶ範囲で簡単にコメントをつけています。なお、丸カッコ内の取り消し線が入った新聞は、唯一書評しなかった新聞です。どこが書評をしなかったか、という観点から見るのもなかなか面白いものなのです。

全国紙4紙に紹介された33タイトル

『聞く技術 聞いてもらう技術』

この本が筆頭に来る理由は、2023年に入って、残っていた毎日新聞の書評欄にも掲載され、全5紙に紹介されたからです。ただ、本稿は2022年までに掲載された書評で区切ってますので、ここに紹介しておきます。


『物価とは何か』

長くデフレに苦しんできた日本経済ですが、突然のインフレに不意打ちを食らっています。インフレを知っている現役世代が少なくなるなかで、時宜にかなった出版だったと思います。第65回日経・経済図書文化賞受賞作です。同じ著者の『世界インフレの謎』も評判になりました。(産経)

  ・関連本


『給料はあなたの価値なのか』

インフレになったこともあって、世間の賃金に対する関心は高まっていますね。この本は賃金の決定要因を緻密に分析し、アメリカに年功序列賃金を導入するように推奨しているようです。それを早くいってくれれば、多くの日本企業が救われたかもしれません。賃金関連本もたくさんでていますのでいくつか紹介します。(産経)

  ・関連本


『映画を早送りで観る人たち』

この本も大変に評判になりました。ファスト映画といわれる新しい視聴方法について、批判する本です。映画好きな人の中には、映画館で見ないと映画をみたことにはならないという人もいますので、まして早送りで見るなんてという憤りなのでしょうね。一方で、こうした見方が当たり前になると、今度はそれを前提にした表現技法が生まれてくるような気もします。(日経)


『「歴史の終わり」の後で』

あの『歴史の終わり』のフクヤマですから、ウクライナ戦争についてどう評価しているのか気になるところですが、原著の出版時にはまだ始まってなかったようです。(朝日)


『戦争の文化(上下)』

ジョン・ダワーといえば、『吉田茂とその時代』や『敗北を抱きしめて』で名高いのですが、もう御年80をとうに過ぎているはずですね。(産経)


『スピノザ』

気鋭の哲学者による解説本です。15世紀の人ですが、ここ数年でスピノザを紹介する本が増えているのですね。国分さんも2冊目です。以下、2019年以降で書評に紹介されたスピノザ本です。(産経)

  ・関連本


『新疆ウイグル自治区』

中国政府からの弾圧・人権侵害が国際問題になっているウイグル自治区についての新書です。新聞の書評は時事問題に敏感で、ウイグル関連本もここ数年で増えているジャンルの一つです。いくつか紹介しておきます。(毎日)

  ・関連本


『中国の「よい戦争」』

国民党が主に抗日戦争(日中戦争)を戦い、中国共産党はそのあとの国共内戦で国民党を台湾に追いやって漁夫の利を得たという歴史的経緯から、長い間声高に語られなかった抗日戦争が、「よい戦争」として中国で甦っているのだそうです。国民党に対する再評価が進んでいるといいます。(毎日)


『居場所なき革命』

1968年のパリ五月革命をテーマにしています。1968年は戦後の節目となった年ですね。(読売)


『道徳教室』

高橋さんはテーマの選び方からしていつもユニークです。(産経)


『ひとかけらの木片が教えてくれること』

文化財に使われている木材を同定すると、当時の人々の生活が浮かび上がってくるのですね。物は嘘をつきません。歴史の検証に科学の力がますます必要になるのだと思います。(毎日)


『生きつづける民家』

古民家を再生してオーベルジュにしたてた友人がいます。色々な再活用がなされていますね。鉄筋コンクリート造にはない心地よい空間です。(朝日)


『ネアンデルタール』

ネアンデルタール人は、我々ホモ・サピエンスよりも力が強く、脳も大きく、勇敢だったらしい。なのになぜか死に絶えちゃったので、こうやって本で知るしかないのです。(毎日)


『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』

フィールド調査を行う科学者の、ちょっと砕けた入門書には、最近こういうタイトルの長い本が多いんですよね。これは言語学者が、自分の娘さんが言語を獲得する際の身近な発見から、音声学を説き起こしています。(産経)


『英語教育論争史』

英語教育って、昔からみんな関心あるんですよね。関連本を挙げておきます。(読売)

  ・関連本


『世界は五反田から始まった』

JRの五反田駅にこの本の広告看板が出ていたのには驚きました。作家の星野さんがばーんと出ていました。祖父が残した手記を手掛かりに、戦時中の五反田のマイクロヒストリーを掘り起こしたノンフィクションです。(産経)


『国鉄ー「日本最大の企業」の栄光と崩壊』

国鉄民営化から30年以上が過ぎて、関連書籍も多いですが、いわゆる国鉄改革三人組(葛西敬之、井手正敬、松田昌士)以外の経営者が書いた本というのは珍しいかもしれません。日経だけが取り上げてないのがちょっとびっくり。(日経)


『よみがえる与謝野晶子の源氏物語』

まず、与謝野版源氏を読んでから、読むべき本なんでしょうね。読んでみたい本です。(産経)


『あの胸が岬のように遠かった』

細胞生物学者にして日本を代表する歌人でもある著者が、死別した歌人の妻、河野裕子さんとの若き日々を回顧します。闘病中の河野さんをテーマにした前作『歌に私は泣くだらう』も話題になりました。(日経)


『スタッフロール』

前作の『ベルリンは晴れているか』は全5紙で紹介されました。スケールの大きなミステリーで堪能しましたが、今度はハリウッドの物語です。(毎日)


『春のこわいもの』

感染症をモチーフにした小説は当分増えるんでしょうね。(読売)


『タラント』

タラントって、タレントのことなんですね。 (日経)


『信仰』

カルトをモチーフにした小説も当分増えるんでしょうね。(朝日)


『ヒカリ文集』

それにしても女性作家が多いなあ。(読売)


『とんこつQ&A』

2022年の日本人作家で4紙に紹介されたのは、女性作家8タイトルに対し、男性作家2タイトルです。5紙を含めると、男が1増えますが、圧倒的な女性優位です。(毎日)


『おいしいごはんが食べられますように』

おいしいごはん、食べたいですね。(毎日)


『たとえば、葡萄』

現代女性の生き方を描いた小説です。女性作家が元気なように見えるのは、女性の方が社会の矛盾に直面することが多く、その分題材に事欠かないからなおのかも知れないですね。(毎日)


『ブラックボックス』

4紙に掲載された小説は、毎日だけ載ってないパターンが多いようですね。これもそう(毎日)


『音楽が鳴りやんだら』

『ブラックボックス』の砂川さんに次ぐ、2人目の男性作家です。

ここで紹介した小説10タイトルを、掲載しなかった新聞別にカウントすると、毎日新聞5、読売新聞、朝日新聞各2、日経新聞1となります。他の分野では産経が非常に多いのですが、小説には1タイトルもないのが発見でした。一方で、毎日の多さにも驚きです。たまたまなのか今後検証してみたいと思います。(朝日)


『すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集』

奇跡の文学とまでいわれた『掃除婦のための手引き書』は、途中まで読んで放ってありますが、じつは4紙に紹介されています。今回も4紙ですから、ちょっと残念。前回は産経新聞だけが紹介していません。(読売)


『緑の天幕』

ロシア関連、ウクライナ関連の小説も、当面増えるんでしょうね。(毎日)


『かくも甘き果実』

ベトナムの戦争難民だった作者が、アメリカに渡って作家となり、日本文化にほれ込んだギリシャ生まれのハーンの小説を書くってのが、すでにドラマですね。(日経)


以上33タイトルでした。ここまで読んだ方はお疲れさまでした。


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