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【MEMBER'S VOICE #11 廣澤聖士】思考法を変えたら、スポーツを通して科学技術に触れる「エコシステム」を作り上げたいと考えるようになったわけ

 私たちSports X Initiative(SXI)の一番の特徴ともいえるのは、メンバーの多様性です。実績に限らず、事業開発、ブランディング・マーケティング、各種制度設計、データアナリティクスなど、多様な専門性を有したSports Xのアルムナイメンバーを、リレー形式でご紹介させていただきます。

廣澤聖士(Seiji Hirosawa)
◎経歴
慶應義塾大学環境情報学部 → 大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修 → アシックス → 日本スポーツ振興センター
※慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻在学中
◎私にとってSports X Leaders programとは…
「システム×デザイン思考でスポーツを捉え直す場」

スポーツをやらされ、比較されていた幼少期

 父親が地元のチームに携わっていたため、幼稚園からサッカーを始めました。自分からやりたいというよりは、4歳上の兄と一緒に有無を言わさず「やらされていた習い事」の一つといった感じ。

 国道に面したビル校舎。校庭は3階に小さなものがあるだけでサッカー部もないという少し特殊な公立中学校に入ってからは、地域のサッカークラブに入りながら部活でバレーボールを始めました。兄と全く同じルート。しかし、スポーツをするのは兄のほうが断然得意で度々比較されるのが嫌だったこと、スタートが“やらされていた”ということもあり早々に両立を断念。部活のバレーボールのみを細々と続けていました。弱小チームだったので楽しみながらスポーツに触れていました。

“スポーツをする”ことの重要性を感じた高校時代

 体育大系属高に進む兄の後を追わず、普通科高校に進学。部活には所属せず。なんだかんだ続けてきた“スポーツをする”ことがない生活は人生で初めて。一瞬一瞬はそれなりに楽しくも特筆することもない毎日を過ごしました。

 進路を考える際に行った「自己分析」で見つけたものの一つがスポーツ。学校生活を振り返ったとき、印象に残っているのはスポーツをしているときのシーンで、高校ではそれがなかったことを実感。スポーツをすることが何らかの形で自分の生活に潤いをもたらせていることに気づきました。“スポーツを支える”というキャリアを歩める軸で進路を選択し、総合大学のスポーツ系学部に進学。

より広い視点を求めて進路変更

 大学の授業はほぼスポーツや健康に関するもの。周囲もスポーツが好きで、スポーツを仕事にしたいと考える人ばかり。授業を受けることは楽しかったが、教授達から異口同音に「スポーツ業界で働くのは難しい。働けるのは一握りだけだ」などと言われてしまうと、スポーツからの視点ばかり学ぶこの環境にいるのが良いことなのかと疑問に。

 同じスポーツを専門にするのでも、もう少し広い視点で物事が見られるようになりたいと感じ、文理融合型でさまざまな分野を主体的に学べる慶應義塾大学環境情報学部に入学。二度目の大学一年生へ。

選手の競技力向上支援の道へ

 今までの人生で無縁だったスポーツを始めてみたいと思い、体育会スケート部フィギュア部門に所属。周りから「スケートリンクに住んでいる人」と呼ばれるほど没頭。フィギュアスケートを取り巻く環境や問題点を身をもって経験。日本ではメジャースポーツともいえるほどの人気を誇りますが、練習への医科学的知見の導入は他のスポーツに比べて大きく遅れている印象を持ち、選手は様々な悩みを抱えていることが分かりました。 

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 科学的な観点から選手の競技力向上に寄与する研究がしたいとの思いから、動作を力学的に解析するスポーツバイオメカニクスの分野を専攻。フィギュアスケートを中心に回転運動の動作解析に挑戦。しかし、実験環境の整備など、研究を遂行するにあたって様々な壁に直面。満足な研究成果を出せませんでした。

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 また、他のスポーツの強化現場でのデータ活用の実態を知りたいとの思いから、スポーツアナリストが用いる分析ソフトウェア「スポーツコード」の日本代理店フィットネスアポロ社に学生インターンとして勤務。野球の分析、海外ユーザーの事例紹介記事の執筆などを担当しました。分析の知見をフィギュアスケートに応用し、カンファレンスでも発表しました。

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研究で得られた知見を使える形にしたい

 修士課程修了後、研究で培った知見を製品・サービスに落とし込むことで選手のパフォーマンス向上に寄与したい、特に量産品ではなくパーソナルデータに基づく製品開発を行いたいとの思いから、2016年に株式会社アシックスへ入社。グローバルデジタル統括部デジタルイノベーション推進チームに所属し、新規事業開発推進にプロジェクトマネジャーとして従事。様々なプロジェクトの失敗を経験しながらも、アシックスが持つランナーの測定データと姿勢推定技術を活用した、ランニングフォーム分析サービス『ASICS RUNNING ANLYZER』をグローバルの直営店サービスとしてローンチ。

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データと科学技術を用いて

 2018年11月より国立スポーツ科学センターで、ショートトラック日本代表を中心に映像分析サポートを行っています。データ活用のノウハウが少ない中で、よりよいサポートを行うべく試行錯誤を続けています。

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 また、科学技術を用いてフィギュアスケート界の問題解決を推進する研究がしたいとの思いを諦めきれず、2020年春より、社会人と並行して大学院後期博士課程に進学。学部・修士に直面した壁を乗り越えるべくコンピュータビジョンを専門にする研究室の門をたたき、フィギュアスケートのパフォーマンス評価に関する研究に取り組んでいます。研究の進捗を共有したことをきっかけに画像解析系ベンチャー企業と共同研究契約を締結し、プロジェクトを進めています。

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SXLP参加のきっかけは横断型プロジェクト

 前職で社内横断型・社外連携のプロジェクトを進めていました。しかし、既に個別に最適化されたものをアセットとして活用し、他のものと連携させることで新たな価値を作り上げることの難しさに直面。

 全体最適を考える能力と人材育成の必要性を痛感し、1期生としてSports X Leaders Program(SXLP)へ参加しました。

思考法の変化を実感

 最終ワークでは、部活班に所属。グループワークとして日本の部活動システムが持つ価値・課題を整理。その後個人ワークとして、自身が所属していた体育会スケート部フィギュア部門を事例に分析をしました。

 個人ワーク中、自分の思考法が最も変わったと感じた瞬間がありました。それは部活動がとりまく負の連鎖を整理したあと、「どうやって解決すればいいんだろう?」と途方に暮れていた時です。当初は目の前に並べられた課題をネガティブなものと捉え、「取り除くにはどうしたらいいか」ばかり考えていました。

 しかし、「グローバル社会を先導する人材の輩出」という部の理念に立ち返った時、「複雑に絡み合う問題がある環境の中で学生が思考錯誤することにこそ価値があるのではないか」と認識を改めることができました。そして、考えるべき問いを「この環境で学生が試行錯誤できるためにはどのようなサポートが必要か?」という問いに設定し直すことに至りました。

 具体的な問いの設定内容が正しいかは分かりません。しかし、意識して「解決すべき問いを再設定すること」はこれまで自分の中にはなかったものであり、今までの思考法との差分を最も実感できた瞬間でした。

 またこのワークを通じて部活動をとりまくシステムを俯瞰的に整理できたことで、自身が現在取り組んでいる研究の持つ新たな価値を発見することにも繋がりました。

SXLP運営で思考法の実践へ

 卒業後は、SXLPの運営チームメンバーとして活動しています。コアメンバーは0~2期卒業生有志8名。皆本業を持ちながら完全ボランティアで運営している上、オンラインでのやり取りがメインになるため“コミュニケーション”がキーになります。

 そのような中、運営チームでは、意識して全員の共通言語であるシステム思考を用いるよう心がけています。「SXLP運営チーム」を一つのシステムとして捉え、メンバーそれぞれの視点を集めながら関係者との関係を構造化・可視化し、必要な機能をなるべく抜け漏れなく整理して全員で共有しています。

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※運営チームと関係者との関係を可視化(Phaseごとに作成)

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※Phase1授業のサイクルを可視化

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※授業中に必要な機能の整理

 候補者募集要項の作成、候補者選考を終え現在はPhase1が進行中ですが、最初はドタバタだったコミュニケーションもかなり円滑になってきているのを実感し、システム思考を共通言語とした組織の強さを実体験する日々を過ごしています。ユニークなバックグラウンドを持つメンバーと共通言語を介してプロジェクトを進める経験は非常に心地よく、3期運営チームメンバーの募集に手をあげて本当によかったなと感じています。

今後やりたい2つのこと

①現場を尊重した実践的な研究活動

 理論を構築するだけではなく、現場に知見を還元していくことを意識した研究活動を行っていきたいと考えています。そのためにも研究室に一人で籠もるのではなく、様々な現場に足を運び関係者を巻き込みながら研究を進めていくことを心がけています。評論家になるのではなく、実際に行動に移し、そこから改善を行うというマインドを大事にしたいと思っています。

②スポーツを通して科学技術に触れることが当たり前の社会に

 現在はトップアスリートを対象に業務を行っていますが、ゆくゆくはすべての年代で、「スポーツをしていたら自然と技術やデータに詳しくなってしまう」、そんなエコシステムを作り上げたいと思っています。競技力は高くなくとも、「スポーツをやってきた人は技術やデータにすごく強いよね」と言われるような、そんな社会の実現を目指したいです。

SXIに興味を持っている方へ

 スポーツに携わりつつもユニークなバックグラウンドを持った方々と一緒に、新しい社会を築き上げていきたいと思っています!

 自分一人では実現が困難なものでも、様々な知見を持つ人たちが集まり行動を起こせば少しずつ実現への道が見えてくるはずです。ぜひ一緒に活動に取り組んでいきましょう!


(文:SXLP1期/廣澤聖士)

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