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#よくばりに生きている
数ヶ月前から一目惚れしていた赤のワンピースを買った。
予約段階から赤(しかもワンピース)は勇気がいる色だから一度試着してからにしようと思いつつ、ZOZOでも一時品切れになって後悔しかけたから、通常販売になったとわかった瞬間に店舗へ行って試着した。思っていたより生地はしっかりしていて、露出も控えめで、その赤は私に似合っていた。二目惚れしてその場で購入を決めた。
10分の筋トレ動画を1日1〜2本。
腹筋オンリーから、腹直筋+腹斜筋、腹筋+胸筋+背筋、と徐々に鍛える場所と動画の本数を増やし続けて、生理期間は休んで、約1ヶ月。
これまで筋トレした中で1番はっきりと、くびれや腹斜筋のラインがついてうれしい。背筋も水泳現役時代ほどの硬さまではいかないけれど、ラインがはっきりしている。
イヤリングカラーをレッドオレンジに染めてから1.5ヶ月。
1週間でレッドが抜けて、その次の1週間でオレンジが抜けはじめて、金髪を経由して、白っぽくなって根本の方は黒髪になってきて、前髪は伸び切った。
明日は彼との記念日祝い、2週間後は彼の誕生日祝い。
そうだ、美容院へ行こう。
前回オレンジに染めるときのカラー剤が最初紫色だったのを見て”次は紫にしよう”って思ったんだ。「昔バレエやってて生え際がハゲたりおでこが広く見えたりするのが気になります」と言ったら、その時の美容師さんが「前髪次第でハゲないようにできるよ」って言ってくれたんだった。
その日、美容師さんにLINEで予約をとって、コンビニバイトを15分早く上がらせてもらって、イヤリングカラーを赤紫に、前髪をハゲないようにしてもらった。ハゲなくなったのが嬉しくて何度も鏡を見たし、いつもは写真写り悪いから写真を撮られたくないと思ってるのに、夜の電話で彼に「明日は写真撮ってもいーよ」とドヤ顔してしまった。
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大学に入って、メイクや服装はそれなりに頑張ってきたつもりだったけれど、髪型とか体型とかには気を遣っていなかった気がする。
美容院は半年〜1年に一度、髪を短くしたくなったときだけ行けばいいと思っていた。伸ばす過程でどんなに髪型がイマイチになっていても”伸ばすんだから”と思っていた。体型は幸い太りにくい体質なのに加えて、現役時代のインナーマッスルがまだ残っていることもあって”このままでいいや”と思っていたし、筋トレは一定期間続けても思ったほど変化がなくて生理期間になるたびに挫折してきた。
知らなかった。
着たい服を着れるだけでこんなにワクワクするものだということ。
筋トレの中で最優先はいつだって腹筋で、腹筋しただけでもその日”今日は筋トレしたもんね”という満足感はあったけど、腹筋よりも優先順位の低い背筋、胸筋、ヒップ、に手を伸ばしてみると、満足感を超えてそれぞれの場所に光が差し込むように自分への自信の量が増えていくのだということ。
新しい髪型・髪色に出会うことは新しい自分に出会うことなのだということ。短いスパンで美容院に通うだけで自分を大事にできている気がしてくること。
自分を磨くことがこんなに楽しいのだということ。
またひとつ、私はよくばりになった。
優先順位
心理実習のうちのいくつかとパリ留学が見事に被った。
せっかく、4回生らしからぬ量の授業を履修して公認心理師の受験資格を満たして学部を卒業しようとしているのに、肝心の実習でFがつく可能性が出てきた。
履修登録時にはまだ実習日が公開されていなかった。「他の授業と被っても実習を優先してください」と語る火曜1限のこの実習がこんなに夏休みに被せてくるなんて思わなかった。そうとわかっていれば、別に目指しているわけでもない公認心理師の資格要件科目なんて、実習なんて、取らなかったのに。公認心理師を諦めていれば私が大学に通うのは水曜だけでよかったはずで、そうだったら残りは全部バイトとフランス語の勉強と卒論に充てられたはずだった。
だけど公認心理師の要件を満たして卒業すると決めたのは、他でもない私で。他の何よりもパリ留学を優先して動こうと決めたのは私だ。Fなんてどうでもいい。
何かに優先順位を施すのは得意な方だ。
普段から、やらなければいけないこと(must)、やるべきこと(should)、やりたいこと(want)を頭の中で整理して、その時の判断に応じて、課題を片付けてから読書をしたり、先に読書しちゃってから“やりたいことやったんだから”と課題を頑張ったりする。
だけど、優先順位をつけるのは好きではないから、自分に選ぶ権利がある限りは多少無理をしてでもすぐに「ぜんぶ」を選択してしまう。
今回だって本来なら、バイトを最優先、その次にフランス語と英会話、その次に研究にして、心理実習は外すべきだった。パリでの暮らしにも、日常生活でも、自分へのご褒美にも、彼への誕生日や記念日プレゼントにも、父と妹の誕生日プレゼントにも、お金は必要。
だけど、自分の中の純粋な興味やいい経験になるだろうという打算、そしてなにより“自分次第だ”という自信が、心理実習と研究とバイトと勉強の四立を私に選ばせた。愚かだ。
なにかを選ぶなら、
なにかを捨てなければならない
って、ほんとかな。
もちろん全部抱えてみて、嫌だったり無理だったりこんなに要らないなと思ったり、したときに潔く捨てる勇気は必要だけど、
抱えたいと思ったってことは全部大事なことなはずだから、まずは全部抱えてみるのも、いいんじゃないかな。
私はよくばりだから、
心理実習も、研究も、パリ留学も、彼との4年記念日も、彼の誕生日も、父と妹の誕生日も、そのためのバイトも、趣味も、自分へのご褒美も、
ぜんぶ、取りたい。
それが叶うかは、私次第。
でも、そのためならがんばれる。努力できる。
私次第、という希望
思えばこれまで、勉強ができるとか、お金があるとか、良いセンスしてるとか、容姿が優れているとか、そういう人に対して羨んだことはなかった。自慢されても気にせずに「そうなんだ!すごいね!」と答えてきた気がする。
それはきっと、私も努力しさえすれば彼らと並ぶことができるだろう、と思っていたからだ。あるいは、彼らと同じ土俵に立つ必要はないと思えるような、自分にとって優先順位の低いことだったからだ。
一方、恋人や友達に愛されている、私がやると許されないことでもあの子なら許されるといったことは、努力してもどうにもならないことだから、羨んでしまうことがあるのだと思う。
“努力すればできるようになる”、“自分次第だ”、という言葉は、あまりに向いていなくてやってもやってもできないことに対してや、そもそも努力ができない人にとっては呪いになるかもしれないけれど、
私にとってはいつだって自分がやりさえすればできるかもしれない、と思うことのできる希望の言葉だった。
努力して思うようにできるようになったことも、できなかったこともあるけれど、後悔はない。
*
これからも、この身に起こることは「私次第だ」と引き受けて、よくばりに全部抱えて生きていこうと思う。
その先に見える景色が楽しみだから。
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