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世界の一部を、オレンジに染めた日。


髪を染めるのは、派手な人がやることだって思っていた。


大学に入って、髪なんて染めそうになかった親しい友人たちも茶髪にしたり、インナーで染めたりするようになって、別にそういうわけではないとわかった。

彼女らに対しては、新しい髪色も似合っているなと思っていたし、それによって彼女らの印象が変わったりはしなかった。

だけど、インナーカラーとかブリーチとか、色抜くとか色抜かなくていいとかよくわからなかったし、せっかくお金をかけて髪を染めても髪は傷をで色はすぐ抜けるらしいのに課金するなんて、と髪を染めることに対して、やはりあまり良い印象はなかった。


「髪、染めたりせんの?」
「就活終わったら髪染めよ!」

そんな風に何度か彼に言われたことがある。彼のお姉ちゃんが結構髪を染めるタイプの人だから、気になったのだと思う。

その度に私は、大学2年ごろまでは「成人式あるし、成人式はやっぱ黒髪でしょ」と、それ以降は「就活あるし」と、就活終わったら、に対しては、「えー嫌ー」と拒否を貫いてきた。


そして、ヘアカラーに大した興味も持たないまま、私の大学ラストイヤーになった。




そんな3月末のある日、彼が「髪切るわ〜」と言った。


成人式が終わって髪を切ってから約1年。

水泳部だった中高時代、スイムキャップとゴーグルの都合上、シーズン中は髪を括って過ごすために、シーズン終わりの秋冬に髪を切って1年延ばす、という規則正しいカット周期で生きてきた。

大学に入って、選手としての水泳から離れてからは、成人式があったのもあって髪を切るタイミングをすっかり逃していた私はこの時、ちょうど前髪も伸び切っていたし「いまだ!!」と思い、3月末、突然髪を切った。

理由は彼が髪を切ると言ったから。

彼が切るタイミングに合わせて切って、次会うときに驚かせようと思った。


顎下2cmの、切りっぱなしボブ。


それを見た彼は「前ボブにした時よりかわいいね」などと褒めてくれた。私がロングになったから?「最近はロングもいいなと思い始めてる」と言い出していた彼は、長らくロングよりショート派だった。その彼を喜ばせることができて、満足した。



だけどその翌週、彼と会った私はボブにするだけには飽き足らず、髪を染めていた


しかも、レッドオレンジのイヤリングカラー

最近の人は、インナーカラーでも髪の内側全部を染めたり、前髪だけ染めたり、イヤリングでも髪を括ったときに全範囲カラーになるくらい大部分を染めたりするみたいだけど、私はほんの一部だけ。耳をかけたときにチラリと一筋、カラーが見える程度。

ピンク、赤、グレージュ、ミルクティー、オレンジ。

候補は色々あれど、せっかく染めるならわかりやすい色にしたいし、青系の服を着ても赤系の服を着ても合う色がいい、ということでオレンジにした。

カラーをしてもらった美容院は、行くのが初めての、2年前に地元にできたところの美容院だった。

いつもカットをしてもらっている行きつけの美容院には、先々週カットしてもらったときにチラリと聞くと「客層が白髪染め世代で、若い子が染めるようなおしゃれカラーは持ってないから、ブリーチまでしかしてあげられないな〜」と言われてしまってビクビクしながら行ったけれど、ブリーチ中やカラー中の待ち時間にdマガジンがダウンロードされているFireタブレットと、コーヒーとお茶菓子が出てくるような、おしゃれ美容院だった。

希望をしっかり聞き出した上で
「ブリーチは回数重ねるごとに値段も加算されていくから、1回で済む方がいいよ」と「1回(色を)抜いてみてどの色までならできそうか言うから、その中からできる色探そっか」と提案してくれたり、
「暖色系から寒色系にしようとするとまたブリーチしないといけないけど、逆だったら移行しやすいから、もし寒色系もやりたいなら今回は寒色にした方がいいよ」「ピンクは色抜けやすいよ」「イヤリングカラーは肌色の影響受けないから好きな色にして大丈夫だよ」と教えてくれたり、
オレンジに決まったあとも「赤もチラリと言っていたから」と赤混じりのオレンジにしてくれたり、と、サービスも技術もちゃんと持っていた。

最後には、「この髪質、アイロンいらずで外ハネができる貴重な髪質だから、外ハネやった方が得だよ」と、不器用な私にもできるヘアオイルアレンジの外ハネのやり方を教えてくれた。最高すぎる美容院だった。



母は、私が髪を染めることをあらかじめ知って、今まで私が全く興味がなかったのを知っているから「気になるならやってみたら〜」と割と協力的だった。

そんな母でさえ、耳周りの内側の髪をオレンジに染めて外ハネで帰ってきた私をみて一瞬絶句して「随分派手な色に染めたのね」「よその子みたい」と衝撃を受けていた。逆に、普段塩対応な妹は珍しく「かわちい〜!」と絶賛だった。


髪を染めた翌日に彼と会った時は内巻きで会ったから、イヤリングカラーの部分が隠れていて全然気づいてくれなかった。「かわいくなったよ!気づいて!!!」と言っても「???」て感じだったから、仕方なく耳掛けすると「え、染めたん?!」と驚いていた。「これは気づかんわ!」と言いつつ、その後も「え、ブリーチしたんや」「オレンジって結構勇気出したね」「エクステとか挟まなかったのね」「なんで染めたん?!」と興味津々で、どことなく嬉しそうに私の髪を耳に掛けて遊んでいた。





正直、髪を染めようと思った動機は私にも謎だった。
し、”どうしてもやりたい” というよりかは ”やってみてもいいかもな” 程度のものだった。


だけど今思うと私は、自分に対する周囲の印象を裏切ってみたかったのだろう。


きっと、誰も ”真面目な翠” が髪を染めるなんて想像していなかったと思う。


別に髪を染めちゃうようなおしゃれさん、とか、髪染めちゃうような派手な子、と思われたいわけではない。だけど、これまでの普段の私を知っている人に「へ〜こんな一面もあるんだな〜。おもしろいな〜。」と、(本当にそう思ってもらえるかは別として)思われるようなような行動ができたらな、と思ったら、やってしまっていた。そんな感じ。



今回染めるまで私がやる染め方は「インナーカラー」の中でも、「イヤリングカラー」というやつなのだということさえも知らなかった。もっというと、美容院のメニューに「インナーカラー」というのはなくて、かつ、「カラー」でも対象外なことがあって、インナーカラーをしたかったら、カラーの中でも「ダブルカラー」というメニューを選択しないといけないことも、今回初めて知ったし、インナーカラーは難しいから髪全体を染めるよりも範囲が少ないのに値段が高くなる、ということも知った。

メニュー名「ダブルカラー」(髪染めるのにブリーチする)>インナーカラー(髪の内側染める)>イヤリングカラー(髪の内側のうちのさらに一部分である耳のあたりのみ染める)
私のような人のための、ヘアカラー関係図


髪を染めると、それがたとえごく一部でも、なんか生まれ変わった感じがする。そして、そんな感覚は ”なんかいいな” と素直に思ったし、今の色が抜けたら次は何色にしようかな、と楽しみになっている。ヘアカラーを好きな人たちの気持ちが少し、わかる気がした。



たとえば就職面接なんかでは未だに「黒髪じゃないと」と言われるし、就職したらやはり「身だしなみとして黒髪じゃないと」と言われる。


それに対して、今までは「言わんとすることはわかる」なんて思っていた。それどころか「黒髪とかおとなしめの茶髪じゃないなんてチャラい」とすら思っていた。


そんな私は今は、髪色だけでその人を「ビジネスマンとしての自覚が足りない」とか「礼儀がない」とか、判断するなんて何様なんだろう、と思っている。










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