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読書のお部屋

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#江國香織

モンテロッソのピンクの壁

モンテロッソのピンクの壁

暖かさがやってくると、人はふと旅をしたくなる。旅立つのにちゃんとした理由など要らない。でも何処へ行く? 猫のハスカップにはなんの迷いもなかった。「モンテロッソへいかなくちゃ」

「不思議な旅をする本が読みたいわ」と願ったのはウサギだった。そんな彼女にカメが薦めたのは、江國香織さんの「モンテロッソのピンクの壁」という絵本。その表紙には、まるで「白ワインで蒸した鮭みたいな」ピンクの壁が大きく描かれてい

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ぼくの小鳥ちゃん

ぼくの小鳥ちゃん

映画「マダム・ウェブ」の上映が始まって、さほど時間は経っていなかった。主人公のキャシーの部屋の窓ガラスに鳩がぶつかるシーンで、彼女は未来を視る能力に目覚めた。「このシーンは…」映画館のシートにひとり座るカメの記憶の底から一冊の本が甦った。江國香織さんの「ぼくの小鳥ちゃん」だ。

「ぼくの小鳥ちゃん」の主人公である「僕」と小鳥ちゃんの出会いは、雪の降る朝の部屋の窓辺だった。そこに小鳥ちゃんが不時着し

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いつか、ずっと昔

いつか、ずっと昔

図書館の窓からの眺めは、木の芽がまだ外に出る勇気を出せずにいるかのような、どこか寂しげな色合いだった。そんな景色をぼんやり眺めながら、ウサギはカメに問いかけた。「カメくん、自分の前世が何者だったか、覚えてる?」彼女の瞳は時間を超えて、はるか遠くを見ていた。

「江國香織さんの『いつか、ずっと昔』という本を読んだの。本の中の女の人が言っていたわ。人間になる前に私はヘビだったって。それを読んではっとし

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