マガジンのカバー画像

書記の読書記録まとめ

1,286
今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
運営しているクリエイター

2021年2月の記事一覧

書記の読書記録#95「或る「小倉日記」伝」

松本清張「或る「小倉日記」伝」のレビュー レビューー或る「小倉日記」伝 1952年の作品で,第28回芥川賞受賞作。肉体的な欠陥を抱えながらも頭脳の明敏な一青年が,森鴎外「小倉日記」の巡礼を行う話。ある種のコンプレックスによる悲劇性を学問の追究へと昇華させた感じか。周辺人物も大事で,常に献身的な母や"コケットリイ"てる子,これらの存在が主人公の姿勢に影響する。 他の短編にしても書いてあることは似ていて,学者が表現者かであろうと夢中になる者,気分はどうあれ献身する者,機会が

書記の読書記録#94「アート/表現する身体 アフォーダンスの現場」

佐々木正人(編)「アート/表現する身体 アフォーダンスの現場」のレビューと読書記録 レビューアフォーダンス(affordance)とは、環境が動物に対して与える「意味」のことである。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンによる造語であり、生態光学、生態心理学の基底的概念である。「与える、提供する」という意味の英語 afford から造られた。(Wikipediaより引用) 本書ではアフォーダンスの実例として,コーディネーション(演劇,一人芝居,指揮,楽器演奏),イ

書記の読書記録#93「ローマ帝国衰亡史 6」

E.ギボン(訳:朱牟田夏雄,中野好之)「ローマ帝国衰亡史 6」のレビューと読書記録 レビュー本巻では西ローマ帝国滅亡後の,コンスタンティナポリスを首都とする東ローマ帝国について,主にユスティニアヌス帝の治世について書かれている。ユスティニアヌス法典,聖ソフィア聖堂などの建立,帝国統治の行政改革などと,ユスティニアヌスは東ローマ帝国の最盛期の代表的な皇帝である。 読書記録# 1p11〜84 ・ユスティニアヌス以前の治世・東ゴート王テオドリック,イタリア征服へ・オドケアルの敗

書記の読書記録#92「トロイア戦争全史」

松田治「トロイア戦争全史」のレビューと読書記録 レビュー『「トロイア戦争について知りたければ,この一冊で十分だ」と言えるような本をつくりたい。』 本書はまさにそれに応えたものと言える。古代ギリシャ・ローマについて記述が多いなかで,トロイア戦争の流れがわかるように再編成したテキストである。 範囲としてはテティスとペーレウスの結婚,エリスの不和の林檎から始まり,トロイア陥落からの水没までを扱っている。全7章144話からなる物語として,トロイア戦争について整理できる。 もく

書記の読書記録#91「バルトーク」

伊東信宏「バルトーク」のレビューと読書記録 レビュー民謡の収集をライフワークとした作曲家バルトークについての本。民俗音楽研究,そのものがどのように進展していったかの流れも見えてくる。ハンガリーおよびルーマニアの音楽について,ドイツ音楽の本流に対する疑問やジプシー音楽との混同など(特にリスト作品に顕著),なかなかに複雑怪奇だ。バルトークが求めた「真の」ハンガリーというのが,重要な意味を帯びてくる。 読書記録# 1p4〜74 ・シェーンベルクのハンガリー観・ハンガリー音楽にお

書記の読書記録#90「変身物語」(全2巻)

オウィディウス(訳:高橋宏幸)「変身物語」のレビューと読書記録 レビュー古代ローマの詩人オウィディウスによる作品で,神話原典のひとつ。変身譚の代表的なものだろう。ギリシア・ローマ神話の登場人物たちが様々なものに変身してゆくエピソードを集めた物語となっている。語りにより滔々と流れる物語,はどこか雄弁。 以下,解説より ・オヴィディウス・キーワード:驚き,新しい・歴史叙事詩,ヘレニズム文学・変身の伝統・テーマ統一性の不在・不和なる調和・怒りの変容・知的遊戯としての失敗・アエ

書記の読書記録#89「色彩がわかれば絵画がわかる」

布施英利「色彩がわかれば絵画がわかる」のレビューと読書記録 レビューおそらく「構図がわかれば絵画がわかる」と同シリーズ。 色彩の成り立ちや歴史,絵画における実践例について書かれた本で,理論についてはいろいろ羅列してある感じ。気軽に読める本である。 読書記録# 1p3〜169 ・3原色:赤,青,黄・ニュートン「光学」,ヤング「光と色の理論について」,ヤングヘルムホルツ説・加法混色と減法混色,白と黒・補色・3属性:色相,明度,彩度→色立体・カッツの9分類:表面色,空間色,面

書記の読書記録#88「構図がわかれば絵画がわかる」

布施英利「構図がわかれば絵画がわかる」のレビューと読書記録 レビュー美術の見方を,身につけたい。いったい,何を学んだら,美術はわかるのか。大学を卒業した私は,美術史の研究には進まず,他の分野から美術の核心に迫る道を歩み始めた。美術史とは別の方法で,「美術の理論」をかたちにしたい。そう考えながら。ともあれ,あれから30年。いま,こんな本がある。(おわりに より) 美術について構図から見てみようといった感じの本。ところどころ著者のこだわりがみられる,特に仏像と美術解剖学につい

書記の読書記録#87「ギリシア・ローマ神話」

ブルフィンチ(野上弥生子 訳)「ギリシア・ローマ神話」のレビュー レビューギリシア神話・ローマ神話は西洋文学の至るところに出てくるので,その知識が必要になる。本書ではギリシア神話・ローマ神話の概要が一通り書かれており,知識とする分には良い辞書になると思う。 著者と訳者の情報についてWikipediaから引用。 トマス・ブルフィンチ(Thomas Bulfinch,1796年7月15日 - 1867年5月27日)はアメリカの作家。 "The Age of Fable" (

書記の読書記録#86「箱男」

安部公房「箱男」のレビュー 「戦後文学の現在形」収録作品。 レビュー覗き窓といえば,江戸川乱歩「屋根裏の散歩道」が印象的だろうか。「箱男」は随分と用意周到かつ大胆で,わざわざ箱を被ってまで「覗き窓」をこしらえるのである。そうして一市民を超越する。現代の「民衆」の姿と,そう変わらないような気もする。 少し脱線 「偽物の方が圧倒的に価値がある。そこに本物になろうという意志があるだけ,偽物の方が本物より本物だ」(西尾維新「偽物語」より引用) なおこのセリフに並べて,「本物

書記の読書記録#85「ファンダメンタルな楽曲分析入門」

沼野雄司「ファンダメンタルな楽曲分析入門」のレビューと読書記録 レビュー本書の狙いが,いわゆる現代音楽に向いていることは明らかである。ただ分類をこねくりまわすのでなく,そのFundamentalな部分から分解再構築をするという流れ。文章は時に乱雑だが,その示唆する内容は割と面白い。楽曲分析の例について,短い曲で手元でもやりやすいのはありがたい。 読書記録# 1p3〜62 ・分析:再統合の重要性,価値判断の根拠にならない・グルーピング・音価,音高,音色・繰り返し反復,回帰反

書記の読書記録#84「古代ギリシアの歴史」

伊藤貞夫「古代ギリシアの歴史」のレビューと読書記録 レビューアルファベットの成立から古代ローマ占領までの,ギリシアの興亡を1冊にまとめた本。民主主義を考える上では外すことのできない,ポリスについての流れを中心に書かれている。 読書記録# 1p3〜122 ・ギリシア先史文明の発見:シュリーマン,エヴァンズ・線文字Bの解読:コーバー,ベンネット,ヴェントリス,チャドウィック・青銅器の出現:エーゲ文明・ギリシア人の定着・ミケーネ時代:ピュロス文書とクノッソス文書,諸王国の分立・

書記の読書記録#83「砂の女」

安部公房「砂の女」のレビュー レビュー1962年出版。 「流砂(quicksand)とは,水分を含んだもろい地盤又はそこに重みや圧力がかかって崩壊する現象である。砂・泥・粘土などの粒子が、地下の湧水などによって水分が飽和状態になることにより形成される。流砂は圧力がかかって崩壊するまでは,一見普通の地面のように見えている。(Wikipediaより引用)」 環境に順応する過程というのは研究され続けているテーマであるが,本作はそれを文学世界に落とし込んだものだろう。また,逃亡

書記の読書記録#82「わたしたちに音楽がある理由 音楽性の学際的研究」

今井恭子(編著)「わたしたちに音楽がある理由 音楽性の学際的研究」のレビューと読書記録 レビュー本書は音楽性の研究についての論文のまとめのような体裁をとっている。内容としては,主に霊長類からみた音声コミュニケーションの発達,乳幼児の音楽性の発達と教育(コミュニカティヴ・ミュージカリティ)が中心となっている。 本書のキーとなるのは「絆の音楽性:つながりの基盤を求めて」という訳書であろう,合わせて読むとよいと思う。 読書記録# 1p3〜64 ・咽頭の形態・発生運動学習の困難