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認知バイアス大全

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賢い人も含めて、わたしたち人間が「頭の悪い行動をしてしまう」理由は、だいたい認知バイアスによるものです。認知バイアスとは、進化の過程で得た機能の「バグ」。この認知バイアスの良いと… もっと読む
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記事一覧

社会的調査の障壁「社会的望ましさバイアス」

インタビューやアンケートに発生する歪みなんらのかのインタビューや調査を受けたとき、わたしたちは、倫理や体裁やタブーに触れるような思想や行為について、そのまま答えることに強い抵抗を感じます。つまり「社会的に望ましい回答」をしてしまう傾向があります。これを「社会的な望ましさバイアス」と言います。 社会的望ましさバイアス社会的望ましさバイアス(Social-desirability bias/SDR ) この「社会的な望ましさバイアス」は、社会学や心理学など人間の心理と行動に関

難しい問題を簡単だと思い、簡単な問題は難しいと見積もる認知バイアス「難易度効果」

「認知バイアス大全」マガジン認知バイアスを集めたマガジン「認知バイアス大全」。200を越える認知バイアスを紹介しています。 難易度効果 難易度効果(Hard–easy effect)とは この難易度効果は、時間節約バイアスに似ています。時間節約バイアスとは、「高速を出しているときに、さらにスピードを出して節約できるであろうと思う時間を過大評価してしまう」バイアスです 難易度効果の実験いくつかの実験で被験者は、答えが2つある一般的な知識の問題に答え、さらに各問題の正

間違いを指摘されると逆に考えを曲げなくなる 「バックファイア効果」

人間は間違いを指摘されるとかえって強く信じ込んでしまうのか?何らかの認識を持った人が、その認識についての誤りを指摘されると、かえってその認識を信じ込んでしまうという現象があるのではないか、という研究がありました。これを「バックファイア効果」と言います。しかし、この効果についての7つの論文をメタ分析したところ、この効果はあまりみられないようだという結論に至っています。 バックファイア効果バックファイア効果(Backfire effect)とは、 です。バックファイアとは、英

「フロリダ(日本なら由布院?)」と聞くと無意識に歩くスピードが遅くなる 「プライミング効果」

「ナース」という言葉の認識 「ナース」という言葉の認識は、「パン」という言葉のあとより、「ドクター」という言葉のあとのほうが、早く認識されます。このように先行する刺激が、次の刺激の認識を早めたり、抑制したりすることを「プライミング効果」といいます。 プライミング効果プライミング効果(priming effect/priming)とは 先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果 プライミング効果は潜在的(無意識的)な処理によ

「人を無意識に動かくテクニック」 ナッジ理論

ナッジ理論とはナッジ理論(Nudge theory)とは ひとの行動をデフォルトオプションや社会的証明ヒューリスティックなどを使って導きたい結果に誘導して行動させ、個人や社会をより良くしようという理論 2017 年にノーベル経済学賞を受賞 したアメリカ合衆国、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授(Richard H. Thaler)によって提唱された理論。ナッジ(Nudge)というのは、「肘でつつく」という意味で、人々を強制的に動かすのではなく、自然に(無意識に)良い方

内観を信じるな 「内観幻想」

内観幻想内観幻想(introspection illusion)とは、 自分の精神状態の「起源」を理解していると思い込み、他人の内観を信頼できないものとして扱う傾向 です。この錯覚は、心理学的な実験で検証され、人が、自分と他人を比較するときのバイアスの根拠として示唆されています。これらの実験によって、人は他人の行動から勝手にその人の精神状態を不正確に推測するように、自分自身についてもまた誤って解釈することがあることが示唆されました。 これらの実験は、人々が他人の行動から

できないという思い込みの作り方と抜け出し方 「学習性無力感」

学習性無力感学習性無力感(Learned helplessness)とは 長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象 です。なぜ罰されるのか分からない刺激を与えられる環境によって、「何をやっても無駄だ」という認知が形成されると、「学習された」無力感が生じます。1967年にアメリカの心理学者、マーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)らのオペラント条件づけによる動物実験での観

後悔は人生に役にたつ。 認知バイアス 「反事実的思考」

銅メダリストは、銀メダリストより幸せな理由オリンピックメダリストの場合、銅メダリストのほうが、銀メダリストよりも結果に満足していることが多いようです(※1)。銀メダリストは、「もし、ああしていれば」という、過去についての「選ばなかった選択」について考えるとき、その「選ばなかった選択」の結果が、金メダル獲得という「今より上の事実」を想起します。一方で、銅メダリストは、同じように「もし、ああしていれば」という過去の「選ばなかった選択」について、考えるとき、その想起する「選ばなかっ

間違えることを前提とした対策 「エラーマネジメント理論(EMT)」

エラーマネジメント理論エラーマネジメント理論(EMT: error-management theory)とは、 知覚および認知バイアスによって犯してしまうエラーを回避する理論 です。エラーマネジメント理論(EMT)は、David BussとMartie Haseltonによって作られた知覚と認知のバイアスに関する広範な理論である。人間が、ヒューリスティックやバイアスを使ってどのように考え、判断するかは、人間の脳に組み込まれている可能性があります。この理論を用いた関連分野と

危険な思想 「自尊心」

自尊心自尊心(Self-esteem)とは、 自分に対する主観的な評価 自分に対する信念(例:「自分は愛されていない」や「自分は価値がある」など)や、勝利、絶望、誇り、恥などの感情状態が含まれます。スミスとマッキーU(Smith and Mackie)(2007) は、「自己概念とは、自分について考えることであり、自尊心とは、自分についてどのように感じるかという肯定的または否定的な評価である」と定義しています。 自尊心は、特定の属性に適用されることもあれば(例えば、「自

実力をちょっと上回ることが出来ると信じたほうが良いみたい 「自己効力感」

自己効力感自己効力感(self-efficacy)とは、 自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること です。カナダ人心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した概念です。自己効力感は、強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあると考えられています。「Efficacy」とは、「効力」という意味。 似た用語に、自尊心(self-esteem)がありますが、自尊心は、自分を信じていることに起因する感情を意

同じデータなのに部分と合計で結果が変わる! 「シンプソンのパラドックス」

問題:AくんとBくん、どっちが優秀? AくんとBくんが、1回目と2回目で合わせて110問を解くというテストを受けました。1回目のテストでは、Aくんは、100問を解き60問正解で、Bくんは、10問を解き9問が正解でした。2回目のテストでは、Aくんは10問中1問、Bくんは100問中30問が正解でした。さてAくんとBくんのどちらが優れているでしょうか? 【1回目】 Aくんの正解率:60/100=60% Bくんの正解率:9/10=90% 優劣の判断:BくんのほうがAくんより優れて

人はわかりやすいものを好きになり、信用する 「認知容易性」

次の2つの文章をくらべてみてください。•アドルフ・ヒトラーは1892年に生まれた。•アドルフ・ヒトラーは1887年に生まれた。 どちらが正しいと思いますか?実験によれば、最初のほうを正しいと思う人が多いようです。(正解は1889年。)これは、最初のほうが文字が大きく、認知が容易なため、本当っぽく見えるために起きる反応です。人は、容易に理解できるものを信用します。これは進化の過程で得た傾向です。よく知っている場所では不測の事態は起きにくく、知らない場所ではどんな危険が潜んでい

わたしたちの脳にはサボりぐせがある 「最小努力の法則」

最小努力の法則最小努力の法則(The principle of least effort)とは、 ある目標を達成するのに複数の方法があるとき、人は、最終的にもっとも少ない努力で済む方法を選ぶ というものです。ジップの法則とも言われています(後述)。「最小努力の法則」は、進化生物学からウェブページのデザインまで、幅広い分野をカバーする理論です。動物や人間はもちろんのこと、よくできた機械であっても、努力(コスト)が、最も少ない道を自然に選ぶと仮定しています。この理論は、他の多