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実力をちょっと上回ることが出来ると信じたほうが良いみたい 「自己効力感」

自己効力感

自己効力感(self-efficacy)とは、

自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること

です。カナダ人心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した概念です。自己効力感は、強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあると考えられています。「Efficacy」とは、「効力」という意味。

似た用語に、自尊心(self-esteem)がありますが、自尊心は、自分を信じていることに起因する感情を意味しています。自己肯定感ともいえます。一方で、自己効力感は、自分にある目標を達成する能力があるという認知です。ただし、高い自尊心は、困難な作業への動機を生み出し、結果的に成功をもたらすことも多くあります。

定義

バンデューラは、行動を行うことに先じんた要因として、(1)結果予期と(2)効力予期の2つをあげています。

(1)結果予期(Outcome Expectation)
ある行動が、ある結果を生み出すという推測

(2)効力予期(Efficacy Expectation)
ある結果を生み出すために必要な行動を自分がうまく行うことができるという確信

自己効力感は、(2)の効力予期をどの程度持っているか、という認識です。

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人への影響(1):行動の選択

人には一般的に、自己効力感が低い課題は避け、自己効力感が高い課題は引き受ける傾向があります。しかし自己効力感が、実際の能力を大きく超えている場合は、課題をこなす能力を過大評価することになり、失敗に繋がります。逆に自己効力感が実際の能力よりも著しく低い場合は、成長を阻害します。最適な自己効力感のレベルは、能力をわずかに上回る程度だという研究結果があります(※4)。


人への影響(2):動機

自己効力感は、動機に良くも悪くも影響します。一般的に、自己効力感の高い人、つまり「わたしはできる!」と思っている人は、自己効力感の低い人(「わたしになんて無理!」と思っている人)に比べて、課題を達成するために努力し、その努力を長く続ける傾向があります。

一方で、自己効力感が低いと、学習性無力感(learned helplessness)の状態に陥ることがあります。学習性無力感は、マーティン・セリグマン( Martin Seligman)が、動物をつかった実験で研究したものです。出ようとするとショックを与えられるケージに入れられた動物は、ショックを与えられないケージに移されても、ケージから出ようとしなくなりました。このように自己効力感の低さは、いくら努力しても無駄だ、と感じる状態に繋がる可能性があります。


人への影響(3):思考パターン

自己効力感が低いと、実際よりも難しい課題だと考えて、逆に自己効力感が高いと、実際よりも簡単な課題だと考えてしまいます。その結果、タスクの計画性が低下します。つまりできることに挑戦しなくなり、できないことをできると考えるということ。これは、計画の誤謬に繋がります。計画の誤謬とは、「計画の達成にかかる時間、コスト、リスクを過小評価する傾向」です。

自己効力感が低いタスクに取り組むと、人は不安定になり、予測できなくなります。また自己効力感の高い人は、より広い視野で物事を捉え、最適な計画を立てようとします。障害があると、自己効力感の高い人はより大きな努力をするようになり、自己効力感の低い人は落胆してあきらめるようになります。

自己効力感の高い人は、失敗を外的要因のせいにしますが、自己効力感の低い人は、能力の低さのせいにします(認知の歪み)。例えば、数学の自己効力感が高い人は、テストの成績が悪かった場合、いつもより難しいテストだった、準備が足りなかったなどと自分の内側ではなく、外側に理由を帰属させます。いっぽうで自己効力感が低い人は、その結果を自分の数学的能力の低さのせいにします。


人への影響(4):支配感

バンデューラは、自己効力感の違いが、根本的に異なる世界観を形成していることを研究で示しました。自己効力感の高い人は、自分の人生は自分でコントロールしており、自分の行動や決定が自分の人生を形成していると考えます。一方で自己効力感の低い人は、自分の人生は自分ではコントロールできないと考えがちです。自己効力感の高い学生は、試験で悪い結果を出したとき、その原因は勉強が足りなかったからだと考えますが、自己効力感の低い学生は、自分をバカだと考えます。

自己効力感の測り方

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自分の自己効力感を知りたいときGeneral Self-Efficacy Scale (GSE)というテストを使います。GSEは、以下の10問で構成されています。それぞれに1〜4点のあいだで点数をつけていきます。「まったく当てはまらない」なら1点で、「完全に当てはまる」なら4点。すべてを足して合計点を出せば終了です。

① 十分にがんばれば、いつも困難な問題を解決できる
② 誰かが反対しても、自分が欲しいものを手にするための方法や方策を見つけられる
③ 目的に集中し続けながら、ゴールを達成するのは簡単なことだ
④ 予想もしない事態が起きても、効率的に対処する自信がある
⑤ 私は機転がきくので、予想もしない状況になっても、うまく解決する方法がわかる
⑥ 必要な努力さえ続ければ、ほとんどの問題は解決できる
⑦ 自分の問題解決力を信頼しているので、困難が起きても冷静でいられる
⑧ 問題が起きても、たいていは複数の解決策を見つけられる
⑨ トラブルに巻き込まれても、たいていは解決策を考えつける
⑩ 何が起きても、いつも対処できる

2002年に行われた世界25カ国、約20,000人を対象とした調査によると

世界の平均値は、29.55
コスタリカの平均値、33.19
フランスの平均値、32.19
日本の平均値は、20.22

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source: Is General Self-Efficacy a Universal Construct? Psychometric Findings from 25 Countries

対策・応用

自己効力感が高いと

(1)勉強と仕事のパフォーマンスが上がる
(2)人生の満足度も上がる
(3)家族の関係も良くなる

といいことがいっぱい(※5)。では、どうやって自己効力感を高めたら良いのか

(1)自己達成:少しでも自分が成功した経験をする
(2)他者達成:自分の目標と似たようなゴールを達成した人を観察する
(3)言語達成:自分がどれだけゴールを達成できるかを理詰めで考える
(達成できなさそうな場合も「何パーセントぐらいできなさそうか」を把握する)

というのが効果があるよです(※6)。


関連書籍

実力を少し上回る課題に取り組むことでフロー状態に人はなり、良いスパイラルが生まれる「フロー体験」に、自己効力感は大きく関わっています。フロー体験は、チクセントミハイが権化。


関連した認知バイアスなど

•計画の誤謬 (Planning fallacy)
計画の達成にかかる時間、コスト、リスクを過小評価する傾向


認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。


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参照

※1:Decision making and the avoidance of cognitive demand

※2:自己効力感

※3:Albert, Bandura (March 1977). “Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change”. Psychological Review (American Psychological Association) 84 (2): 191-215.

※4: Csikszentmihalyi, M., Finding Flow, 1997

※5:SELF-EFFICACY BELIEFS, MOTIVATION, AND ACHIEVEMENT IN WRITING: A REVIEW OF THE LITERATURE

※6:パレオな男「健康になるために欠かせない「自己効力感」を判断する8つの質問

※7:パレオな男「自分の「自信」レベルを正確に判断するための10問

※8:Is general self-efficacy a universal construct? Psychometric findings from 25 countries.

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