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間違えることを前提とした対策 「エラーマネジメント理論(EMT)」

エラーマネジメント理論

エラーマネジメント理論(EMT: error-management theory)とは、

知覚および認知バイアスによって犯してしまうエラーを回避する理論

です。エラーマネジメント理論(EMT)は、David BussとMartie Haseltonによって作られた知覚と認知のバイアスに関する広範な理論である。人間が、ヒューリスティックやバイアスを使ってどのように考え、判断するかは、人間の脳に組み込まれている可能性があります。この理論を用いた関連分野として、エラーマネジメント研修があります。その目的は、研修生がエラーを起こすことを奨励し、そのエラーの原因を理解し、今後エラーを起こさないための適切な戦略を特定するための反省を促すことにあります。


エビングハウス・ティッチナーの円

エラーマネジメント理論の一例として、エビングハウス・ティッチナーの円があります。

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エビングハウス・ティッチナーの円

これは、中央のオレンジ色の円は、左右どちらも同じ大きさにもかかわらず、右側のほうが大きく見えてしまう円で(関連:コントラスト効果)、人の認知は、主観的であることを示す例です。わかっていても歪んで認知されるひとの構造を明示しています。

思考や意思決定における様々なバイアスは、ダニエル・カーネマンによって研究、紹介されており、心理学的および経済学的な意思決定において、人は認知的エラーを引き起こすことが示されています。エラーマネジメント理論における認知バイアスとは、進化の歴史の中で生き残ってきたバイアスやヒューリスティックのことで、それらは繁殖の成功に何らかのメリットをもたらすから形成されてきました。ダーウィンの原則に基づけば、他の人を「アウトメイト(out mate)」する人は、子孫を残すことに成功する確率が高くなります。この理論によると、不確実性のある状況下でのエラーのコストに差がある場合、選択は「適応バイアス」を優先します。

性的過大知覚バイアス

性的過大知覚バイアス(Sexual overperception bias)とは、

自分に対する他人の性的関心を過大評価する傾向

です。このバイアスは、主に男性に見られます。とくに自分を「男らしい」と思っている男性に強く現れます。

性的過小知覚バイアス

性的過小知覚バイアス(Sexual underperception bias)とは、

自分に対する他人の性的関心を過小評価する傾向

です。こちらは主に女性にみられるバイアスです。セクハラが起きる根底に、この性的知覚の性差があります。

これらの認知バイアスは、人の心を勝手に読む認知のエラー(読心バイアス)です。男性は、女性が微笑んだり触れたりすると、実際よりも大きな性的関心を持っていると錯覚する傾向があり、女性は、男性の関心がかなり強くても過小評価する傾向があります。


タイプエラー

意思決定の過程で、不確実性に直面したとき、人は、タイプIとタイプIIの2つのエラーを起こす可能性があります。

タイプIのエラーとは、効果がないのに効果があると思い込む偽陽性のこと。例えば、火災報知器が誤って鳴っていることがわかってなお、そのアラームに従って行動してしまうことなどが、このタイプⅠです。また、性的な関心がないにもかかわらず、誰かが性的な関心を推測した場合、偽陽性のエラーが発生します。

タイプIIエラーとは、効果があるのに見抜けない偽陰性のことです。猜疑心から火災報知器を無視してしまうことなど。性的関心について意図がないと誤って推測することは、タイプIIエラーに相当します。


閉経後の女性

妊娠可能な女性に関する証拠とは対照的に、閉経後の女性では懐疑的なコミットメント・バイアスは起こらない。Haselton and Buss (2000)[8]は、若い被験者を対象に知覚バイアスの証拠を発見したが、これは閉経後の高齢女性を代表するものではありませんでした。妊娠可能な女性は、保護の保証なしで妊娠することで発生するコストを避けるために、男性が関係に投資する意図を過小評価しますが、閉経後は、男性の意図を過小評価する理由がなくなるためだと推測されています。


主体の察知

主体の察知(Agent detection) とは

そこに意志あるものが存在しているという思い込み

です。たとえば、森の中でなにか音がしたとき、風によるものである可能性が高い場合に、それを危険な動物や敵が出した音だと感じることです。この勘違いは、上記のタイプⅠで、敵なのに敵ではないと判断するエラーはタイプⅡです。タイプⅠのエラーのほうが、生き延びる可能性が高くなり、その結果、人には、この主体の察知という認知バイアスが形成されました。これはアニミズム的誤謬に似ています。(「神様がお怒りだ」)

煙感知器はこの理論を考慮して設計されています。タイプIのエラー(誤検知、例:迷惑なアラーム)のコストは、タイプIIのエラー(誤検知、例:家を焼き尽くすほど火災に対して未検知)のコストよりもはるかに低いため、煙感知器の感度閾値はタイプIのエラーの側にエラーが発生するように設計されています。これが迷惑なアラームが比較的多い理由です。


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まとめ

性的な誤解を避けることを中心としたエラーマネジメント理論の紹介となりましたが、認知バイアス全般に対して考えうる対策全般がエラーマネジメント理論と言えます。エビングハウスの円やミュラー・リヤー錯視は、わかっていても、大きさや長さが異なってみえます。

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ミュラー・リヤー錯視

つまり認知バイアスは、錯視が示すように、その影響を免れないもの。免れないから、起きてしまうことを前提としてマネジメントしようというのがエラーマネジメント理論の主旨です。


対策・応用

認知バイアスを知るたびに(if-thenプランニングを使って)対策を思考回路にねじ込む

if-thenプランニングとは、「こうしたら、こうする」という条件付けです。わたしが使っている一例は「めんどくさいと感じたら、すぐやる」とか。

知識は、得ても実用可能なものに変形して、身につける必要があり、これが面倒です。その必要を説くぼんやりした理論が、このエラーマネジメント理論です。


関連した認知バイアスなど

•コントラスト効果(Contrast effect)
比較対象によって評価が変わる傾向

性的過大知覚バイアス・性的過小知覚バイアス(Sexual overperception bias / Sexual underperception bias)
自分に対する他人の性的関心を過大・過小評価する傾向

•主体の察知(Agent detection)
そこに意志あるものが存在しているという思い込み。


認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。


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参照

※1:Error management theory

#科学 #ビジネス #ビジネススキル #エグゼクティブ #経営者 #生産性 #オフィス #認知バイアス  


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