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危険な思想 「自尊心」

自尊心

自尊心(Self-esteem)とは、

自分に対する主観的な評価

自分に対する信念(例:「自分は愛されていない」や「自分は価値がある」など)や、勝利、絶望、誇り、恥などの感情状態が含まれます。スミスとマッキーU(Smith and Mackie)(2007) は、「自己概念とは、自分について考えることであり、自尊心とは、自分についてどのように感じるかという肯定的または否定的な評価である」と定義しています。

自尊心は、特定の属性に適用されることもあれば(例えば、「自分は良い作家だと信じ、そのことに幸せを感じている」)、全体的に適用されることもあります(例えば、「自分は悪い人間で、自分のことを全般的に悪く思っている」など)。

自尊心の測り方

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自尊心の程度を測定するために、もっとも広く使われている尺度は、ローゼンバーグの(Rosenberg)自尊心尺度(RSES)は、10項目の自尊心尺度であり、被験者に自分自身についての一連の記述に対する同意の度合いを示すことを求めるものです。もう一つの尺度であるCoopersmith Inventoryは、様々なトピックに関する50問の質問を用いて、被験者に誰かを自分と似ていると評価するか、似ていないと評価するかを尋ねます。


人生と自尊心

【こども時代】
初期のこどもの時代では、両親がこどもの自尊心に大きな影響を与えます。両親は、こどもの肯定的および否定的な経験の主な源となります。自尊心の高い小学生は、思いやりがあり、協力的で、子どもに明確な基準を示し、子どもが意思決定するときに意見を述べることを認める両親を持っている傾向があります。

これまでの研究では、温かく支持的な親のスタイルと自尊心の高いこどもとの相関関係しか報告されていません。これらのスタイルは、自尊心の発達に何らかの因果関係があると考えられます。 健全な自尊心をもつ人は、こども時代に、話を聞いてもらえること、敬意をもって話しかけてもらえること、適切な注意や愛情を受けられること、達成感を認めてもらえること、過ちや失敗を認めて受け入れてもらえることなどの経験を持っていますいっぽうで、低い自尊心の原因となる経験には、厳しく批判されたこと、身体的、性的、または感情的な虐待を受けたこと、無視されたこと、嘲笑されたこと、からかわれたこと、常に「完璧」であることを期待されたことなどがあります。

【学齢期】
学齢期では、成績が自尊心の発達に大きくかかわってきます。また学校での他の生徒との関係も大きな影響力を持っています。こどもたちは、学校で自分とクラスメートとの違いを理解し、認識してきます。成績や権力などの強さをつかって比較し、自身の自尊心を形成していきます。

【思春期から老年期】
思春期には自尊心の増加が見られ、若年成人期と中年期にも増加し続けます。中年期から老年期には減少が見られます。その減少度合いにはばらつきがあり、それは老年期の健康状態、認知能力、社会経済的地位の違いが影響しています。

【男女差】
自尊心の発達については、男性と女性のあいだに違いはみられませんでした。

高いレベルの成熟、低いリスクテイク、健康状態の良さは、高い自尊心につよく結びついています。性格的には、情緒的に安定している人、外向的な人、良心的な人は、高い自尊心をもちやすい。これらの予測因子は、自尊心が、性格や知能のように時間の経過に対して安定した性質を持っていることを示しています。 しかし、自尊心が変化しないというわけでありません。

羞恥心

恥は、自尊心の低さを抱える人々の一因となることがあります。恥の感情は通常、社会的に評価されたパフォーマンスが低いときに生まれます。パフォーマンスの低さは、社会的自尊心の低下と恥の増加につながります。この恥の増加は、自己慈愛(セルフ・コンパッション)によって改善できます。


低い自尊心

自尊心の低さは、遺伝的要因、身体的な外見や体重、精神衛生上の問題、社会経済的な状況、重大な感情的経験、社会的汚点(倒産など)、仲間からの圧力やいじめさまざまな要因によって生じる可能性があります。自尊心の低い人は、以下のような特徴を示すことがあります。

【自尊心が低い人の特徴】
•重い自己批判と不満
•批判者への憤りや攻撃されているように思える批判への過敏性
•慢性的な優柔不断とミスに対する誇張された恐怖
•喜ばせたいという過剰な気持ちと、謝罪してくる人に対しても不愉快な気持ちにさせたくない欲求がある
•完璧主義
•神経症的な罪悪感、過去の過ちを引きずり、その大きさを誇張する
•流動的な敵意、直接の原因のない苛立ちや概して見られる防衛心
•悲観主義
•妬み、悪意、または概して見られる恨み
•一時的な挫折を永続的で耐えられない状況とみなす

自尊心の低い人は、自分自身に批判的な傾向があります。自分の価値を評価するときに他者の承認や称賛に依存する人もいます。また、自尊心の低い人には、成功に関連して「自分の好ましさ」を評価するひともいます。成功すれば自分を受け入れますが、失敗すれば拒絶します。慢性的な自尊心の低さに苦しむ人は、精神病性障害を経験するリスクが高くあります。

自尊心の3つの状態

マーティン・ロス(Martin Ross)によって自尊心の3つの分類。

【粉々になっている状態】
自分を価値のあるもの、愛すべきものとは思っていない状態。敗北や恥に圧倒されたり、自分をそのように見なしたりして、自分の「不名誉」に名前をつけます。例えば、ある年齢以上であることが、不名誉であると考えた場合、自分を「私は年寄りだ」と言います。哀れみや自分を侮辱するなどの行動や感情を表し、悲しみのあまり、麻痺してしまうこともあります。

【傷つきやすい状態】
概ね肯定的な自己イメージを持っています。しかし差し迫った不名誉(敗北、恥ずかしさ、羞恥心、信用失墜など)のリスクに対しても弱く、その結果、しばしば神経質になり、定期的に防衛メカニズムを発動します。傷つきやすい自尊心を持つ人の典型的な防衛メカニズムは、意思決定を避ける行動であることがあります。このような人は、外見上は大きな自信を示しているかもしれないが,内面では自信がない状態である可能性があります。見かけ上の自信は、反感に対する強い恐怖と自尊心のもろさを示していますこの場合、自尊心を守るために、他人を非難しようとするかもしれない。また故意に負けようとすることで、勝ちたいという気持ちを外に向けて捨ててみせ、自分のイメージを守り、本当は社会に受け入れて欲しいのにそれを拒絶して、防衛しようとすることもあります

【強い状態】
強い自尊心を持つ人は、肯定的な自己イメージを持ち、不名誉な出来事が、そのひとの自尊心を損なうことがありません。彼らは、失敗に対する恐れが小さい。これらの人は謙虚で明るく見え、成功を自慢せず、反感を恐れないある種の強さを示しています。 彼らは、目標を達成するために全力で戦うことができますが、それは物事がうまくいかない場合でも、彼らの自尊心は損なわれないためです。自尊心が強い人は、自分の過ちを認めることができます。過ちを認めても、自尊心が損なわれれません。彼らは、社会的な威信を失うことをあまり恐れず、より多くの幸福と一般的な幸福とともに生きていけます。

どのタイプの自尊心も不滅ではなく、人生におけるある状況や境遇のために、このレベルから他の自尊心の状態に落ちることがあるります。


自尊心の重要性

アブラハム・マズローの考えでは、人の本質的な核が根本的に他人と自分に受け入れられ、愛され、尊重されていなければ、心理的な健康はあり得ないとしていまた。自尊心があれば、人はより自信を持って、慈悲深く、楽観的に人生に立ち向かうことができ、その結果、容易に目標に到達し、自己実現することができるというのがアブラハム・マズローの考えでした。

自尊心は、人々に自分は幸福に値すると確信させるかもしれません。肯定的な自尊心は、他人への敬意、博愛、善意という能力を高め、豊かな対人関係の形成を促進します。エーリッヒ・フロムによれば、自分を愛する態度は、他人を愛することのトレードオフではなく、自分を愛する人が、他者を愛することができます。また自尊心は、職場での創造性を可能にし、教職には特に重要な条件であると考えられています。

ホセ=ビセンテ・ボネットは、自尊心の欠如は、他者からの尊敬の喪失ではなく自己拒絶であると述べています。ボネットは、自尊心の欠如は、うつ病状態に相当すると主張しています。フロイトはまた、うつ病患者が「自己評価の異常な低下、壮大なスケールでの自我の貧困化....」と主張していました。

相関関係

【学業】
最近の研究では、生徒の自尊心を高めること自体は、成績に良い影響を与えないことがわかっています。ロイ・バウメイスター(Roy Baumeister)は、自尊心を高めること自体が、実際に成績を低下させる可能性があることを示しています。 自尊心と学業成績の関係は、高い自尊心が、高い学業成績に寄与することを意味するものではありません。単に、高い自尊心は、社会的相互作用や人生の出来事といった他の変数が影響して、高い学業成績の結果として達成される可能性があることを意味しています。つまり自尊心を高めることで成績が上がるのではなく、成績が良く、それが他の環境(対人関係など)に影響し、高い自尊心へとつながるということ。

【幸福感】
高い自尊心は、幸福感と高い相関関係がありますが、これが因果関係であるかどうかは確立されていません。

【寛容さ】
さらに、自尊心は親密な関係における許しと関係していることがわかっており、高い自尊心を持つ人々は低い自尊心を持つ人々よりもより寛容であることがわかっている[98]。

【悪い習慣】
高い自尊心は、子供の喫煙、飲酒、薬物摂取、早期のセックスを抑制する効果を持ちませんでした。一つだけ例外があり、高い自尊心は、女性の過食症の可能性の低さと相関関係がありました。

神経科学

2014年にRobert S. ChavezとTodd F. Heathertonが行った研究では、自尊心が前頭条痕回路(the frontostriatal circuit)の連結性に関係していることが明らかになりました。前頭条痕回路は、自己認識を扱う内側前頭前野と、やる気や報酬の感情を扱う腹側線条体をつなぐものです。解剖学的経路の強さは、長期的な自尊心の高さと相関し、機能的連結性の強さは短期的な自尊心の高さと相関しています

批判

アメリカの心理学者アルバート・エリス(Albert Ellis)は、自尊心の概念を本質的に自滅的で最終的には破壊的であると何度も批判しています。 人間の傾向や自我評価の傾向を生得的なものとして認めながらも、自尊心の哲学は、非現実的で非論理的であり、自己的にも社会的にも破壊的であり、しばしば善よりも害をなすものであると批判しています。一般化された自我の強さの基礎と有用性を疑問視して、彼は自尊心が恣意的な定義の前提と、過度に一般化された完璧主義的で壮大な思考に基づいていると主張しています。エリスによれば、自尊心に代わるより健康的な方法は、無条件の自己受容と無条件の他者受容です。 合理的動機づけ行動療法は、このアプローチに基づいた心理療法です。

「高い自尊心の利点は、2つだけ明確に証明されているようだ……。第一に、おそらく自信を与えるために、自発性を高めることができる。自尊心の高い人は、自分の信念に基づいて行動したり、自分の信じるもののために立ち上がったり、他人に近づいたり、新しい事業を危険にさらしたりすることを厭わない。(これは残念ながら、他の人が忠告していても、馬鹿げたことや破壊的なことをすることを特にいとわないことを含んでいます。)それはまた、人々が賢明なアドバイスを無視して、希望のない原因に時間とお金を頑なに浪費し続けることにもつながります」

誤った試み

自尊心の低い人は、どんなポジティブな刺激でも一時的に自尊心を高めます。したがって、所有物、セックス、成功、または身体的外観は、自尊心の発達をもたらすが、その発達はせいぜいはかないものである。 このような正の刺激によって自尊心を高めようとする試みは、「にわか景気または破滅」パターンを生み出す。褒め言葉やポジティブなフィードバックがあれば自尊心は「にわかに高まり」ますが、フィードバックがない場合は「破滅」します。このような場合、自尊心は、偶発的なものであり、「成功は特段甘美なものではないが、失敗はこの上なく苦いもの」となります。つまり、成功と失敗が自尊心に与える影響は、非対称なものであり、減る一方だということ。

自己愛としての自尊心

人生の満足度、幸福度、健康的な行動の実践、知覚された有効性、および学業の成功と適応は、高いレベルの自尊心を持つことと関連しています(※3)。 しかし、よくある間違いは、自分を愛することが、それすなわちナルシシズムであるという考えです。

健全な自尊心を持つ人は、自分の美点も欠点も認めた上で、無条件に自分を受け入れて愛し、しかも、状況にかかわらず、自分を愛し続けることができます。

一方でナルシストは、自分の価値に対する不確実性が、自我を守り、誇張のオーラを作り出しますナルシストとは、非常に高いが、不安定な自尊心を持つ人々です

対策・応用

これはわたしの考えですが、低い自尊心への対策は、

無条件に自分と他人を受け入れる

です。が、これはちょっと直接的には難しいんです。実はシニカルな話ですが、「観察モード」が意外な解決を導いてくれます。それは、「他人を観察するという態度」です。人はなぜ怒るのか、喜ぶのか、なぜそのような態度をとるのか、という観察の姿勢で他者と関わると、自動的に自分も観察の対象になります。そうすると自然と他者を受け入れる世界に変わっていきます。

なぜか。他者を拒絶するのは、自分という存在の定義が揺らぐからです。自分とはどういう人間なのか、ということを定めるには、他者との相対的な関係を材料にする必要があります。誰かより優れているか、劣っているか、で自分の位置を仮設定します。そしてそれは関わる他者や自分の成績によってゆらぎ続けます。

この比較することで自分の位置を定める、という世界から抜け出さないと、わたしたちは常に自分の存在の定義をし続ける必要に迫られます。これをやめるには、観察するだけです。

自我が世界から消え、残るのは、「好奇心」だけになります。ところでここで紹介した甘美なる「高い自尊心」という理想的な状態は、虚影です。そういう意味で、アルバート・エリスと同様に、自尊心という哲学の追求には批判的です。

よってオススメの対策は、

観察モードを手に入れる

です。

関連書籍

エリスのいう自分の無条件の受容にもつながるセルフコンパッションについて詳しい本です。しかしこれ、けっこう難しいんです。

意外な方面からのアプローチとしてとても有効だと思われるのが、ひろゆきさんの思想です。

倫理、常識をとっぱらって、結果的にどうしたら生きやすくなるかを説く思想なのですが、かなり実践しやすい。しかし常識を捨てる必要はでてきます。


関連した認知バイアスなど

•自己効力感(self-efficacy)
自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること

•インポスターシンドローム


認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。


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参照

※1:Self-esteem

※2:自尊心

※3:Self-Esteem: Assessing Measurement Equivalence in a Multiethnic Sample of Yout

#科学 #ビジネス #ビジネススキル #エグゼクティブ #経営者 #生産性 #オフィス #認知バイアス  


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