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「人を無意識に動かくテクニック」 ナッジ理論

ナッジ理論とは

ナッジ理論(Nudge theory)とは

ひとの行動をデフォルトオプションや社会的証明ヒューリスティックなどを使って導きたい結果に誘導して行動させ、個人や社会をより良くしようという理論

2017 年にノーベル経済学賞を受賞 したアメリカ合衆国、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授(Richard H. Thaler)によって提唱された理論。ナッジ(Nudge)というのは、「肘でつつく」という意味で、人々を強制的に動かすのではなく、自然に(無意識に)良い方向へ誘導し、行動変容を促すようにするという考えです。これは父親が子供の自由意志を尊重しつつ良い方向へ導く「リバタリアン・パターナリズム(Libertarian paternalism)」という考え方がベースになっています。

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リチャード・セイラー教授(Richard H. Thaler)。映画『マネー・ショート』にもセイラー教授はセレーナ・ゴメスと一緒に出演しています。
source: Chicago Booth 

セイラー教授の著書『実践 行動経済学』(原題は「Nudge」)で、ナッジ理論をこのように説明しています。

学校のカフェテリアで学生に健康的な食事を学生に摂ってもらうために、取りやすい位置にサラダなどの健康的な食品を置くなどして、食品の並べ方を変えます。すると食品の消費量を最大 25%増減することができました。したがって、それを工夫することで健康に良い食べ物の消費量を増やし、そうでない食べ 物の消費量を減らすことができるというのです。(これは「行動アーキテクチャ」とも呼ばれています。)行動を変更させるために、環境を設計するという考えです。)このようにして、学生たちに強制的に行動を変更させるのではなく、あたかも「自分で選んでいるかのような」感覚を与えたまま、行動を変えるやり方、考え方、これがナッジ理論です。

セイラー教授の著書『実践 行動経済学』


ナッジ理論の実例(1) 「臓器移植」

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日本では、日本臓器移植ネットワーク「臓器移植に関する世論調査 平成 29 年」によると自分が死んだ後に心臓や腎臓などの臓器提供をするという意志表示をしている人は12.7%です。2003 年にサイエンス誌に載った論文によると日本と同様に10%台のドイツやイギリスなどの国と99%を超えるフランス、オーストリアという国に二極化しているそうです。この差は、

臓器移植の意志の尋ね方

から生じているそうです。日本やドイツの場合は 「オプトイン方式」。オプトイン方式とは、「臓器提供する意志がある人はその意思表示をしてください」というもの。例えば、臓器提供の意志があるならチェックを入れてください、という尋ね方がオプトイン方式です。一方で、フランスやオーストリアは、「オプトアウト方式を採用しています。こちらは「臓器提供をしたくないならチェックを入れてください」という尋ね方です。わずかな、この尋ね方の違いが、臓器提供の意志の有無の大きな違いとなって現れています。

この場合、オプトアウト方式が「ナッジ理論」を活用したものと言えます。


ナッジ理論の実例(2) 「男子トイレのハエのイラスト」

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こちらの男子トイレの便器は、アムステルダムのスキポール空港にあるもの。便器にイエバエのイメージをプリントすることで、男子の小便が便器からはみ出すことを防ぐ工夫です。これも「ナッジ理論」の活用例です。日本のトイレでもハエのイラストではありませんが、標的のプリントをちらほらみかけます。

ナッジテクニックはヒューリスティックを利用している

ヒューリスティックとは、「ある程度正解に近い解を見つけ出すための経験則や発見方法」といわれています。人間や動物は「ざっくり正解かも」という選択を自動的にしてしまう傾向をもっています。これは生き抜くために形成されたものです。しかしときどき?エラーを起こします。これを「認知バイアス」と呼んでいます。

ナッジ・テクニックは、選択肢を作成している側に有利なように判断ヒューリスティックを使用したものです。

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エチオピアのメイサイリ学校で、生徒にトイレを使うように促すナッジテクニック
By Jan Nyssen - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=89469011


政府への応用

イギリスのキャメロン首相とアメリカのオバマ大統領は、それぞれの任期中にナッジ理論を自国の国内政策の目標を達成するために利用しようとしていました(※4)。 アメリカ合衆国では2008年に、理論の開発に貢献したキャス・サンスタイン(Cass Sunstein)を情報規制庁の長官に任命しています。 2010年にはイギリスの内閣府に心理学者のデビッド・ハルパーン(David Halpern)を長とする行動洞察チーム(ナッジ・ユニット)が設立されました。

ビジネスへの応用

ナッジ理論の企業への応用で特に先行しているのは、シリコンバレーのトップ企業です。これらの企業は、さまざまなかたちでナッジを活用し、従業員の生産性や幸福度を高めています。最近では、ホワイトカラーの生産性を向上させるために「ナッジ・マネジメント」と呼ばれる手法に関心を持つ企業が増えています(※5)。


ナッジの種類

(1)デフォルト・オプション
デフォルト・オプション(default option)とは、何もしなければ自動的に選択されるオプション。先の例でいう「オプトアウト方式」と同じ。例えば、Pichert & Katsikopoulos (2008)は、再生可能エネルギーをデフォルト・オプションとして提供した場合、より多くの消費者が電力の再生可能エネルギー・オプションを選択したことを明らかにしています(※2)。

(2)社会的証明ヒューリスティック
社会的証明ヒューリスティック(social-proof heuristic)とは、個人が自分の行動を導くために、他の人の行動を参考にする傾向です。社会的証明ヒューリスティックを利用して、より健康的な食品を選択するように個人を誘導することに成功した研究があります(※3)。


ファンドレイジングへの応用

ナッジ理論はファンドレイジングにも応用でき、寄付者からの寄付を増やしたり、同じ個人からの継続的な寄付を増やしたり、新しい寄付者に寄付をしてもらうのに役立ちます(※6)。

ナッジ理論をこの分野に適用する際には、いくつかの簡単な戦略があります。第一の戦略は、寄付を簡単にすることです。継続的な寄付のために自動的に登録したり、頻繁に寄付を促すような初期設定を行うことで、個人が寄付を継続することを促します

寄付者を増やすための2つ目の戦略は、寄付をより魅力的なものにすることです。これには、報酬、パーソナライズされたメッセージ、または個人の関心事に焦点を当てることによって、個人の寄付へのモチベーションを高めることが含まれています。①パーソナライズされたメッセージ、②ささやかなお礼の品、③自分の寄付が他の人に与える影響を示すことは、寄付を増やす上でより効果的であることが示されています。 寄付者を増やすのに役立つもう一つの戦略は、社会的影響力を利用することです。 

最後に、タイミングが重要です。多くの研究は、個人が寄付をする可能性が高い特定の時間帯があることを示しています(※7)

AIとアルゴリズムによるナッジ

2021年に発表されたハーバード・ビジネス・レビューの記事は、「Algorithmic Nudging」という言葉を作った最初の記事の一つです。著者は「企業はアルゴリズムを使って、個人を力ずくではなく、むしろ望ましい行動へとナッジすることで、つまり、パーソナライズされたデータから学習し、何らかの微妙な方法で選択を変えることで、管理やコントロールを行うようになってきている」と強調しています。

このコンセプトは、シカゴ大学の経済学者リチャード・セイラーとハーバード・ロースクールのキャス・サンスタイン教授の研究に基づいていますが、「近年のAIと機械学習の進歩により、アルゴリズムによるナッジングは、アルゴリズムを使わない場合よりもはるかに強力になっています。労働者の行動パターンに関する多くのデータが手元にあるため、企業は個人の意思決定や行動を大規模に変えるためのパーソナライズされた戦略を開発できるようになりました。これらのアルゴリズムはリアルタイムで調整できるため、このアプローチはさらに効果的です」。


応用

デフォルト・オプションが使いやすい


ファンドレイジングにみる応用を応用:①簡単にする ②魅力的にする ③社会的影響力を使う ④タイミングをあわせる


認知バイアス


認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。

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参照

※1: Nudge theory on Wikipedia

※2:Green defaults: Information presentation and pro-environmental behaviour (2008)

※3:The Hunger Games: Using hunger to promote healthy choices in self-control conflicts (2017)

※4:


※5:Nudge management: applying behavioural science to increase knowledge worker productivity (2017)

※6:Behavioural Insights Team. 2013 May 24. "Applying behavioural insights to charitable giving."

※7:Give more tomorrow: Two field experiments on altruism and intertemporal choice

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