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美しい本に出逢う。

美しい装丁の本は、
人の手に取られる運命にある。
手元に置いて本そのものを見て撫でて、
中身の文章を読んで味わう。
本まるごとを愛するのだ。
鞄に気兼ねなく入れて、
道行きのお供にしたくなることだろう。

灯光舎 本のともしび
寺田寅彦の《どんぐり》を読んだ。
亡き若き妻の思い出を語る随筆だ。
それはないよ寅彦さん、と思うような
亭主関白的な部分もあるけれど。
天真爛漫な妻のおこないひとつひとつが
可愛らしい。
植物園の温室で、
草を触った指先の匂いを嗅ぐ仕草。
どんぐりを沢山沢山、夢中で集めるお茶目さ。
それが失われてしまったと知っているからこそ、
その無邪気さに、胸打たれるのだった。
亡くなった人の思い出を語る文章は、
行間に透明な光が溢れている。
それがこちらの目を眩しく射るものだから、
切なくなるのだ。

《どんぐり》を読んだ中谷宇吉郎が
(雪は天から送られた手紙。と言った科学者。
初めて人工雪を作った人物)
解説しているのも興味深い。

ほかに収録されている
《コーヒー哲学序説》もいい。
どうしたって美味しい珈琲が飲みたくなる。
そうさせるのは、良い文章の証だと思う。



本の装丁は、
触れたことのない文章を手に取らせる魔法、
なのかもしれない。
表紙に惚れて買ってみた、
というのが理由でも
全くかまわないと思う。
見た目や手触りから入って読むことに繋がり、
それが心の内側を広げるのだから。
世界の深みと広さを教えてくれる本に
今日も、明日も、
出逢いたいものだ。


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