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小説

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自作の短編小説まとめです
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記事一覧

眠る男(2)

「どしたの、急に」
祐介は突然変なことを話されて狐につままれたような顔をしていた。晩飯時に恋人がいきなり子供の頃に変な男が見えたなどと言い出すのだ。当然怪訝に思うだろう。

「でもほんとに見えたのよね。3歳くらいの時に見えたとかならまだしも、14歳の時だったからさ。子供が見た幻と言うにはあまりにもはっきりしすぎてない?」

「まぁそうだけど、佳奈って中二病患ってきてそうだもん。自分の中で作り上げた

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眠る男  (1)

眠る男 (1)

人間追い詰められると変な夢を見るものだ。
特に試験前や面接前などはプレッシャーが重りのようにずし、と乗っかかってきてレム睡眠のオンパレード、すなわち悪夢の行進を受け入れるはめになる。
現に私は試験前で夜遅くまでの勉強を強いられており、寝不足も寝不足、しかも悪夢続きで目の下に隈を作ってしまった。忌々しい陽の光が起床を促す。鉛のごとき頭を持ち上げ、重力がここだけ2倍なのではないかと思われるベ

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静寂のサイエンス

「なんだよ、急に呼び出して」
夕方のサイエンス部の部室に2人、学校の中でも一二を争う暗さであるここはお互いの顔に影がかかりよく表情が読み取れない。


「いや、僕最近ずっと部室に籠ってただろう?ついに完成したんだよ、僕の夢が」

「何言ってんだお前。だいたいクラスにも顔出さねぇでせこせこ何作ってんだかと思ったら、夢だぁ?どぉせまた変な薬品でも作ったんだろ」


こいつは今までにも顧問の目を盗んで変

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夜中に書いたやつ

最近よく見るのは天井からぶら下がってる手だ。

特に私を呼んでるのはゾンビみたいな緑の手で、つい私はその手を掴んでしまいそうになって、でも頬に当たるぬいぐるみの柔らかさに引き留められていつもやめる。

今日はとてつもなく嫌なことを思い出してしまった。ふと部屋の中央に目をやると土管三本分くらいはあろうかという白い太い手がぶら下がっていた。というか刺さっていた。

私は彫刻のようなひんやりとしたその手

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予測変換(よみきり)

予測変換(よみきり)

最近友達が学校に来ない。

まぁ彼は前から学校を休みがちで、こういうのは別に特段珍しいことじゃない。
しかし、彼は「テストと必要単位だけ出席する」というスタンスを取っている。
だからこの期末テストの最後の日にまで来ないのは未曾有の事態だ。

うちの学校で期末テストを休むと面倒くさいことになるのは周知の事実で、後日テストを解いて提出することに加えてなんで当日休んだのかという理由も報告しなければ

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バックルーム行ってきた!

バックルーム行ってきた!

バックルーム─その存在が明るみに出てからしばらく経つ。

それを映した動画は瞬く間に拡散され、様々な人間の恐怖を煽った。1度入ってしまえば永遠に続く無機質な空間に閉じ込められる──。
そんな部屋の創作があるらしいよ、という話を学校で友人にしたところ、
「永遠って、一日が続いていくから永遠なんじゃん。一日の中に永遠を見いだせなけりゃ永遠なんてないのと一緒」と前置きした上で、
「だからその、なんだっけ

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深夜3時、ヴィレッジヴァンガード。[小説]

深夜3時、ヴィレッジヴァンガード。[小説]

「嘘でしょ…?ここのヴィレヴァンまで閉店…?」

ヴィレヴァン。小さい頃は洞窟のような店内に怖気付いていたけど、今ではすっかりあの狭さが身に馴染んでしまっている。
入っても何か買うことってぶっちゃけあんまりないんだけど、店主のこだわりを感じられる品揃え、見渡す限りの雑貨たち、力作のPOPとかを見てるだけでめちゃくちゃワクワクする。

そんなヴィレヴァンが最近閉店に閉店を重ねている。
ちくしょう、世

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