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バックルーム行ってきた!

The Backrooms (Found Footage) Kane Pixels
上記公式とは一切の関係はありません

バックルーム─その存在が明るみに出てからしばらく経つ。

それを映した動画は瞬く間に拡散され、様々な人間の恐怖を煽った。1度入ってしまえば永遠に続く無機質な空間に閉じ込められる──。
そんな部屋の創作があるらしいよ、という話を学校で友人にしたところ、
「永遠って、一日が続いていくから永遠なんじゃん。一日の中に永遠を見いだせなけりゃ永遠なんてないのと一緒」と前置きした上で、
「だからその、なんだっけ、マックルーム?マッシュルーム?に入ったなら永遠の存在に私たちの永遠を奪われるのかもね」
なんて言うので驚いてしまった。

「茉莉花、普段そんなこと考えながら生きてんの?やば」「あとバックルームな」
「やば、て。普段からその2文字だけで会話成立させてる方が奇妙なんだけど。やば〜い」

思わずデコピンをお見舞いしようとしてしまったが、茉莉花は次の瞬間ネットニュースの記事が映ったスマホをぐいっとこちらに向けてきた。


「○○市 ◯◯町のショッピングモールで行方不明者続出 ○月×日現在35名」

「うぇ、学校近くのあそこじゃん。マジで?」
「ここ、前から出る〜って噂あったよねー。
にしてもショッピングモールで行方不明者こんなに出るって、そんなことある?なんか関係してんじゃね?今言ってたそれと」
「まさか。そもそもこれ創作だし。ないない」
そもそもそんなものがあったら、しょっちゅう私たちはプリを撮りにそのショッピングモールに行くので、とっくに見つけているはずだ。
この間も茉莉花と撮りに行ったが、私が冷房の効かない建物内で死にそうな顔をしているのに対して謎に年中長袖の茉莉花は涼しそうな顔をしていた。
全く、思想だけじゃなくて身体まで人間離れしているとは、どういうことなんだあの子は。

  悶々としていると、朝のHRが始まる予鈴が鳴った。すると担任の佐々木先生が「みんな一旦席に着いてくれ」と駆け足で入ってきた。
「いつも佐々木ちゃん遅刻してくんのに。なんでだろ」と茉莉花が不思議そうに見ていた。
「みんなも聞いているかもしれないが、この高校近くのショッピングモールで行方不明者が続出している。今のところその建物内─の4階に立ち入った人物のみが行方不明となっているそうだが、
警察の方から周辺住民の方は安全のため家に居るように、との命令が出た。」
  教室がざわめく。私と茉莉花も顔を見合わせた。
「みんな静かに!これからみんなも家に帰ってもらうことになるが、警察の巡回も強化されているようだし、落ち着いて慌てず、できるだけ集団で帰ってくれ。くれぐれもそのショッピングモールには近づかないように」

まじか、あの噂本当だったんだ、などの困惑と
高揚が混じった声が聞こえてくる。
私は茉莉花に教えてもらった記事をもう1回スクロールしてみた。すると怪しいコメントがあることに気づいた。

<ばっくるーむす きょじゅうしゃぼしゅう^_−☆>
①へいかん30ぷんまえに
②4かいにくる
③66こめのひじょうぐちをあけてください。
これであなたもばっくるーむすのひとです。
ただしかきのこういをしたひとはここのひとではありませんので████てもらいます。
・ひきかえしたひと
・こちらのてつづきをきょひしたひと
・8こめのひじょうぐちをあけたひと
くわしくは██まで!


「ねぇ茉莉花、こんなコメントあったっけ?」
「確認しない方がいい。今すぐそれを閉じて。」
「え?」
「どした?怖かった?こんなの悪戯だよ、誰かが面白がって書いたんだよ、ネットじゃよくあることじゃん」
「閉じて」
「閉じ」
「閉」


どこここ?
え、さっきまで教室にいたはずだよね?
「おーい、え、茉莉花?あれ?」

「やっと目を覚ましたのね?もう、心配させないで」
「え、あ、佐野先生?え、あぁ何だびっくりした」

よく見てみれば保健室の先生、佐野先生が不安そうな顔でこちらを見ているだけだった。
「あなた、すごい汗かいていたし、時々うなされていたわ。大丈夫?今日はこんな事態だし、あんまり長くは居させてあげられないけど、ちょっと休んでいきなさいな」

「だめです先生。私行かなきゃ、あの建物の4階。行かなきゃ。」
何故か分からないが無性にそう思った。
行かなければならない。
「ちょっと何言ってるの?だいたいあそこは警察の方が封鎖してるわよ。ちょっと熱でおかしくなっちゃったのかしら。やっぱり休んでいかないとだめよ」
佐野先生が私をベッドに戻そうとする手を握って押し返そうとした。冷たくて、まるでプラスチックの模型のような手だった。
「先生じゃない。ねぇ、誰、なに」


瞬間、先生の体の輪郭が溶け始めた。
まるで人ならざるものが人間を無理やり組織しようとするような。

「いっしょにすもう」
その言葉だけを繰り返す「それ」からは本能で
逃げた方が良いとわかった。

熱が出ていることだけは本当らしく、廊下の床が
弾力を持って少し間違えば沈みこんでしまいそうに思えた。ちくしょう、完全に誘い込まれている。ここは、いつも私が生きている世界とは、もう。

茉莉花はちゃんと帰っただろうか。
息も絶え絶えに例の建物に着いた。
4階だけ電気がついたこのショッピングモールは
私にとってきっと出口となってくれるはずだ、
と謎の確信を抱いている。
なんで私がこんなことになっているのかは分からないが、出るならここからしかないってなんとなく分かる。相変わらず熱で溶けそうな感触になっている階段を登り、4階に着いた。

スマホで時計を確認する。21時30分─閉館30分前だ。
「66個目の非常口とか…ここそんな数の非常口ないだろ」
このフロアは元の世界でも特に寂れており、奥には何年も前のものであろうゲーム筐体がただ置かれていたり、
微妙にセンスの悪い低彩度の服が並ぶ店に暇そうな店員がいたりいなかったり、極めつけに非常口階段には「出る」とまで噂されていた。

恐る恐るその非常口の前に向かった。
「なんだこれ。貼り紙?」

「これをよんでいるあなた
ようこそばっくるーむのいりぐちへ
あなたはみごとにえらばれました
このかいだんをおりつづけ、66とかいてあるどあをあけてください。
なおごぞんじのとおりそれいがいのどあはあけないでください。
なお1かいさがるごとにじゅみょうはいちねんもらいます。あなたがもし66さいまでで死ぬばあい、でぐちはありません。出口はありません。」

要するに入らなきゃ死ぬし、入ったら入ったで出られないかもしれないってわけだ。
しかも出口がないとわかったところで引き返せもしない。
どうする。どうするどうする。
瞬間、誰かに背中を強く押された。
バコンという音がして非常口のドアが開く。
叩きつけられるようにして階段に出てしまった。
痛い。怖い。死ぬかもしれない。
無機質な蛍光灯の光が点滅している。
ひんやりとした床は身体を冷たくし死を誘うようだ。

しばらく震えが止まらなかった。この世界は恐ろしくしんとしていて、私以外の人間に会わなかった。それなのになんだ今の。
もういっそバックルームなんてものに入るくらいならここで飢えてしまうか。
それとも首を…
だんだんと酸素が薄くなってくるような感覚に襲われた。

「助けて!ねぇ、いるんでしょ?いるなら返事してよ」
茉莉花の声だ。全身が弛緩して、というか腰が抜けて上手く立てなかった。
「茉莉花なの?どこ!?ねぇ、聞こえてるの!?」
ドンドンドンドンドン。
何かくぐもった声とともにドアを叩く音が下から反響してくる。

息を吸って吐く。恐る恐る─階段を降りる。 ドアの音は段々と大きくなる。
このショッピングモールは地下なんてないのに、
一体この階段はどこまで続いているのだろう。
手すりを持つ手の脈が弱くなってきたころ、
ドンドンと叩かれて揺れているドアがあった。

「ここから出してお願い、本当に気がおかしくなりそうなの、ずっとずっとずっとずっと変わらない風景が続いてる。まるで私の人生みたいなの、
そっちはどう?どうなってる?幸せ?温かい?ご飯はある?お風呂はある?寝床はある?ナイフはない?カッターはない?叩く人はいない?殴る人はいない?蹴る人はいない?無理やり押し倒してくる人はいない?死は、ある?」

「茉莉花?」
「ねぇお願い出してよ、友達を見捨てるの?」
「──っだってここ…!」

8番。

「8番のドア…」
「そんなの関係ないよ、あーあ、結局私は友達にも捨てられるんだ。自分の命の方が大事なんだなー結局みんなそう。私のお母さんもそうやって私を捨てた。それから毎日毎日地獄みたいだった。あーあ、カッターもないし、ふざけんなよ」

心臓が異常に早くなって脂汗が出る。
どうするべきなんだ。ここを開けるべきなのか?
死ぬ覚悟で来たんだからもうためらう必要なんかない。でも開けたらどうなるんだ、私はどうなるんだ?

「だからここならって思って来たけど、いつかあいつが来るかもしれないって思うと気が気じゃない。そこの角からあいつが見てるんじゃないか、
寝てたらあいつが来るんじゃないかって、ずっと脳裏にこびりついて離れない。だから色んな方法を試したけど、意識が遠くなるとどこかほかの地点に飛ばされてるの。だからねえ、そっちで死を試させて。」

「…いいよ、分かった。じゃあ、せーので開けるから、せーので」

「せーの」



ドアノブに力を込める。あぁ、やっぱりな。




そこには茉莉花はいなくて、ただ底の見えない闇があるだけだった。
きっと茉莉花は先に来て66階まで降りたんだ。
そこはきっとバックルームがあった。
開けた瞬間にどうなったんだろう。

ともかく私の場合は違う。
闇の中なら落ちたってだんだん分からなくなるし、きっとすぐに66階の深さなんて通り越す。
「永遠」にたどり着ける。階段も降りなくていいんだから寿命も縮まない。
そのうち寝てしまうかもしれない。
闇が怖いなんて共通認識で絶望させようなんて思うなよ。私にとっての出口は元の世界になんてはなから繋がっていないんだから。

生も死も長袖も私にはいらない、ただ本当の永遠が欲しいだけ。

「せーので」







こんなふうに書いてみちゃったけど、読んでるかな。まずは茉莉花へ、ありがとう。
やっと決心がつきました。

多分これはシステム上茉莉花以外も読むよね。
どうしようかな、まあでもここまで読んじゃったなら手遅れだな。

いいや、このまま書くね。

あなたがバックルームという変な話をしてくれてからというもの、私はずっとその動画を見漁っていました。それなのにあなたは先に逝ってしまった。
それからずっとあなたがしてくれた永遠の話について考えていました。
一応私にとっての永遠を入れてみたつもりです。
まだまだ浅いけど。

ほんとうにありがとうございました。

それじゃあさようなら。
そこのあなたと手を繋いで、せーので。


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