静寂のサイエンス
「なんだよ、急に呼び出して」
夕方のサイエンス部の部室に2人、学校の中でも一二を争う暗さであるここはお互いの顔に影がかかりよく表情が読み取れない。
「いや、僕最近ずっと部室に籠ってただろう?ついに完成したんだよ、僕の夢が」
「何言ってんだお前。だいたいクラスにも顔出さねぇでせこせこ何作ってんだかと思ったら、夢だぁ?どぉせまた変な薬品でも作ったんだろ」
こいつは今までにも顧問の目を盗んで変な薬品を調合しては自分で試し、「失敗!」だの「成功!」だの言っていた。
はたから見たら何も変わっておらず、
成功と失敗の基準も分からないため、
他の部員からはいわゆる頭がおかしいヤツとして扱われていた。そんな感じなので、特段テンションが高くてうるさい時も他の部員は何食わぬ顔で各々の実験に励んでいた。まぁ、いわゆる浮いてるやつなのだろう。
俺はサイエンスが好きというよりはこの部活の「自分の好きな実験をしよう《それはサイエンスには限りません、宿題でもゲームでも『実験』ならばヨシ》」というゆるいコンセプトに惹かれて入った。そのためこいつのことは俺の創作活動に邪魔が入らない限りは別に気にしていなかった。
「いや、今回のは今までのとは違うのさ。僕の人生を変える夢…になるかもしれない」
急にスケールが大きくなったなぁと思いながら「そーですか」と流し、昨日の小説の続きを書こうとしたら突然原稿用紙にオレンジ色の液体がぶちまけられた。
「何すんだよ!!って、はぁ?」
その瞬間、俺の原稿用紙から文字が消えた。
「うん。やっぱり僕の予想通りだ。 表面上の文字に効くなら声にも効くだろうな。というわけでそろそろ効いてきたんじゃない?」
「どういうことだよ、テメ 」
「あはははは。やっぱり喋れなくなったね、君がゲームに夢中になってる間にちょっと盛らせて貰ったんだよ」
「 」
「そしてそれは僕にだけは聞こえるように調節してあるんだ…君の動揺、苦悶、怒りの声全て僕にだけは聞こえる。僕だけが君の理解者になれるんだ」
「 」
「うんうん、怖いよね、苦しいよね…わかって貰えない苦しさ、自分の意見を言いたいのに強制的に揉み消される辛さは痛いほどよくわかるんだよ。でも君は初めてだろう?君はいつだって自分の声を聞いて欲しい時に誰かに聞いて貰えただろう?僕は君が羨ましかった…」
「 」
「あぁでも!今日からは違う!君の紡ぐ物語だって僕だけが見れる、やっと君は僕だけのものになってくれたんだ」
「おっと、吐こうとしても無駄だよ。この薬はこのたった一つの解毒剤を飲まないと解けないようになってるのさ」
「────そして、その解毒剤は僕に対して君が今飲んだ薬と同じ効果をもたらす」
「 」
「 」
「 」
「 」
「君と僕だけの世界で生きよう」
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