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読む側の「JUNE(ジュネ)感覚」 ~"BL以前の何か"を考える~

一般にBL分野の嚆矢とされる「JUNE(ジュネ)」について、私的にとらえた「JUNE感覚」を深掘りします。(『美学としてのJUNE:ブックレビューとポエムのこころみ』収録。サンプルを兼ね、冒頭コラム1本を全文掲載します)


◆「JUNE(ジュネ)」の一般的なご説明

「BL」という言葉が生まれる以前、「男性同士の恋愛」をテーマとする創作同人誌ジャンルを指した言葉。1970年代創刊の雑誌『June(ジュネ)』(創刊時の誌名は『Jun』)に由来します。June誌はBL雑誌の元祖的存在ですが、初期は上記の切り口から敷衍したカルチャー系情報誌(映画・舞台、美術など)の側面も備えていました。



コラム「私的JUNE感覚」~「JUNEを語ろう」アンケートより~

現在の自分が考える「JUNE」は、「『June誌』が扱っていたものの延長」とは別に、その後自分のなかで我田引水して発展してしまったものの比重が高くなっています。(「JUNE」ジャンルのなかでもマイナーなほうかもしれません)

映画など見ていて「これはJUNEだ」と感じる時の「JUNE」は抽象的なのですが、おおざっぱに言うと「関係性にほんのりと漂う(しばしば上品な)色気」……という感じでしょうか。「エロス」より「色気」のほうがしっくりきます。でも「単独の人・ものが持つ色気」ではなく「関係性が持つ色気」だという気がします。「JUNE」として漂うものは男性同性愛のメタファーである比率が高いものの、恋愛でも人間同士でもないことさえあります。しかも「あからさまな媚態や欲情の描写を伴わない」、あるいは「間接的表現」のほうが、「JUNE度」(?)が上がる感じがします。(「秘すれば花」とはこういうことでしょうか?(笑))

「切なさ」「禁忌」などの感覚が共にあって、美しいものを見たときの「胸が苦しくなる感じ」とも似通っているので、「間接的表現」を多用する古典芸能などに同じものを感じることがよくあります。加えて、「秘められたもの」「深読みして感じ取るもの」「あからさまになったとたんに壊れてしまうもの」、という感覚もあります。この感覚はJune誌(いわゆる「大」のほう)の扱う範疇の一部ではあったと思うのですが、BLというものが生まれて「あからさま」の方向に舵を切ったとき、取りこぼされた部分かもしれません。(「ほら、こういうのが好きなんでしょ」と切り取ってお皿に乗せて出されると(すみません、自分にとっての「商業BL」のイメージはこんな感じです(^^;))食指が動かないというか……そういう天邪鬼な感覚なのです。

「こういうJUNE」のときめき(?)を最初に感じたのは、小学校のクラス文庫の棚にあった子供向け『雨月物語』の『菊花の約(きっかのちぎり)』でした。今見ると充分露骨なタイトルですが、当時は「菊」の含みなどもちろん知りませんし、子供向けに書かれたタイトルはたしか「菊の花のやくそく」で、内容は「命を助けてくれた青年との約束を守ろうとする誠実な男の話」にすぎませんでした。小学校低学年の自分には、裏に衆道的なものまでは想像できなかったと思いますが、正体不明の、得も言われぬ「心のふるえ」を感じたのを覚えています。

雨月物語には、稚児への執着を断ち切れない僧がテーマの『青頭巾』というお話もあります。「『June誌』が扱っていたもの」の延長という意味の「JUNE」で言えば、こちらのほうがずっと濃厚で王道だと感じます。でも今の自分が振り返ると、「これはJUNEだ」と自然に感じるのは、なぜか『菊花の約』のほうなのです。(どちらも死を扱っていますね。軽薄な言い方かもしれませんが、これも「JUNEと相性の良いテーマ」の一つなのだと思います)

『菊花の約』の「JUNE」は「読む側が深読みして読み取る」部分が大きく、いっぽう『青頭巾』の「JUNE」ははっきりと同性愛の欲情を扱ったものであり、それ以上の禁忌を伴う壮絶な物語です。この2作品を改めて思い浮かべてみると、自分のなかに棲み分けた「二つのJUNE」が具体的につかめる気がします。(同時に、現在は洋もの(?)に偏りがちな自分ですが、きっかけは和ものだったんだなあ、などとしみじみしたり……(笑))もちろんパックリと分かれるものでもなく、ブレンドやバリエーションが自分の中に限ってさえ無限に湧いてきます。

いずれにせよ「秘められたもの」、あるいは「秘められるべきもの」という要素は大きいので、同性愛が世の中で受け入れられてオープンになっていけば、BLとオーバーラップした部分の「JUNE」はだんだん時代錯誤なものになるかもしれません。でも「美しいものを見た時の胸の苦しさ」に似た「抽象的なJUNE」は、やがてはファインアートとの境界がなくなっていくような気がします。少なくとも、今の自分にはその境界がほぼなくて、「普通の美術」なり「普通の映画」なり「現実の状況」なりに対して、ごく当たり前の形容として「これってJUNEだわー❤」とよく思ったりします。(こういう「見立て」も、自分なりのJUNEの1つの側面です)よくある「ハイカルチャーをサブカルチャーのメガネで見るポーズの1つ」に過ぎないのかもしれませんが、自分の中では自然な尺度の一つになっています。(何より楽しい! ) リアルの日常圏ではこの言葉が通じないのがとても残念です。(笑)


『美学としてのJUNE~ブックレビューとポエムのこころみ~』目次


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