「綿毛と思い出」

 夕陽が照らす帰り道。仕事の疲れで今にも土へ還りそうな体を引きずっていた。

 前も向く気力もなく、ただ俯いていた。すると道の脇に何か生えているのが見えた。

 たんぽぽだ。そう言えば子どもの頃、故郷でよく吹いたものだ。

 あの頃はそんな事でも楽しめたものだ。僕はしゃがみ込んで、たんぽぽを一つ取った。

 そして吹いた瞬間、幼い頃の記憶が脳裏をよぎった。

 友人と野山を掛けた記憶。川で遊んだ記憶。
 たんぽぽを吹いた記憶。それらが次々と出て来た。

 夕陽に消えていく綿毛がとても儚げに見えて、涙が出て来た。

 もう戻る事出来ない日々。しかし、それでも思い出のかけらはすぐそばにあるのだと実感出来た。
 

 

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