理学療法士の考える患者の価値観
📖 文献情報 と 抄録和訳
理学療法士が考える患者の価値観と臨床実践におけるその位置づけ:質的研究
[背景・目的] 理学療法実践において、患者とセラピストは筋骨格系の健康問題や両者にとっての意味について意見を交換する。しかし、文献によると、理学療法士が臨床の場で患者の価値観について尋ねることは難しいようである。
●目的:本研究の目的は、理学療法士が患者の価値観についてどのような視点を持っているかを深く洞察することである。
[方法] デザイン探索的質的フォーカスグループ研究。23名の理学療法士が2021年3月から5月にかけてオランダでインタビューを受けた。2人の研究者がインタビューを分析し、関連するコードを導き出した。コードの比較、分析、概念化、議論の反復プロセスの後、テーマ別フレームワークを通してテーマが特定され、意味のある引用で説明された。
[結果] 3つの主要テーマが特定された:
(1) 暗黙的 Tacit
・インタビューでは、患者の価値観の概念を定義することの難しさが明らかになり、参加者は患者の価値観を考慮することは主に暗黙的で直感的なものであると結論づけた。
・どうやら、理学療法士は患者の価値観に対して自然に、あるいは自動的に行動しているようだ。参加者によれば、この出会いの部分に関する合理性や体系的な考察はほとんどないという。患者の価値観と向き合うことは、教えられることなく、何年もかけて、経験を通じて発展していく貴重なスキルであると考えられている。
(2) 人間的 Humane
・参加者は、患者の価値観はコンサルテーションにおける人間性と密接に関連する重要なものであり、臨床的推論や技術的能力、運動療法といったプロセス的側面とはあまり関係がないと考えている。
(3) 応答的 Responsive
・応答的であることは、インタビューの中で相互に関連するテーマであるようだ。
・参加者は、独自性と自律性の尊重を含め、献身的で責任ある治療とケアの実行の重要性を表明している。
・彼らは、公平で人道的なアプロ ーチや、慣例的、文化的、宗教的価値観などの 境界線に対処する責任を感じている。
(3)-1. 選択:時には、治療における選択や決断に緊張が生じる。
(3)-2. 境界:理学療法士が患者が考慮しないような(道徳的な)専門家としての境界線を指定した場合に、実質的または金銭的な理由で治療を終了する際に認識される障壁について。
(3)-3. 多様性:参加者は、一方では患者の独自性、価値観、健康問題の複雑さ、他方では専門的なガイドラインやプロトコールに関する障壁を経験している。
(3)-4. 信頼:参加者は、1)理学療法士の年齢や実務経験の少なさ、2)若手セラピストなどの立場によるもの、3)紹介者が紹介状や診察中に、どの治療を行うべきかをすでに決定している場合、などである。
[結論] 患者の価値観という概念は暗黙的なものであると思われる。専門家は、同じ人間として、個々の患者の価値観や期待に直感的に同調する。この研究は、暗黙知と明示知のバランスと相互強化の発見に貢献するものである。発見されたすべての経験と洞察により、理学療法における患者の価値観の概念がより明確になり、今後の教育と研究の枠組みが構築されるであろう。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
患者の価値観をどのように知っていますか?
そう問われたときに、どう答えるだろうか。
具体的だろうか、明確だろうか…。
今回の抄読研究によれば、どうやら不明確で、曖昧なもので…。
それはそう、感じとりに行くというより、自然と感じられてくるもののように示されていた。
さて、そこに対してどう考えるか。
ぼくは、「明確であれ!」と願う者だ。
なぜなら、不明確なら、曖昧なら、正解も不正解もなく、またこれが重要なことなのだが、教育・伝承され得ない。
宮本武蔵と伊藤一刀斎の話がある。
二人とも、個人として最強の剣人と言われる。
だが、この二人は決定的に違った。
何が?
宮本武蔵は伝承されず、伊藤一刀斎は伝承された。
なぜ?
宮本武蔵は、ただ個人として、職人的に強くなった。
それを真似しようとしたとき、それは「見て学べ」「説明はできないな」的なものだった。
他方、伊藤一刀斎は新境地を見出すたびに、あることをした。
それは、『一理を立てる』こと。
「あっ、今のよかった」となったときに、具体的に、どういう局面で、何を、どうしたら良いのか?ということを型として残した、ということ。
それがあってこそ、『正解』が存在しうる、『試験』が存在しうる、ひいては『教え』『伝承』が存在しうる。
だから、患者の価値観を知り、その鍵穴に応じた患者中心の医療を!、というならば、それをどう知って、どう対処するか、その領域に理を立てろ、と願う者である、僕は。
だけれども、そこは難しいよね、とも思う。
「では、あなたの価値観を聞いていきますね。当社では、あなたの価値観を知る、マニュアルというものがありまして、A→Zで質問することでスッキリはっきり、あなたを知ることができます。機械的ですがね、ははは。」
という理学療法士が良いか、と問われれば、そこは難しいということだ。
人間性というものと、統制というものが、実は水と油的なのかもしれない。
そこにも、曖昧さという霧がある。
まったくの霧がない世界が良いのかどうか、それは分からない。
だけれども、まあ、少しずつ晴らしたいものだとは思う。
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