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理学療法士の考える患者の価値観


📖 文献情報 と 抄録和訳

理学療法士が考える患者の価値観と臨床実践におけるその位置づけ:質的研究

📕Bastemeijer, Carla M., et al. "Physical therapists’ perspectives of patient values and their place in clinical practice: a qualitative study." Brazilian Journal of Physical Therapy (2023): 100552. https://doi.org/10.1016/j.bjpt.2023.100552
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🔑 Key points
🔹患者の価値観を考慮することは、暗黙的かつ直感的である。
🔹患者の価値観は、ケアにおける人間性と密接な関係がある。
🔹患者の価値観はケアにおける人間性と密接に結びついている。
🔹ガイドラインは患者の独自性(多様性)に関して対立しているようである。
🔹質の高いケアには、患者の価値観に関する体系的な考察が必要である。

[背景・目的] 理学療法実践において、患者とセラピストは筋骨格系の健康問題や両者にとっての意味について意見を交換する。しかし、文献によると、理学療法士が臨床の場で患者の価値観について尋ねることは難しいようである。
●目的:本研究の目的は、理学療法士が患者の価値観についてどのような視点を持っているかを深く洞察することである。

[方法] デザイン探索的質的フォーカスグループ研究。23名の理学療法士が2021年3月から5月にかけてオランダでインタビューを受けた。2人の研究者がインタビューを分析し、関連するコードを導き出した。コードの比較、分析、概念化、議論の反復プロセスの後、テーマ別フレームワークを通してテーマが特定され、意味のある引用で説明された。

[結果] 3つの主要テーマが特定された:
(1) 暗黙的 Tacit
・インタビューでは、患者の価値観の概念を定義することの難しさが明らかになり、参加者は患者の価値観を考慮することは主に暗黙的で直感的なものであると結論づけた。
・どうやら、理学療法士は患者の価値観に対して自然に、あるいは自動的に行動しているようだ。参加者によれば、この出会いの部分に関する合理性や体系的な考察はほとんどないという。患者の価値観と向き合うことは、教えられることなく、何年もかけて、経験を通じて発展していく貴重なスキルであると考えられている。

もちろん、運用化されたプロセスではないので曖昧なのですが......。
そうですね、具体的なものではなく、私たちは、主に無意識のうちに患者との関係の中で、それを確保しているのだと思います...。

(2) 人間的 Humane
・参加者は、患者の価値観はコンサルテーションにおける人間性と密接に関連する重要なものであり、臨床的推論や技術的能力、運動療法といったプロセス的側面とはあまり関係がないと考えている。

患者が実際に最も重要だと思うのは、あなたと患者の相互作用です。なぜなら、患者はあなたが親切で助けてくれると感じ、一緒にいて心地よいと感じるからです......
あなたが実際に(技術的に)上手かどうかは別として......
私は研修生に、患者はそんなことはわからないと言っています......。

(3) 応答的 Responsive
・応答的であることは、インタビューの中で相互に関連するテーマであるようだ。
・参加者は、独自性と自律性の尊重を含め、献身的で責任ある治療とケアの実行の重要性を表明している。
・彼らは、公平で人道的なアプロ ーチや、慣例的、文化的、宗教的価値観などの 境界線に対処する責任を感じている。

理学療法士と患者の相互作用は、両者の価値観によって左右される。両者は時に交差し,時には衝突さえする。
私にとっては両者に最良の結果を得るために、最終的に融合に似た何かがあると言える能力です。
つまり、私だけではなく、患者もまた意見を持つということです......。

(3)-1. 選択:時には、治療における選択や決断に緊張が生じる。
(3)-2. 境界:理学療法士が患者が考慮しないような(道徳的な)専門家としての境界線を指定した場合に、実質的または金銭的な理由で治療を終了する際に認識される障壁について。
(3)-3. 多様性:参加者は、一方では患者の独自性、価値観、健康問題の複雑さ、他方では専門的なガイドラインやプロトコールに関する障壁を経験している。
(3)-4. 信頼:参加者は、1)理学療法士の年齢や実務経験の少なさ、2)若手セラピストなどの立場によるもの、3)紹介者が紹介状や診察中に、どの治療を行うべきかをすでに決定している場合、などである。

[結論] 患者の価値観という概念は暗黙的なものであると思われる。専門家は、同じ人間として、個々の患者の価値観や期待に直感的に同調する。この研究は、暗黙知と明示知のバランスと相互強化の発見に貢献するものである。発見されたすべての経験と洞察により、理学療法における患者の価値観の概念がより明確になり、今後の教育と研究の枠組みが構築されるであろう。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

患者の価値観をどのように知っていますか?

そう問われたときに、どう答えるだろうか。
具体的だろうか、明確だろうか…。
今回の抄読研究によれば、どうやら不明確で、曖昧なもので…。
それはそう、感じとりに行くというより、自然と感じられてくるもののように示されていた。

さて、そこに対してどう考えるか。
ぼくは、「明確であれ!」と願う者だ。
なぜなら、不明確なら、曖昧なら、正解も不正解もなく、またこれが重要なことなのだが、教育・伝承され得ない。

宮本武蔵と伊藤一刀斎の話がある。
二人とも、個人として最強の剣人と言われる。
だが、この二人は決定的に違った。
何が?
宮本武蔵は伝承されず、伊藤一刀斎は伝承された。
なぜ?
宮本武蔵は、ただ個人として、職人的に強くなった。
それを真似しようとしたとき、それは「見て学べ」「説明はできないな」的なものだった。
他方、伊藤一刀斎は新境地を見出すたびに、あることをした。
それは、『一理を立てる』こと。
「あっ、今のよかった」となったときに、具体的に、どういう局面で、何を、どうしたら良いのか?ということを型として残した、ということ。
それがあってこそ、『正解』が存在しうる、『試験』が存在しうる、ひいては『教え』『伝承』が存在しうる。

だから、患者の価値観を知り、その鍵穴に応じた患者中心の医療を!、というならば、それをどう知って、どう対処するか、その領域に理を立てろ、と願う者である、僕は。
だけれども、そこは難しいよね、とも思う。
「では、あなたの価値観を聞いていきますね。当社では、あなたの価値観を知る、マニュアルというものがありまして、A→Zで質問することでスッキリはっきり、あなたを知ることができます。機械的ですがね、ははは。」
という理学療法士が良いか、と問われれば、そこは難しいということだ。
人間性というものと、統制というものが、実は水と油的なのかもしれない。
そこにも、曖昧さという霧がある。
まったくの霧がない世界が良いのかどうか、それは分からない。
だけれども、まあ、少しずつ晴らしたいものだとは思う。

武蔵は強い。
その強さは神にもっとも近づいた人間というべきだが、しかし武蔵の芸には重大な欠点がある。
なんだとおもう。
武蔵の芸が、後継者を生まなかったことだ。
この人は、生まれつき超凡の気魄があった。
その気魄を剣に注ぎ入れて独自の芸風をつくりあげたが、しかし後進にとっては、武蔵のような異骨を備えないかぎり、その芸に近づけない。
いかにかれの五輪書を読んでも武蔵にはなれない。
その点、武蔵と同時代の巨人であった伊藤一刀斎は全く別の剣客である
一境地をひらくごとに一理を樹てた
剣に、理を重んじた。
理があってこそ、万人が学ぶことができる。
だからこそかれの創始した一刀流は数百年後の今日におよんでもなお衰えぬどころか、大小50余流となって栄えている。
武芸だけでなく、世の芸のすべての行き着くところは、片や武蔵、片や一刀斎の2つの道があると思う。

~司馬遼太郎「竜馬がゆく(2)」P90~

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