見出し画像

運動性認知リスク症候群。前兆マーカとしての歩行速度

📖 文献情報 と 抄録和訳

加齢に伴う歩行と認知機能低下の相対的な軌跡

📕Jayakody, Oshadi, et al. "Relative Trajectories of Gait and Cognitive Decline in Aging." The Journals of Gerontology: Series A 77.6 (2022): 1230-1238. https://doi.org/10.1093/gerona/glab346
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

📗ミニレビュー:運動性認知症候群(motoric cognitive risk: MCR)
- MCR症候群は、認知症や運動障害がない場合に、歩行が遅く、主観的な認知障害が存在することを特徴としている(📕Verghese, 2014 >>> doi.)。
- 運動性認知リスク(MCR)症候群の人は、アルツハイマー病と血管性認知症の両方のリスクが高い(📕Verghese, 2013 >>> doi.)。
- MCRのリスクは、年齢とともに、運動不足と低学歴の関数として増加する(📕Doi, 2015 >>> doi. )。

[背景] 歩行と認知機能は加齢とともに低下し、認知症の発症を早める。しかし、加齢に伴う歩行と認知機能の低下の相対的な軌跡は、特に運動性認知リスク(motoric cognitive risk: MCR)症候群の患者においては、十分に理解されていない。本研究では、年齢およびMCRの機能として、単純歩行および複雑歩行のパフォーマンスと認知機能の変化を比較した。

[方法] LonGenity研究参加者1095名(平均年齢75.4±6.7歳)の歩行と認知機能を、最長12年間の年次追跡調査により検討した。参加者はアシュケナージ・ユダヤ系で、認知症がなく、歩行が可能であり、ベースライン時のMCR有病率は12.2%であった。歩行速度は、通常のペースでの歩行(単一タスク歩行、STW速度)および話しながらの歩行(WWT速度)で測定した。11項目の神経心理学的検査スコアを個別に、またグローバルな認知機能合成値として検討した。ベースラインの性別、教育、親の長寿、認知障害、グローバルヘルスを調整した線形混合効果モデルを用いて、年齢とMCRの関数として、歩行と認知の変化を推定した。

[結果] STW速度、WWT速度、および認知検査能力は年齢とともに非線形に(加速的に)低下した。STW速度はWWT速度および認知テストのスコアよりも速く低下した。MCRのある人は、図形のコピーと音素の流暢さにおいて、より速い減少率を示した。

画像1

✅ 図. 加齢に伴う単一課題歩行(STW-速度)および話しながら歩行(WWT-速度)時の歩行速度とグローバル認知力の低下(歩行と認知力低下の間の軌道を比較するために、予測は歩行速度とグローバル認知力の標準化測定値に基づいていることに注意。変数は標本全体の平均値を用いて標準化した)。

[結論] 加齢に伴い、歩行は認知よりも速い速度で低下するMCRの人は、視空間機能、遂行機能、言語機能において、より速い速度で低下する可能性がある。本研究は、加齢に伴う歩行と認知機能の低下の軌跡に関する重要な知見を追加し、MCRが認知機能低下を加速させる危険因子であることを明らかにした。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

“もののけ姫”をみたことがあるだろうか。
いきなり祟り神の登場から始まるあのオープニング。
獣たちの様子、静まり返る植物、ヤックルの耳の動き、そしてザワザワと葉が揺れた後・・・。
ドカーン!!!、と祟り神が出てくる。
そのスペクタクル、あの興奮❗️
物事には、しばしば『前兆』がある。

それは、人間に起こるネガティブなイベントも例外ではない。
たとえば、高齢者の死亡について見ると、死亡の10年前から歩行速度の減少がじわじわ始まり、死亡直前にADLや立ち上がりがガクッと落ちる。

画像2

今回抄読した研究は、高齢者の加齢において、認知機能より歩行速度の低下率が大きく、その歩行速度が低下した被験者は、認知機能低下リスクが高い、ということを明らかにした。
すなわち、歩行速度は「認知機能低下」の前兆マーカとしても有用と思われる。

ものごとには、移り変わりがある。
いきなりネガティブイベント「赤信号」に切り替わるのではなく、歩行速度の低下という、青信号の点滅や黄色信号にあたるグラデーション期間・前兆が存在する。
その前兆を感じとり、事前から動いておく、予防しておく、準備しておく。
つまり、前兆を知ると、やれることの時間軸が前倒しになって、やれることが増える。
予め知り、予め動く。
そのためのマーカとして、『歩行速度』は有力だ。

事予めすれば則ち立ち、
予めせざれば則ち廃す

久坂玄瑞

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

#最近の学び

181,438件