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反応性バランス訓練。セラピストはどう考えているか?

📖 文献情報 と 抄録和訳

リハビリテーションセラピストが考える反応性バランス訓練について

📕Jagroop, David, et al. "Rehabilitation clinicians’ perspectives of reactive balance training." Disability and Rehabilitation (2021): 1-7. https://doi.org/10.1080/09638288.2021.2004246
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✅ 前提知識:反応性バランス訓練とは?
・反応性バランス訓練(reactive balance training, RBT)は、バランスを失った後に転倒を防ぐために必要な反応のコントロールを改善する運動の一種で、脳卒中後の日常生活での転倒を防ぐ可能性を持つ運動
・反応性バランスとは、姿勢の不安定性から迅速な姿勢の修正筋反応、ステップまたは把握によって回復する能力であり、転倒を回避するための基本スキルである 。

📕Sibley et al. BMC health services research 18.1 (2018): 1-10. >>> doi.
📕望月久. 理学療法学 40.4 (2013): 322-325. >>> doi.

[背景・目的] 反応性バランストレーニング(RBT)は、反応性バランス制御を改善することを目的としている。しかし、RBTはクライエントのバランスを崩すため、クライエントによっては安全でない、あるいは実行不可能であると考えるかもしれない。我々は、臨床家がバランスとモビリティの問題を治療するために、どのようにRBTを実施しているかを調査することを目的とした。

[方法] カナダ国内の理学療法士と運動療法士で、RBTを実践していると回答した人を対象に、RBTの経験について電話インタビューを実施するよう依頼した。インタビューは逐語的に書き起こし、演繹的主題分析により分析した。

[結果] 10名の参加者が30~60分の電話インタビューに応じました。参加者は主に病院で働いており(入院患者リハビリテーション(n = 3)、外来患者リハビリテーション(n = 2)、神経症状を持つクライアントを治療していた(n = 5)。以下、4つの主要なテーマが確認された。

①RBTのアプローチにはばらつきがある
・参加者のRBTの定義 ほとんどの参加者は、RBTを「日常のバランスシナリオや特定のバランス障害を模した様々な反応に挑戦するために、内部または外部から実行される摂動を使用すること」と同様に定義している。
・しかしRBTは、摂動後にバランスを回復するための反応を練習するのではなく、自発的なステップの訓練、他の刺激(例えば、視覚)への反応、または外部摂動を経験したときにバランスを「維持」する訓練を含むと考える人もいた。

②知識はRBTの障壁にも促進にもなりうる
・ほとんどの参加者は、専門教育の中でRBTに関する正式なトレーニングを受けていない。
・そのため、参加者は、いつ、どのようにRBTを使えば最適なのか、必ずしもわかっていなかった。
・特に、RBTの処方方法、治療の中でRBTを行うタイミング、RBTが適切なクライエント、クライエントに最適なRBTの方法について、参加者は自信がないようだった。

③RBTは上級者向けと捉えている
・反応性バランスコントロールは、上級者向けのスキルとして捉えられることが多いようだった。
・そのため、多くの参加者は、RBTは低機能のクライアント(すなわち、運動機能および/または認知機能の低いクライアント)には適切でないと感じていた。
・このようなクライエントに対しては、座位や静かな立位バランスなどの機能の再トレーニングを優先し、クライエントの治療プログラムの終盤にRBTを実施する傾向があった。
・そのため、RBTを行うための「時間切れ」となることが多く、クライアントがRBTを行う準備が整う前に退院してしまうことが多かった。
・クライアントはより「高度な」バランストレーニングの準備が整う前に退院してしまうことが多かった。

④RBTの経験はクライアントとセラピストの双方に自信をもたらす
・参加者の中には、RBT、特に外的摂動を行うことに不安や恐怖を感じていたという人もいたが、練習を重ねることで自信と自己効力感が増し、より多くのクライアントと行うことができるようになった
・「一人一人、少しずつ自信を持てるようになったと思います。私は物事をよく理解していて、この人にどう挑戦するか、この人工的な環境でやっていることを彼らの日常生活に関連付けるか、もう少し創造的になれると思う。」(参加者A)

[結論] 本研究の結果は、RBTの臨床的実施をより現実的なものにするためのリソースの必要性を示唆している。リハビリテーションへの示唆治療者とクライアントの信頼関係は、反応性バランストレーニングを実施する際の自己効力感や不安感・恐怖感を改善する。ハイテク機器を必要とせず、臨床で容易に入手可能な機器を用いて創造的かつ即興的に反応性バランストレーニングを実施することが可能である。臨床家は、バランスコントロールの評価にBalance Evaluation Systems TestやPerformance Oriented Mobility Assessmentのような反応性バランスコントロールの要素を含む標準化されたツールの使用を検討する必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

常々、『安全と危険のパラドックス(Safe & Risk Paradox)』の存在を強く感じている。
危険なことを安全に学ぶことは難しい。
他人に殴られた痛みを知るには、他人に殴られることが必要であるように。
同様に、転倒しそうになった時のバランス回復の仕方は、一度安定性限界を超えてみないと学びにくい。
そこの部分を強調した練習が、今回抄読した研究のテーマでもある『反応性バランス訓練』である。

恥ずかしながら、僕自身のバランス練習の多くは、前提知識で図示したバランスレベルのLevel 1~2の間でほとんどが行われている。
Level 3(反応性バランス等)に踏み込むことは稀だ。
だが、よく考えれば、転倒の多くはLevel 3の世界で起きる。
安定性限界内で膝折れするような転倒より、
安定性限界を外れて前後左右に倒れる転倒の方がメジャーだろう。
そして、Level 3の世界で起きることは、Level 3の練習で学ばねばらなぬ。
その危険性の中で、危険に対処する能力を開発する。
だが、それを選択すれば、もちろん危険もある。
要は、「介入中の転倒リスクを高める」こととどう向き合うか。

そこは、セラピストとしてどのような信念をもつか、が羅針盤となるのだろう。
僕自身は、『安全と危険のパラドックス(Safe & Risk Paradox)』の中で、やはり一歩踏み出していくことがリハビリであり、リハビリとは挑戦的な要素を多分に含むものと信じている。
だから、今後は反応性バランス訓練も、もっと組み入れていきたい。
患者さんに、危険の中で、危険に対処する技術を身につけてもらいたい。
患者さんには思いっきり挑戦してもらい、真の危険が迫れば僕たちが引き止める、引き上げる。
危険や失敗の許容と絶対的な救済能力。
蜷川幸雄の言葉を思い出した。

もっと苦しめ、
泥水に顔をツッコんで、
もがいて、
苦しんで、
本当にどうしようもなくなったときに手を挙げろ
その手を俺が必ず引っ張ってやるから

蜷川幸雄

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