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投球動作における『ストライド長』の科学。過大なストライドは骨盤回旋を阻害する

📖 文献情報 と 抄録和訳

高校およびプロ野球投手におけるストライド幅が運動学的および動力学的に及ぼす影響

📕Manzi, Joseph E., et al. "The influence of stride width on kinematic and kinetics in high school and professional baseball pitchers: A propensity-matched biomechanical evaluation." Journal of science and medicine in sport (2022). https://doi.org/10.1016/j.jsams.2022.03.009
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[背景・目的] 高校およびプロの投手について、ストライド長によって区別される運動学的および運動学的パラメータを評価すること。

[方法] デザイン:記述的実験研究。方法高校生投手(HS:n=36)とプロ投手(PRO:n=172)が、3Dモーションキャプチャ(480Hz)を用いて8~12球の速球を投球した。投手は、年齢、身長、体重、球速を1:1の傾向スコアでマッチングさせ、「狭い」ストライド長と「広い」ストライド長に基づいて、運動学と運動学を独立t検定を用いて比較した。変数とストライド長の間の独立した関連は、線形回帰を使用して決定された。

[結果] フットコンタクト時、HS「広い」(n=18)はHS「狭い」(n=18)に比べ、踏み出し足の膝屈曲(41±9° vs 49±6°、p=0.007、d=-1.0)および骨盤回転(66±9° vs 57±14°、p=0.003 d=0.8)は有意に少なかったボールリリース時のPRO「広い」(n=86)は、PRO「狭い」(n=86)と比較して、骨盤の回転が有意に少なく(-10±10°対-15±14°、p=0.008、d=0.4)、肩の水平内転が増加(4±8°対-1±9°、p=0.003、d=0.5)していたストライド長が10cm増加するごとに、ボールリリース時の骨盤回転はHSで2°(B:0.10, β:0.20, p < 0.001)、PROで1.3°(B:0.08, β:0.13, p = 0.002)減少した。

[結論] HSとPROの投手は、ストライド長によって区別され、投球腕の運動量に有意差は認められなかった。両群とも、ストライド長の広さは骨盤回転の低下と関連しており、運動エネルギーの非効率的な利用に寄与している可能性がある。最終的に、コーチと選手は、パフォーマンスの向上と安全な投球動作のために、その他の運動学的な改良に力を注ぐことが望ましいと思われます。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

大きすぎるストライド長は、骨盤回旋角度を低下させる。
So What?(だから何?)。何が問題なのだろうか。
そこを理解するところから始めたい。
骨盤回旋は、投球動作運動連鎖において「要」であり、たとえば骨盤回旋タイミングが不良の投手は急速が遅いことが報告されている(仕組みの詳細な考察は下記note参照)。

また、Wightら(📕Wight, 2004 >>> doi.)はフットコンタクト時の骨盤回転が大きい高校生や大学生の投手において、投球腕の運動量が減少していることを報告している。すなわち、球速を維持しながら、骨盤の回転スタイルが良好であれば、運動エネルギーを維持できるため、投球肩はより少ない関節ストレスで動くことができる
以上のように投球動作において、骨盤回旋は「要」。
その骨盤回旋角度が乏しくなる ≒ 投球動作における運動エネルギーの非効率な利用、という図式だ。

さて、今回は「大きすぎるストライド長がなぜ骨盤回旋を減少させるか?」のメカニズムについて考えたい(本文中の考察には仕組みの考察はなされていない)。
①運び足に引かれる、②キャズムにはまり込む、という2つの仕組みがあると思った。

スライド2

①運び足に引かれる
・ストライド長が大きくなる
 →運び足(右投手の右下肢)の股関節内転筋の伸張を大きくする
 →右恥骨部が後方に引かれる
 →その後に起こるべき右骨盤回旋が阻害される
 →結果、骨盤回旋角度が小さくなる

スライド3

②キャズムにはまり込む
・キャズムとは「谷」のこと
・この場合の谷とは、左右下肢の接地位置の間を指す
・吉福のモデル(🌱 >>> note.)においては、踏み出し足接地時に左下肢に加わった力のすべては、左臼蓋部に加わる直線的な力に変換されるほどエネルギー効率が良いと考えられる
・一方、支持基底面から身体重心位置が外れることで起こる「支持基底面を軸にした回転」に力が分散された場合、得られる直線的なエネルギーは減衰する
・ストライド長が大きくなる
 →踏み出し足に対して相対的に重心位置が後方になる
 →支持基底面を軸にした後方への回転に力が分散する
 →左臼蓋部分に加わる直線的な力が減衰する
 →骨盤を回旋させる力の減衰を意味する
 →結果、骨盤回旋角度が小さくなる

スライド4

この文献を最初に見た時、「じゃ、ちょうどいいストライド長っていくつ?」と思った。
だが、この仕組みを考えると、適度なストライド長は①股関節内転筋の柔軟性、②その投手が有する投球方向への運動エネルギーの多寡に影響を受けることが推察される。
すなわち、適度なストライド長はオーダーメイドである可能性が高い。
1つの絶対的な答えを求めようとすることは、ときに怠惰だ。決して簡単ではないことを心に留めておかなくてはならない。
しっかり目の前の投手を見て、真理を知り、最良の一手を打てるようになりたい。

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