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足部内在筋強化の威力。大きい船の小さな舵

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における足部内在筋強化の機能的可動性への効果。システマティックレビュー

Futrell, Erin E., Dawn Roberts, and Eric Toole. "The effects of intrinsic foot muscle strengthening on functional mobility in older adults: A systematic review." Journal of the American Geriatrics Society 70.2 (2022): 531-540.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:足部内在筋とは?
- 足部内在筋は、足底4層と足部内在筋の中の解剖学的な方向で表示されている。
- 以下、図と照らし合わせて。
- (1)母趾外転筋、(2)短指屈筋、(3)短母指外転筋、(4)足底方形筋(屈筋腱への挿入に注意)、(5)虫様筋(長趾屈筋腱からの発生に注意)、(6)短小指屈筋、(7)母趾内転筋斜頭(a)と横頭(b)、(8)短母趾屈筋、(9)底側骨間筋、(10)背側骨間筋、(11)短指伸筋
📕 McKeon et al. British journal of sports medicine 49.5 (2015): 290-290. >>> doi.

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🔑 Key points
- 高齢者は、足部内在筋強化(IFMS)の介入により、感覚と固有知覚が改善されたことを報告した。
- IFMSは、転倒リスクの高い高齢者でも安全かつ自立的に実施できる。
- IFMSは、筋力、可動性、バランスの向上を介して転倒リスクを低下させる可能性がある。

[背景・目的] 足部固有筋の衰えや廃用により、足やつま先のアライメントや感覚入力の機能障害が生じ、高齢者における不安定性や転倒につながる可能性がある。この系統的レビューの目的は、65歳以上の成人における足部内在筋強化(IFMS)介入による機能的モビリティへの効果を報告することであった。

[方法] MEDLINE、CINAHL、SPORTDiscus、Rehab and Sports Medicine Source、Cochrane Database of Systematic Reviews、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを用いて2019年12月から2021年2月に検索を行い、システマティックレビューを実施した。その他の情報源は、参考文献のスキャンを利用して探した。適格な情報源は、歩行可能な65歳以上の成人(n=1674)で、機能的移動性の結果指標を使用し、IFMSを含む足関節の介入を分析したものであった。神経系、前庭系、認知系、切断系、術後系に関する文献は除外した。足部固有筋の関与が明記されていない研究は除外した。2名の著者が関連する研究を抽出し、Physiotherapy Evidence Database(PEDro)スケールを用いて評価した。

[結果] 合計 1420 件の論文について関連性のスクリーニングを行い、16 件を抽出した。参考文献のスキャンにより、さらに5つの文献を入手した。9編の論文がレビューの対象となった。PEDroスコアは3~7(10点満点)であり、エビデンスの質が「まあまあ」であることを示した。方法とデータの異質性により、統計的な比較はできなかった。論文から抽出されたテーマは、足部内在性強化の介入とパラメータの種類、転倒、バランス、機能的移動性に関するアウトカム、および機能的移動性に関する主観的な報告であった。

[結論] レビューされたエビデンスは、質の高いものであった。IFMSの介入は、筋力、バランス、可動性の改善に寄与し、おそらく転倒リスクを減少させた。歩行への効果はほとんどなかった。主観的な報告によると、可動性改善のメカニズムとして、固有感覚と知覚の向上が考えられる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

言わずと知れた3つのバランス戦略がある、①足関節戦略、②股関節戦略、③ステップ戦略だ。
その中で、今回の論文が着眼した足部・足指が深く関わる①足関節戦略の役割とは、何だろう。
一言で言えば、「大きな船の小さな舵」だと思っている。
以下の図をご覧いただきたい。

スライド2

足関節戦略は、支持基底面内における質量中心(center of mass: COM)の微細な変動に対応する。
その働きは、絶対的な力の大きさとしては小さい。
だが、大きな船(身体)全体のその後の方向性を規定する。

COMのズレはじめに軌道修正することが重要で、安定性限界ギリギリの局面にあっては、COMを中心に戻すことには非常に大きな力が必要となる。
小さな力、と馬鹿にはできない。
転びはじめに助けることはたやすく、
小さいうちに雑草を抜くことはたやすく、
問題を発見したときに解決することはたやすい。
それをやっているのが、足関節戦略だ。

では、足部内在筋は、何をやっている?
比喩が多くなるが、一言でいえば、「上司と部下の間でうまくやる中間管理職」
この場合、上司は身体で、部下は地球(外環境)だ。
たとえば、COMが前方に偏位していたとして、足関節がCOMを後方に戻すために足関節底屈筋力を発揮したとしよう。
このとき、母趾側(内側)に石があったとしたら、どうだろう。
一様の底屈出力が内側でも外側でも地面に発揮されたら、内側からの反力だけ強くなって、外側に不安定になりやすいことが危惧される。
だから、「上司のCOMを後方に戻せ」という指示と、「部下からの内側に石があります」という情報を統合して、「よし、じゃあ母趾側の足底筋を緩めて斜面においてもうまくやれるようにしよう」と足部内在筋が中間管理職的な役割を果たすのだ。
・横に曲がるなら、ショートフットの横径を小さくするように緩めたり、
・ダッシュするなら最大剛力を発揮するように固めたり、
・砂利のような路面なら表面積を広めるように足指末端まで踏ん張ったり・・・
その献身的な働きぶりには、頭が下がる。
実際、足部内在筋が提供する体性感覚入力は、バランスに貢献し、足部固有筋を鍛えることで、疲労に対する抵抗力が増し、足部固有筋の感覚受容器が足の位置を感知することができる、ことが報告されている(📕 McKeon, 2015 >>> doi.)。

僕も、なんだかんだ、中間管理職に近いポジションにいる。
上司のコンセプトを現実化すること、
現場の葛藤や障壁を解決すること、
中枢司令と感覚入力を統合し、最良の次の一手を!・・・、難題の連続。
足底筋から、そのコツを学ぶとしよう・・・。

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