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ながら作業の科学。聴くことは聴くことの邪魔をする

📖 文献情報 と 抄録和訳

N1mと心理物理反応に見られる、騒音刺激と音楽刺激との異なる対音効果

Shirakura, Masayuki, et al. "Different contra-sound effects between noise and music stimuli seen in N1m and psychophysical responses." Plos one 16.12 (2021): e0261637.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- 左耳に提示されるテスト音に選択的注意を向けテスト音が聞こえたらボタンを押すという単純タスク中に、右耳に提示される BGM(back ground music)の注意妨害効果を検討した。
- 低音量の音楽でも、テスト音への反応に対する著明なマイナス効果を観察した。
- 音楽やラジオを聴きながらのながら作業では、低レベルの音量でも作業への注意レベルが低下する可能性に注意が必要。

[背景・目的] 聴覚誘発反応は、反対側の耳に提示される音によって影響を受けることがある。騒音刺激と音楽刺激が聴覚誘発野のN1m反応と心理物理反応に及ぼす異なる対音効果を、それぞれ12名と15名の被験者を対象に検討した。

[方法] 脳磁図研究では、N1m反応を誘発する刺激として、周波数250 Hz、持続時間500 msのトーンバーストを70 dBのレベルで提示し、対側雑音として2000 Hzのハイパスフィルターでフィルタリングしたホワイトノイズと2000 Hzのハイパスフィルターでフィルタリングした音楽刺激を使用した。対側刺激(騒音または音楽)は80 dBから30 dBまで10 dBステップで提示された。被験者は左耳に注意を集中し、左耳に提示されるバースト刺激を聞くたびに応答ボタンを押すよう指示された。心理物理学的研究では、脳磁図研究で用いたのと同じコントラノイズとコントラミュージックについて、70 dBのレベルで提示した250 Hzトーンバーストのプローブ音の検出応答時間に対する対側音提示の効果を検討した。

[結果] その結果、心理物理学的閾値に近い低レベルの対照音楽であっても、対照音楽刺激によるN1mの振幅減少および潜時遅延は、両半球で対照騒音刺激によるそれよりも有意に大きいことがわかった。さらに、この大きな抑制効果は、心理物理的にも観察された。すなわち、プローブ音を検出するための応答時間の変化は、対側音楽刺激を加えた方が対側雑音刺激を加えた場合よりも有意に長くなったのである。

[結論] コントラミュージックとコントラノイズの効果の違いについては、顕著性の程度の違いがプローブ音への聴覚的注意を妨げる能力の違いに関係していると考えられるが、この仮説を確認するためにはさらなる研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この結果を、どう思うだろうか。
とあるサイトに、以下のような記載があった。

手術室で音楽をかけると術者のパフォーマンスが向上したとの報告(📕Nees, 2021 >>> doi.)がある一方、東北大学大学院医工学研究科聴覚再建医工学分野教授の川瀬哲明氏らは、日常生活において音楽やラジオを聴きながらの"ながら作業"は、低音量であっても作業に対する注意レベルが低下する可能性があると、PLoS Oneに報告した。

これは、誤解を生むと思った。
これまでの先行報告と拮抗しているわけではない。
おそらく、ながら作業は「使用される感覚モダリティの非重複」が必要になる。
どういうことか。
たとえば、手術中の音楽の例で言えば、手術で用いられる感覚モダリティは、主に「視覚 + 触覚」であり、音楽は「聴覚」だ。
一方、今回の研究では、「聴覚」を用いた課題に「聴覚」刺激である音楽をあてている。
このように、使用される感覚モダリティが異なっている場合には「相乗効果」が、同一の感覚モダリティを用いるほど「干渉」が発生しやすいのではないだろうか。
だから、以上の記事の結論を書き換えるとするならば、「ともに聴覚を用いたながら作業の場合、低音量であっても作業に対する注意レベルが低下する可能性がある」にした方がいい。

使用される感覚モダリティの多様化。
両雄並び立つ、ただし、使用モダリティが似ていない場合は。
ながら作業は、事前によくデザインされたものを用いるべきかもしれない。
まあ、心地良さという直感が、大体の正答を教えてくれるだろうけど・・・。

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