見出し画像

コンピュータ化された臨床意思決定支援システム。いま、どのくらい使用されている?

📖 文献情報 と 抄録和訳

医療従事者はコンピュータ化された臨床判断支援システムを使用しているか?臨床意思決定支援システムの導入に関するシステマティックレビューとメタ回帰分析

Kouri, Andrew, et al. "Do providers use computerized clinical decision support systems? A systematic review and meta-regression of clinical decision support uptake." Implementation Science 17.1 (2022): 1-11.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:コンピュータ化された臨床判断支援システムとは?
- コンピュータ化された臨床判断支援システム(Computerized clinical decision support systems: CDSS)は、臨床医に患者固有の推奨事項を伝達し、ケアの改善を促す情報技術システムである(📕 Heselmans, 2020 >>> doi.)。
- これらのシステムは、医療機関の電子カルテに統合されたり、インターネットを通じてアクセスされたり、モバイル機器を通じて配信されたりすることがあり、臨床予測ルールの提供、ガイドラインに基づいた管理の強調、薬剤発注と文書の最適化、潜在的に有害な行為の抑止など様々な機能を備えている(📕 Kwan, 2020 >>> doi.)。

[背景・目的] コンピュータ化された臨床判断支援システム(CDSS)は、有望な知識変換ツールであるが、しばしばその対象となるアウトカムに意味のある影響を与えることができない。CDSSプロバイダーの利用率が低いことがこの問題の潜在的な原因であるが、体系的に研究されていない。このシステマティックレビューとメタ回帰分析の目的は、報告されたCDSSの利用状況を確認し、どのCDSSの特徴が利用状況に影響を及ぼす可能性があるかを明らかにすることであった。

[方法] Medline, Embase, CINAHL, Cochrane Database of Controlled Trialsを2000年1月から2020年8月まで検索した。あらゆる患者集団や環境におけるCDSSの取り込みを報告した無作為化試験、非無作為化試験、準実験的試験を対象とした。抽出された主要アウトカムは、生の割合として報告され、CDSSが使用された回数またはアクセスされた回数が、対話可能な総回数を上回ることを表すCDSS利用率であった。また、各CDSSについて、利用率に影響を与える可能性のあるコンテキスト、コンテンツ、システム、および実装の特徴を抽出した。ランダム効果メタ解析により全体的な重み付けをした利用率を算出し、多変量メタ回帰により利用率の決定要因を調査した。

[結果] 7995件の引用をスクリーニングした結果、373,608人の患者と3607人の医療従事者を対象とした55件の研究が完全な組み入れ基準を満たした。メタ解析の結果、CDSSの全体的な取り込みは34.2%(95%CI 23.2~47.1%)であった。取り込みが報告されたのは、取り込み基準を満たした研究の12.4%のみであった。多変量メタ回帰分析により、以下の要因が取り込みと有意に関連していることが明らかになった。(1) CDSSのアドバイスに必要な患者データの利用可能性と質を正式に評価すること (2) CDSSが目標とする行動変化に対するその他の障壁を特定し、それに対処すること。

[結論] CDSSの試験において、システムの利用が報告されることはほとんどなかった。報告された場合、取り込みは低いものであった。これは、CDSSの効果全体に対する主要かつ修正可能な障害となる可能性がある。我々は、CDSSの文脈と実施戦略に関する特徴が、最もよく取り込みを予測することを発見した。今後の研究では、CDSSの実施戦略の一部としてこれらの特徴に取り組むことの影響を測定する必要がある。また、CDSSの介入効果を報告する今後の研究では、取り込みの報告が標準となる必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「この疾患のリハ実施上の注意点は、〇〇です」
「この患者は、高齢で心疾患の既往があります。運動負荷は〇〇が適切です」
「この患者は、最終的なライフゴールとして山登りを目指しています。そのため、今のうちから〇〇をしておいてください」

臨床思考過程における、カーナビのようなものだろう。
EBM、EBPTが目指す頂きの1つかもしれない。
まず、その良さ。
圧倒的に、標準化され、臨床レベルの底上げが図られる。
個人間の差の少ない、良い治療ができるわけだ。
そして、考えることのコストが割かれない。臨床がもっと楽になるから、医療事故なども起こりにくくなるかもしれない。
その他、たくさんの良さの可能性をもっている。

じゃあ、弊害は何か?
大きいところとして、ララバイエフェクトがある。
たとえば自動車の事故防止装置が進歩すると、それが子守歌のように運転者を安心させてまどろみをもたらす。
結果、かえって危険が大きくなるような場合を指して「ララバイエフェクト」。
また、上記良さにもあがる点だが、人が考えなくなる
すると、システムの言うことを盲信してしまい、そのシステムがエラーを起こしていた場合、大変なことになる可能性がある。
あと、すでに熟知していることに関して、CDSSの支援をうるさく感じると思う。
カーナビだって、近所では使わない、僕のが詳しいから。

使いどころをはっきりさせておいた方が良さそうだ。
今のところ、未知の疾患や、かなり遠大なゴールへの道筋に関しては役立ちそうな気がする。
それは、カーナビの使い所と似てくるところが面白い。
カーナビの歴史や適応やリスクを学んでおく、というのは意義があるかもしれない。

道徳的な側面に切り込む。
このシステムは、徹底的に人間に楽をさせてくれると思う。
でも、僕たちは、臨床で出くわす分からないことのいちいちに、悩まされ、勉強し、患者と口論し、試し、一筋の光を見出し、患者と一緒に成長する。
その過程の中で、ゴシゴシと、人間性も磨かれてきた。
そうだろう?
だったら、このシステムにおいて、人間性や成長といった項目は、どこで磨かれるのだろう。
その未知や労苦や感動すら、プログラミングできると?
だったら、人生は1日で終わり、みんなが同じになるだろう。
それって、死ではないか?
これ自動化の話ではなくて、僕たちがどう生きるか?、の話だ。
僕は、はじめは、自分の周り以外真っ暗なドラクエのマップを望む。
いきなり、全部分かりきった世界から始まるゲーム。
そこで、何をやるというのだろう・・・。
過度な自動化に対して、個人的には最大ボリュームで警告を鳴らしたい。

教科書というものは、人間が作るもので、ところがいったんこれが採用されれば1つの権威となり、そのあとの代々の教官はこれに準拠してそれを踏襲するだけになります。
いま教科書がないために教官たちは頭脳のかぎりをつくして教えているわけであります。
すなわち教官の能力如何が学生に影響するために、勢い教官は懸命に研究せねばならぬということになり、このため学生も大いに啓発されてゆくというかたちをとっております。
まして戦術の分野にあっては教科書は不要であります、どころか、そのために弊害も多いと思います。

坂の上の雲(8) P.327 井口省吾

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

#最近の学び

181,718件

#仕事について話そう

110,344件