見出し画像

膝OA者の筋トレは、膝周囲組織の異化を防ぐ

📖 文献情報 と 抄録和訳

レジスタンストレーニングは変形性関節症モデルラットの大腿四頭筋腱におけるマトリックスメタロプロテアーゼ-2活性を低下させる

Vasilceac, Fernando Augusto, et al. "Resistance training decreases matrix metalloproteinase-2 activity in quadriceps tendon in a rat model of osteoarthritis." Brazilian Journal of Physical Therapy 25.2 (2021): 147-155.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:MMP-2(matrix metalloproteinase-2)とは?
- これまでの研究で、MMP-2(ゼラチナーゼA)がOAの発生と進行に関与する主要な酵素の一つであることが明らかになっている。
- MMP-2活性は変形性関節症の軟骨および関節周囲組織で亢進しており、このタイプのMMPがOA病因に関連した生物学的標的であることが示唆されている。
😊 MMP活性化 → 異化傾向、MMP不活性化 → 異化が抑制(同化)傾向と考えてよいだろう
📕 Meszaros et al. Therapeutic Advances in Chronic Disease 3.5 (2012): 219-229. >>> doi.
🔑 Key points
- 変形性関節症は、大腿四頭筋と膝蓋腱において、MMP-2に対して異なる調節を促進する。
- 変形性関節症におけるレジスタンストレーニングに対する関節周囲組織の適応が見られる。
- 大腿四頭筋腱では、レジスタンストレーニングによりMMP-2が低下するが、膝蓋腱では、その効果は限定的である。
- 細胞外マトリックスの変性を理解することは、変形性関節症のリハビリテーションを目的とする上で極めて重要である。

[概要] 背景変形性関節症(OA)は、関節周囲組織の分解を誘発する変性疾患である。変形性関節症では、細胞外マトリックス成分の合成と分解のバランスが崩れ、異化が促進され、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などの分解酵素が関与する病的なリモデリングが起こる。本研究では、OAモデルにおいて、8週間のレジスタンストレーニングが大腿四頭筋腱および膝蓋腱のMMP-2活性に及ぼす影響を検討することを目的とした。

[方法] 24匹のWistarラットを無作為に6群に分けた。24匹のWistarラットを無作為に6群に分けた:Control、Exercise、Sham、Sham with Exercise、OA、OA with Exercise (OAE)。OAモデルは、左膝の前十字靭帯切断手術によって行われた。8週間のRTは、動物の尾に固定した漸進的な重りを用いて、1.1mの垂直はしごを週3回登るというものであった。MMP-2活性は、ザイモグラフィーで解析した。

[結果] OAE群はOA群と比較して、大腿四頭筋腱のPro、Intermediate、ActiveのMMP-2活性が低かった(p<0.05)。膝蓋腱では、OAE群は他の群と比較してpro、intermediate、active MMP-2活性に有意差を認めなかった(p>0.05)。さらに、MMP-2活性は組織間で差があり、OA群とOAE群は膝蓋腱に比べ、大腿四頭筋腱でpro、intermediate、active MMP-2活性が低いことが示された。

[結論] RTは大腿四頭筋腱のMMP-2活性をダウンレギュレートした。RTは、細胞外マトリックスの変性による悪影響を最小限に抑えるための治療アプローチとなる可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、以下の画像をみていただきたい。

スクリーンショット_2022-03-25_6_52_19

Brazilian Journal of Physical Therapyをタイトル読みしていって、興味があった雑誌をさらにクリックし、深掘りしてまとめていく。
さて、このタイトル『Resistance training decreases matrix metalloproteinase-2 activity in quadriceps tendon in a rat model of osteoarthritis』は、あなたの興味を惹くだろうか?
はっきりいって、はじめ、ぼくのアンテナはほぼ反応しなかった。
なぜなら、『matrix metalloproteinase-2 activity』という単語の意味が、全くわからなかったから。
だが、偶然にもこの前日、僕はチャリティの原則を知った。

✅ チャリティの原則とは?
好意的解釈を念頭に置こうというもので、
・相手が正しい事を言っているものとして話を聞く
・相手が不条理な事を述べていたら、まずは自分の解釈の方を変える
といった考え方のこと
🌍 参考サイト >>> site.

要は、「何か知らないこと・分からないこと・不合理と思ったことを、相手のせいにして終わるのではなく、自分自身に疑いの目を向けたり、自分自身を変えたりしようよ」、という考え方と転用解釈している。
僕たちは、自分が知らないもの → 面白くないものと即断しやすい。
だが、そもそもの前提に立ち返りたい。
勉強とは、知らないものを知り、自分を拡大していく営みではないか?
だとすれば、自分が知らないものこそ、面白そうなものとして、ダイブして、勉強して、血肉にしていくべきではないか。
少なくも、最新の論文を抄読するうえで、『チャリティの原則』は必須だ。
なぜなら、最新の論文とは、これまでの未開に一歩、二歩と踏み込んでいるもので、知らなくて当然のものばかりだから。
すでに知っているもの探す、というスタンスでは何も引っかからない。
未知に拒否反応が出るのは、それがコストだからだ、面倒だからだ。
もちろん、労苦から逃げていては生長はおぼつかない。

今回、チャリティ原則にのっとり勇猛果敢に攻め入った結果、『matrix metalloproteinase-2 activity』について理解できたし、何より、この論文がめちゃくちゃ重要だということを知った。
この論文をノイズとして無視しなくて、ほんとうによかった。
筋力トレーニングをするということは、歩行を変える、関節運動力学を変える、云々・・・、の前に『組織の異化・同化傾向』を変えることをが分かった。
これは、すごいことだ。
すなわち、関節病態運動や歩行運動がまったく変わっていなくても、よくなる可能性がある、ということ。
膝OA患者にとって、筋力トレーニングはマクロな現象自体の改変に加え、ミクロな細胞代謝傾向を変えている、ということ。
この方面においては、力学的な仕組みは分からなくても、闇雲に筋トレをすることにだって、意義が見出せる。
The EIM (exercise is medicine)、である。

未解決な問題について、解答を探し求めるのは不合理だ。
もし求めている解答を知っているのなら、初めから問題など存在しなかったことになる。
もし探し求めているものが何かを知らないなら、問題を見出し、解答を期待することすらできまい。

~プラトン「メノン」~

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

#最近の学び

182,202件