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非投球側上肢の使い方。指導で約10km/h球速アップ!

📖 文献情報 と 抄録和訳

利き腕と非利き腕のオーバーハンドスローによるボール最大速度に及ぼす非利き腕の関与の影響:パイロットスタディ

Weisberg, Alanna, et al. "Impact of Engaging the Nonthrowing Arm on Maximal Ball Velocity From an Overhand Throw With Both the Dominant and Nondominant Arms: A Pilot Study." Journal of Motor Learning and Development 1.aop (2022): 1-18.

🔗 DOI, Google Scholar

[背景・目的] オーバーハンドスローは、多くのスポーツや活動の基礎となる複雑な全身運動スキルです。正しく投げる場合、動作を完了するために生成された勢いは、下半身から始まり、体幹を通して投げる腕に伝わる。この概念実証研究の主な目的は、利き腕と非利き腕を使ったオーバーハンドスローの際に、非投球側上肢がボールスピードに与える影響を評価することであった。

[方法] 18名の参加者(年齢:20.20±2.90歳、女性9名)を2つの介入群に分けた。すなわち、身体に向かって引っ張ることによって非投球側上肢を関与させるよう指導した引っ張り群と、コンポーネントベースの体育カリキュラムを用いてオーバーハンドスローを指導した非引っ張り群である。各参加者は、左右(利き腕と非利き腕)それぞれ6回ずつ、合計12回の投擲を行った。ボールスピードと運動学的データは8カメラ動作分析システムを用いて収集され、事前-事後研究デザインで評価された。

✅ 非投球側上肢への介入方法
- まず、参加者は肩幅よりやや広めに足を踏み出し、つま先をポールに向けて立つよう指示された。
- 次に、参加者は足を肩幅に開き、膝を少し曲げて立つように指示された。
- 参加者は、レジスタンスバンドの自由端を利き手でない投げ手でつかみ、抵抗を感じるまで後方に移動するよう指示された。
- 参加者は、利き手でボールを持ち、耳の後ろに合わせた頭のすぐ後ろで、肘を出し、「L」字に近い形にするように指示された。
- その後、利き手でない方の腰の方向にバンドを引き、投げる腕を前に出すと同時に、ボールを放つ。
- また、ボールを投げる際には、一歩前に出るように指示した。投げ終わったら、投げていない側の股関節に向かってフォロースルーをするように指示した。
🌍 参考サイト(著者の修士論文:full text +)>>> site.

[結果-結論] 利き腕と非利き腕の両方で投球した場合、2つのグループは事前・事後ともに有意な改善を示した(介入群:57.9±4.2→68.4km/h)。効果量の比較から、非投球側腕の関与は、最大球速に有意な差をもたらすことがわかった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

今日、4月8日のニュースで大谷翔平が「今年からグローブの大きさを5mm大きくしました。」と言っていた。
その5mmで変わる何かが、あるのだろうと思う。
投手にとって、非投球側上肢の関与が重要であることを物語っている。

今回抄読した研究は、非投球側上肢を引きつける練習を行うと球速が増す、ということを明らかにした(野球選手のような投球の熟練者が対象ではないことに注意が必要。今後は野球の投球者を対象とした介入研究の実施が望まれる)。
非投球側上肢には、2つの役割があると思っている。
「Dam機能」「Pull機能」だ。

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▶︎非投球側上肢の機能①:Dam機能
こんな研究を知っている。
「非麻痺側上肢を紐で縛り付けて投球したら、どうなるか?」を調べた研究(📕 Ishida, 2004 >>> doi.)。

スライド2

その結果、球速が低下し、下部体幹に対する上部体幹の捻れ角が小さくなった。
こういう、わかりやすい研究は好きだ。
この研究が示したように、非投球側上肢は上部体幹が開放されないように抑止をかける(肩関節内旋、肩甲帯上方回旋、外転)
この、主に上部体幹回旋の抑止-開放のコントロール機能を「Dam機能」と呼んでいる。
その抑止により、大きな下部体幹-上部体幹ギャップを作り出し、球速に貢献すると思われる。
下部体幹-上部体幹ギャップが球速に貢献することは、機械学習を用いた最新の研究で明らかとなっている(📕Nicholson, 2022 >>> doi.)。

▶︎非投球側上肢の機能②:Pull機能
これが、今回の研究が示唆した部分。
上記、Dam機能によって上部体幹は開放されるが、その開放されたエネルギーを更に増大させようというのが、このPull機能だ。
非麻痺側上肢を引きつける(肩関節外旋、肩甲帯下方回旋、内転)ことで、投球方向への上部体幹回旋を加速させる。
この練習をすることで、約10km/hの球速アップが可能となったわけだ。

投球動作は、各セグメントのエネルギー発揮の量とタイミングによって、最終的にボールに伝えられるエネルギー量が規定される(運動連鎖、Catch-up theory、etc.)。

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その中にあって、上部体幹回旋の水流をどこまで貯留して、どこから開放するか。
その機能を担う非投球側上肢は、キーセグメントだと思う。

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