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No Pain No Gain。疼痛を伴わないとPADの歩行能は改善しない

📖 文献情報 と 抄録和訳

下肢末梢動脈疾患患者における虚血性下肢症状あり/なしのペース配分での歩行運動が機能的パフォーマンス指標に及ぼす影響。LITE無作為化臨床試験

📕Hammond, Michael M., et al. "Effects of Walking Exercise at a Pace With Versus Without Ischemic Leg Symptoms on Functional Performance Measures in People With Lower Extremity Peripheral Artery Disease: The LITE Randomized Clinical Trial." Journal of the American Heart Association 11.15 (2022): e025063. https://doi.org/10.1161/JAHA.121.025063
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🔑 Key points
- 末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease, PAD)を対象としたランダム化比較試験(RCT)LITEのpost hoc解析
- 下肢疼痛などの虚血性症状が誘発されるペースで行う高強度歩行運動は、下肢症状が出ない低強度歩行運動と比べて歩行速度や下肢機能を改善することが示された。

[背景・目的] 末梢動脈疾患患者において、虚血性下肢症状を誘発するペースでの歩行運動が歩行速度とShort Physical Performance Battery (SPPB)に及ぼす影響を評価するために、LITE(Low Intensity Exercise Intervention in Peripheral Artery Disease)無作為化試験のポストホック解析を行い、虚血性下肢症状なしの歩行運動と運動しない対照群と比較検討した。

[方法] 末梢動脈疾患患者を、虚血性下肢症状を誘発する在宅歩行運動、虚血性下肢症状を伴わない在宅歩行運動、または運動しない対照群に無作為に割り付け、12ヵ月間実施した。アウトカムは、6ヵ月および12ヵ月後の4m以上の歩行速度の変化と、SPPB(0~12、12が最高)の変化とした。264名(女性48%、黒人61%)が参加した。

[結果] 虚血症状を伴わない歩行運動と比較して,虚血症状を誘発する歩行運動は,6 ヵ月後(0.056 m/s [95% CI, 0.019-0.094 m/s]; P<0.01)および 12 ヵ月後(0.084 m/s [95% CI, 0.049–0.120 m/s]; P<0.01)の 4 m 以上の通常歩行速度に改善を認めた。6 ヵ月後の 4 m 以上の早歩き速度の変化(P=0.03),12 ヵ月後の SPPBの変化(0.821 [95% CI, 0.309-1.334];P<0.01) に改善を認めた。対照と比較して、虚血症状を誘発するペースでの歩行運動は、6ヵ月後の4m以上の通常ペースでの歩行速度の変化を改善した(0.066 m/s [95% CI, 0.021-0.111 m/s]; P<0.01)。

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✅ 図1. 下肢末梢動脈疾患患者における虚血性下肢症状を誘発するペースでの歩行運動が、6ヵ月および12ヵ月後のフォローアップにおける通常ペースの4m歩行速度に及ぼす影響。

スライド3

✅ 図2. 下肢末梢動脈疾患患者において、虚血性下肢症状を誘発するペースでの歩行運動が、6ヵ月および12ヵ月後のフォローアップにおけるShort Physical Performance Batteryに及ぼす影響。

[結論] 末梢動脈疾患者において,虚血性下肢症状を伴わない快適なペースで運動歩行した人は,虚血性下肢症状を誘発するペースで運動歩行した人と比較して,日常生活での歩行速度が遅くなり,潜在的に有害な影響であるSPPBの悪化が認められた。虚血性下肢症状を誘発するペースでの在宅歩行運動は、運動をしない対照群と比較して、6ヶ月後の追跡時に4m以上の歩行速度の変化を有意に改善したが、この効果は12ヶ月後の追跡時には持続しなかった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

最近、容量依存効果『Does-dependent effect』という言葉をよく耳にする。
端的にいえば、質より量。
量をこなすことで、質がついてくる。
量をこなさなければ、効果はおぼつかない、という意味合いだ。

他方、強度依存的効果『Intensity-dependent recovery』という言葉もあることをご存知だろうか。
端的にいえば、強度。
強度が弱ければ、鍛わることはない、という意味合いだ。
今回抄読した文献は、PAD患者における強度依存的効果『Intensity-dependent recovery』を明らかにしたものだ。
そして、その強度を疼痛が生じる閾値より高いか、低いかという基準で見ている。

No Pain No Gain(痛みなくして得るものなし)
筋トレの効果と筋肉痛に対して使われたりする言葉。
すべてについて、言えることかもしれない。
一定以上の強度が加わらなければ、身体の超回復システムは作動し難い。

最近にエビデンスを鑑みても思うのだが、前提は「高強度は善」。
だが、全患者、全疾患に対して当てはまるかといえば、そうではない。
だから、臨床での判断に迷ってしまう。

「高強度を実践した方が良い患者を選別する」ためのダイヤグラムを作ってみた。

スライド4

■ パフォーマンス改善を目的としたものか?
・Yesの場合:高強度の方がいい
・Noの場合:強度は目的に応じて調整された方がいい(例. 身体活動量の領域においては軽負荷の運動の量を増やすことが推奨される場合もある)

■ 増悪リスクは低いか?
・Yesの場合:高強度の方がいい
・Noの場合:疾患特性、患者特性に応じて負荷量を調整(例. 進行したがん患者は負荷量が強いことで病的骨折のリスクが高まることがある)

■ 疼痛に対する心理特性は問題ないか?
・Yesの場合:高強度の方がいい
・Noの場合:疼痛を引き起こさない強度の方がいい(例. 疼痛に対する破局的思考が強い人は慢性疼痛に移行するリスクが高い)

虎穴に入らずんば虎児を得ず。
リスクを負わねば成功はつかめない。
だったら、リスクを負った方がいい。
ただし、リスクを負った方がいい患者は全員ではない。
その選択眼を鍛えること。

私はいつも勝つ確率が高いほうにベットする。
強いほうにベットする。

カイジ 石田裕美

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