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視覚障害と認知症リスク。参加・活動への大きな障壁

📖 文献情報 と 抄録和訳

2つの人口ベースの前向きコホートにおける視覚障害と認知症のリスク。UKバイオバンクとEPIC-ノーフォーク

Littlejohns, Thomas J., et al. "Visual Impairment and Risk of Dementia in 2 Population-Based Prospective Cohorts: UK Biobank and EPIC-Norfolk." The Journals of Gerontology: Series A 77.4 (2022): 697-704.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 視覚障害は、認知症の修正可能な危険因子として浮上している。しかし、視覚の客観的な測定と10年以上のフォローアップを行った大規模な研究は不足している。我々は、UK BiobankとEuropean Prospective Investigation into Cancer in Norfolk(EPIC-Norfolk)において、視覚障害が認知症発症のリスク上昇と関連するかどうかを調査した。

[方法] 両コホートにおいて、視力は「最小分解能角の対数」(LogMAR)チャートを用いて測定し、視力障害なし(≤0.30 LogMAR)、軽度(>0.3~≤0.50 LogMAR)、中度~高度(>0.50 LogMAR)に分類された。認知症は電子カルテとの関連付けにより確認した。60歳以上で認知症の既往がなく、目の測定が可能な人に限定した後、分析サンプルはそれぞれUK BiobankとEPIC-Norfolkの参加者から構成された。

[結果] UK BiobankとEPIC-Norfolkでは、11年と15年の追跡期間中にそれぞれ1,113人と517人が認知症を発症していた。多変量Cox比例ハザードモデルを用いると、視覚障害なしと比較して、軽度および中等度から重度の視覚障害のハザード比は、UK Biobankでは1.26(95%信頼区間[CI]:0.92-1.72)および2.16(95%CI:1.37-3.40)、EPIC-Norfolkでは1.05(95%CI:0.72-1.53)および1.93(95%CI:1.05-3.56)であった。

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✅ 図. 視覚障害の状態別にみた認知症の累積ハザード

[結論] この結果は、視覚障害が認知症予防の有望なターゲットである可能性を示唆している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

生まれたときから目が見えない人に、空の青さを伝えるとき何て言えばいいんだ?
こんな簡単なことさえ言葉に出来ない俺は芸人失格だよ.

江頭2:50

目が見えにくい、あるいは見えないことは、居住する世界がまったく変わってしまうということだ。
その世界は、おそらく経験しない者には、知る由もない。
今回の研究は、その世界の住人たちの認知症リスクが高いことを、縦断的に明らかにした。
考察の中では、「どうして視覚障害が認知症を引き起こすか」について、さまざまな要因があげられていたが、その中で、『身体機能・身体活動量』に着目したい。

📗 ミニレビュー:視覚障害と身体機能・身体活動量
- 緑内障、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症などの目の疾患は、運動量の低下と関連していることが、多くの研究により明らかにされている。同様に、視力が低下した人の身体活動レベルも低くなっている(📕Ong, 2018 >>> doi.)。
- 視野障害は、活動回数が268 636回少なく(p = 0.02)、1日あたりの活動時間が46.2分少なく(p = 0.02)、活動の断片化が3%多い(p = 0.009)(📕Cai, 2021 >>> doi.)。
- 緑内障の高齢者は、対照群と比較して移動性とバランス制御に障害があり、単眼の視野欠損の程度と日常の身体活動の低下に関連していた(📕Zwierko, 2020 >>> doi.)。

どうやら、視覚障害は、参加・活動にとって大きな障壁となっているようだ。
以前、抄読の考察のなかで『AP -Trigger』という概念が生まれた。

たとえば、犬は、飼い主を「犬の散歩」という「活動や参加に向かわせるトリガー」だ。
今回の視覚障害はその逆、障壁である。視覚障害があると、外に出る、友人と会食する、旅行する、などの活動・参加が強く制約される。
このような因子を、『AP-Barrier』と呼ぼう。

視覚障害がAP-Barrierになるのは、なぜだろう?
それは、この世界の住人の多くが視覚障害を有していないから、そういう人たちが作った世界だから、視覚障害世界に住んでいる人たちにとって動きにくい居住空間になってしまっているから、だろう。
・段差、見えないとわからない
・信号、見えないとわからない
・建物のドアが開き戸なのか、引き戸なのか、すぐにわからない
・・・、その他にも、視力障害を有さない者には想像を絶する障壁があるのだろう。

そんな患者さんに対して、以下のようなことを、平気でしていないか?
・紙面で自主トレーニングを処方している、しかも小さな絵・文字で
・とにかく、一方的に身体活動量の増大を要求する、環境障壁を顧みることなく
・テキストメッセージで何かをしようとする
・パブリックポストで目標到達度を掲示する

その視力障害を有する患者に、その方法がフィットしていないことは、気づいている、だろ。だが、なぜ視力需要の大きい方法のままで、いろんなことをやろうとしてしまうのだろう。
そのツールしかないから。
面倒臭いから。
時間がないから。
分かる、すごい分かる。いつも、直感ではそう感じている。
だが、それを超えることがすなわち、患者の期待価値を超えることだ。
超えよう!

世の中の大事なことって
大抵面倒くさいんだよ

宮崎駿

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